***
リーザの所在が気になって仕方がないアリサは、ある日、その家宅を訪問してみようと企てた。待てど暮らせど、リーザは姿を見せず、彼女のことについて、学校の教員は渋い顔で沈黙していた。
穏やかではないものの気配がすると虫が知らせ、ひとりきりでは心許なかった彼女は、味方として、妹のエルマを伴うことにした。ただの華奢な少女に過ぎなかったが、ひとりよりふたりの方が、断然安心だった。
花屋を留守にするので、彼女等は事前に父母に事情を説明した。父母も、彼女等の持つあり得る事態を思い描き、暗い見通しを持ったが、充分気を付けるように警告し、父は、畑仕事にひと段落付けた後、合流することを約束した。
春だったが、蒸し暑い油照りの日和だった。まるで夏のようなムシムシした空気が充満し、田畑のある傾斜地まで歩いて向かう姉妹は、汗が止まなかった。
「ねぇ、エルマ」、と姉。「わたし、この前レックスさんのことに言い及ぶだけ、言い及んだでしょ」
「うん」、と妹。
「わたしが言おうとしたのは、つまり、レックスさんのいなくなったことと、リーザのいなくなったこととが、お互いに類似してるんじゃないかっていうこと」
「わたしも、リーザさんのいなくなったことから、レックスさんのことを連想した。確証はないし、関連性がないことを祈るけど」
「リーザの家に行ってみて、どうなってるかっていうことよね。リーザがもし、重い病気を患ってずっと家で寝込んでるのだとしたら、病気は勿論よくないけど、いなくなったんじゃないって分かっていいし」
「そうだね」、と妹。
時折、花屋の客とすれ違う時があり、そういう時、エルマはよく声をかけられ、彼女は、愛想よく挨拶を返し、アリサもいっしょになって同じようにした。
「でも」、と、アリサが、客のひとりに挨拶した後、明るい表情を暗いものに転じさせて言う。「単なる病欠なら、家族が学校に連絡するはずなんだよ。学校には、連絡がない――ずっとないの」
「先生は、何か言わないの?」
「先生も、リーザが一体どうしたのか、最初は不審がってた。だけど、段々リーザの話題を避けるようになって、触れてはいけないものみたいに扱うようになった」
「それこそ不審ね。何か知っているのに、隠してるみたい」
「うん。隠してるんだと思う。それに、修道院学校の先生だし、きっと、『光』と繋がりがあるのはほぼ間違いない」
「『光』って、新しい教えの名前よね」
――グルンシュロスに出し抜けに流入してきた、新しい、それまでの土着の宗教にとってかわる宗教の名称は、まだ、その礼拝のルーティンの作法や強制的性質に比べ、さほど町全体に浸透しておらず、新興宗教らしく、町民の理解度にムラがあるのだった。(アリサの場合、修道院学校で入念に学習し、記憶させられるので、学校に行かない町民より、ずっと詳しく、新しい宗教について、知っているのだった。)
「『光』が裏で暗躍しているから、先生が進んでリーザのいなくなったことを口にしたがらないというのなら、リーザの件は、きっと、『光』の策謀によってお店からいなくなったレックスさんの事件と、多かれ少なかれ、関連性はあるんじゃないかな」
聞きながら、エルマは、額に浮き出た汗を手の甲で拭い、灰色に染まった空を見上げ、フゥとため息をした。
彼女にとっては、リーザもレックスも、気に入った、好ましいひとたちで、そんなひとたちが突如いなくなったことは、とても悲しいことであった。
真相を知りたいと思いながら、どこか少女らしい臆病さと怯えのために、足を突っ込まないできたが、いよいよ勇気をふりしぼるべき時がやってきたのかも知れないと、エルマは緊張で胸をドキドキさせて、感じるのだった。
***