さまよえるフリッツ【完結】   作:Yuki_Mar12

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第350話

***

 

 

 

 エルマの内緒話を聞いた夕、田畑ばかりの斜面にある伯父宅への帰路、リーザは彼女の聞いたという噂について考えながら、歩を運んでいた。

 

 彼女自身が過去罹った謎の病の症状と、噂で言われる劇物による中毒症状は、似通ったところがある。顔の赤らみと、高熱。リーザのものは結局、自然の経過か、あるいは少年フリッツの用意した薬の効果によって治ったが、劇物による中毒は、致命的であり、死んでしまうという。

 

 両者の詳しい比較が出来ない以上、異同の判断もまた出来ないが、症状が似通っているため、リーザにおいては、両者の間に関連性があるように思われるのだった。

 

 両者とも、ただの風邪がずっとひどくなった感じのもので、病にかかった者、劇物を服用した者は、高熱で意識が朦朧とし、体温の上昇にも関わらず、悪寒でブルブル震えるのだった。

 

 顎を指でつまむようにして下を向いて歩くリーザの視界は狭く、注意が散漫で、ふと彼女は、何かとぶつかった。

 

 リーザはびっくりして我に返り、目を上げると、ひとの姿を見た。

 

 男だろうか。女だろうか。ローブを頭よりすっぽり被っていて分からない。背はそこそこ高い。黒いローブはその全身を覆い尽くし、だけど、顔がチラッと覗いて、リーザとその者は、目と目が合った。

 

 彼女はしっかりとその瞳を見たが、中性的で、男女の区別が付かないのだった。ただ――垣間見える相手の顔の肌に、何か模様があるのを、彼女は見逃さなかった。刺青のような整った模様ではなく、もっと無秩序で、空を流れる雲に似た、意味の読めない形の模様だったように見えた。

 

 石垣のそばの道で、ふたりはすれ違おうとするところで、ぶつかった。

 

 何となく気まずい空気が漂い、ぶつかった後、しばらく微動だにしなかったふたりだが、やがてローブをまとった方が、小さい聞き取りにくい声で謝罪を述べて軽く会釈し、通り過ぎていった。

 

「わたしの方こそ、注意散漫でごめんなさい」

 

 そう言って振り向いたが、リーザの目は、満ちの上に、ひとつの人影さえ見えなかった。彼女の謝罪は、ただの虚しい独り言となった。その目に見えるのは、畑で農作業に従事する農夫の遠く小さい姿ばかりで、ローブをまとった人物は、すっかりいなくなっていた。

 

 呆然として、リーザは、自分が何を考えて歩いていたのか、その半分くらいの内容を忘れてしまった。そこで思い返してみるのだが、最早その時には、リーザには、結局、いたずらに考え事を弄していただけという気がした。ただ互いに共通点があるというだけで、関係のないもの同士をこじつけで無理矢理結び付けようとしていた気がした。

 

 その時、リーザの関心はエルマの噂にはなく、彼女がぶつかった相手のことに、対象が変わっていた。

 

 男だった。目付きや瞳の輝きでは分からなかったが、謝罪を述べた時の声ですぐにそうと分かった。女の高い声ではなく、男の低い重みのある声だった。

 

 彼が何者なのか、リーザは気になった。そして、互いがぶつかったことに関し、リーザは謝ったが、ローブ姿で、顔によく分からない模様のある彼も謝ったのである。ぶつかったことの非は、それぞれにあるということだ。

 

 彼も、彼女と同様、何か考え事を巡らして歩いていて、それに夢中で、正面より来る相手の存在に気付かず、ぶつかってしまったのではないか、そのように、リーザは推測した。

 

 

 

***

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