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エルマの脳裡に、ふとイメージがよぎった。
アリサがリーザ宅の表の扉をノックし、中から返事が聞こえて来、誰かが応対しに来るというタイミングのことだった。
それは、既視感だった。前に見た覚えのある光景が、エルマの目に映るものとオーバーラップしたのだった。
胸の鼓動が、苦しいほどキツく、激しく、それは、だが、徐々に昂進してくるようだった。
思わずエルマは、そばにいる姉の袖をギュッと握り、そこに込める力で、押し寄せてくる謎の不安感を相殺しようとした。
扉が開く。
現れたのは、リーザでなければ、伯父でも、伯母でもなさそうな男だった。
彼は、短いごま塩頭の髪の毛が束になってそれぞれツンツンに尖っており、顔色は悪く、目付きはジトッとしていて、印象はあまりよくなかった。その上体格が大きいことが、威圧感を醸し出していた。
男のまとう、夜の闇そのもののように黒い装束を一目見て、アリサとエルマは、瞬時にことの次第が悟られるようで、血の気が引いた。
「おや、可愛いお嬢さん方」、と男。「ここにどういった御用で?」
「わたしたち、友達を、訪ねに来たんですけど」
彼女には、紡がれる言葉のひとつひとつが、逐一喉に閊え、緊張がおのずと察せられた。
「友達……はて?」
男は手で顎を支え、首をひねる。どこか空々しい仕草に、ふたりの少女は不快感を覚える。
「いないのなら、いいんです。あれ? わたし、来るところ間違えちゃったかな……」
アリサは、抜けた感じを装い、独り言めかしてそう言うと、くるりと振り返り、軽くいとまごいを告げて立ち去ろうと進んだが、直後に肩を掴まれ、反射的に「ヒッ」、と短い悲鳴を上げてしまった。
「間違えではありませんよ、きっと。お嬢さん方が会いに来たのは、リーザという女の子なのでしょう?」
「……違います」、とアリサは苦し紛れに嘘で返す。「わたし、リーザなんて子、知りません。名前が違うんだと思います」
「おや、そうでしたか。それは、わたしのとんだ思い違いで、すいません」
アリサの肩を掴む手が離され、彼女はひとまず胸を撫で下ろす。
――傍らにいるエルマは、終始無言でおり、ずっと、逃げ出す機会を窺っていた。彼女は、家の扉が開いた時、奥の様子を目を凝らしてみてみたが、黒い装束の男が複数いて遠くから彼女等を睨んでおり、みずからの既視感が間違いでなく、これは、薬屋のレックスの時と同じ事態になっているに違いないと、敏活に推察された。
「では、失礼します。突然お邪魔して申し訳ありませんでした」
そう体半分だけ振り返って目を合わさず言うと、アリサは袖を握っているエルマと共に男の前を去った。
いっさい振り返らなかったが、アリサの耳には、いやらしい下卑た笑い声が、遠くに小さく聞こえてくる気がし、元々あった不快感が募った。
「早く帰ろう。エルマ」
そう言って、彼女は足取りを早める。
「リーザさんは……」、と、姉に引かれてぎこちなく進むエルマが呟く。
「リーザは、分かんない。分かんないけど……」
アリサは、その先を言及しようとして、直前で口籠った。
「探さなきゃいけない、と思う。実際には聞こえないけど、リーザは、助けを求めてるはず。どこかで」
そう、意気込みが口にされる。あるいは友人として、あるいは知人のお姉さんとして、親しみを寄せるふたりは、リーザのことに知らん顔を決められるほど、薄情ではないのだった。
だが、彼女の失跡の裏にうっすらと見え隠れする巨大な闇の存在に、彼女等は、戦慄を覚えるのだった。
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