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エルマが、アリサとリーザのふたりと密談を交わした次の日、花屋に訪問者が現れたのだが、それは城下町の兵団の騎士たちだった。
彼等は三人で、なぜか武装して来店し、特に荒っぽいことをするつもりはないようだったが、春の花々に惹かれて来ていた他の客たちはこぞって恐れを成し、蜘蛛の子を散らすように退店していった。
その時エルマは母とふたりで切り盛りしていたが、エルマは、仕切りの奥の作業場で商品として出すための花々の剪定作業中で、騎士たちへの応対は、母が請け負うことになった。
何やら妙な気配がし、ハサミを置いて作業場を離れたエルマは、黒い装束の騎士たちの威容を目にし、肝を冷やした。
「お花をご所望でいらしたのですか?」、と母が気圧されたように尋ねる。
「ただの飾りの花なんぞに我々は、用はない」、といちばん先頭に立つ顔に深い切り傷の痕ふぁ目立つ騎士が傲然と言う。
彼は懐より一枚の紙を差し出し、「この種の薬草の栽培を依頼しに来た」、と続けた。
母はその紙を受け取り、目を細めて眺め、書かれている名前を呟くように読み上げた。書かれているのは薬草の名称のようだった。
――仕切りに隠れてこっそり窺うエルマは、彼等の容貌に強い見覚えがあった。忘れもしない。彼等はエルマがレックスの店を訪れた時に、彼の代わりに目にした男どもだったのだ。
「申し訳ありませんが、騎士様」、と母。「弊店では、この種の薬草は取り扱っておりませんもので……」
「では、新たに取り扱うようにすればよかろう」
「はぁ……」、と母は困ったように曖昧に返す。
「言うまでもないが、このグルンシュロスにおける統治権は、我々軍部にある」
「存じております」
「なれば御託は不要だ」
「つまり、わたくしはこれを命令として聞き入れなければならないと、そういうわけですね」
母の問いに、背の高い騎士たちは冷然とした瞳で見下ろし、沈黙するだけだった。
その態度に威圧され、母はにわかに慄然とし、承諾の意を伝えた。
騎士たちは感謝も述べず、ただ依頼の言葉だけを残し、去っていった。
彼等は帰ったが、いなくなった客足は、戻ってこないのだった。
ひとりで立ち竦んでいる母の方へ、エルマが歩み寄っていった。
「お母さん」
「……!! あぁ、エルマ」
母は放心状態で、娘の登場に妙に驚いた反応を見せた。
「さっきの騎士たち、何の用で店に来たの?」
「欲しい薬草があるみたいで、これ」
母が紙を娘に見せる。
「けど、うちではこれ、取り扱ってないの。そう伝えたら、あのひとたち、じゃあ取り扱うようにすればいいじゃないかって」
「えらく傲慢ね」
「えぇ。だけど、逆らうことは出来ないわ。わたしたちは格下だもの。それが、この町の決まり。決まりには、従わないといけない」
そう聞いて、エルマは憤りを感じていたが、自分たちが持っていると信じる慎ましさや善意を、騎士たちの傲慢さや唯我独尊さと対峙させても、歯が立たないに違いないと薄々、悟っていた。
エルマの中で、強さや猛々しさだけが偉いとされる、狭隘でケチくさい価値観に支配されたこの状況への違和感が、ますます高まっていくようだった。
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