***
友人の安否を確かめに行ったアリサとエルマは、城下町の中央を外れた傾斜地にあるリーザの家へ近付いてきていた。
ふたりは、リーザが無事であるという明るい見通しと、手遅れかも知れないという暗い見通しと、互いに相反する見通しを併せ持っていた。
針葉樹の固まりが、傾斜地のあちこちに点在している。青い下草の斜面の向こうには城下町を守る堅牢な城壁が見え、ふたりの展望の中に、リーザの家はあり、彼女等が行く、木製の柵が立てられた砂利の道が、家まで緩く湾曲して続いている。
外観には、変わった感じはないようだった。家はその他のものと同じく、この土地に馴染んでいる。誰かの出入りが見えることがなければ、損傷の跡が見えることもない。
「あれが、リーザの家」、と、アリサが指さして示す。破風屋根の、白い土壁のこぢんまりとした家。
「……」
妹は、姉の指差す方を沈黙して見つめるばかり。
姉は手を下ろし、「ねぇ」、と言う。「わたしたち、お父さんの来るのを待った方がいいんじゃないかな」
「わたしたちは、リーザさんの家がどうなってるのか、家にいるのかいないのかを確かめに来ただけ――たったそれだけだから、別に、わたしたちだけでも充分って気はするけど」
「それもそうか」
姉は妹の論に合点が行ったようだが、払しょくしきれない不安に、尻込みしているようだった。
しばらくボーッとしていると、ふと何かに気付いたように、アリサはハッとしたが、エルマが彼女を見つめているのだった。
姉の目に、妹の目は、不安を振り切り、果断に行動することを促してくるように映り、姉は、姉としてのメンツもあり、とうとう進みだした。
金属で加飾と補強を施されたアーチ型の扉の正面に立ち、姉妹の緊張感は高まっていた。
蒸し暑かったし、胸がドキドキと慄いていた。
気の扉はある程度の厚みがあり、耳を寄せてみても、中の音声を聞き取るのは困難だった。
リーザの家にはひとの気配があり、誰かがいるのは間違いないようだった。
――アリサにおいても、エルマにおいても、内心では、リーザの家に、リーザがいないという想像が、決して一笑に付すことの出来ない信ぴょう性と共にあった。リーザのいないことへの覚悟が、ふたりにはあった。ではリーザの代りに誰がいるのかという疑問にも、彼女等はそれぞれ自分なりに推測を立てていたが、その推測に確証を持たせるのは、非常に気重で、彼女等は、そうであると思われる真相を覚知しようとしていつつ、あえて忌避していたのだった。
だが、最早逃げられないところまでふたりはやってきており、みずからの意志で足を運んできた以上、後退は許されなかった。
固唾を呑み、アリサが、扉をコンコンとノックする。
「すみません」
すると、「はい」という返事が返ってくる。リーザの声ではない。
寒気がアリサの背筋を伝う。
把手が動き、扉が軋んでゆっくりと開かれる。
出てくるのが、リーザの面倒を見る伯父か伯母であればいいのだが、姿を現すのは……。
***