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フェノバールに点在する新兵器を鹵獲するというわたしたちの今度の作戦は、短期決着が最重要項目だった。
作戦においては、『光』の戦力を削ぐことは度外視され、ただわたしたちにとって大きな脅威であるその未知の兵器の詳細を知る材料としての奪取だけが肝だった。
会戦という形での『光』との交戦はなく、出来れば隠密に作戦が進められればいいのだが、あまり楽観視は出来なさそうだった。
むしろ、作戦がきっと難渋するだろうという見通しを、作戦を立てた参謀を始めとして、多くの騎士たち・兵士たちは持っていた。
鹵獲の対象となる兵器は大きく、馬車の荷台に積むと、それだけで満載になるほどだし、大部分が金属であり、重量がかなりありそうだった。
従って、兵器を積載した馬車の進度は遅いという予測であり、鹵獲が成功した後の撤退は迅速でなければならないし、手厚い護衛が必要だし、きっと追ってくるだろう『光』を早い段階で撒かなければいけなかった。
戦前の晩餐が催され、大した食べ物はなかったものの、インベガより持ち出してきた酒があったお陰で、参加した者皆、陽気に盛大に過ごすことが出来た。キャンプファイアーを囲んだ広場で、それぞれ語らい、ある者は武功を立てると快気炎を吐き、ある者はインベガに残してきた女房と子供の自慢話をし、ある者は泥酔して居眠りし、ある者は酒精にぼんやりとしながら、作戦を想像し、憂色を浮かべていた。
フェノバールとインベガの共同戦線となるわけだが、近々の訓練を通じて、足並みが完璧に揃っているとは言い切れないものがあった。結局わたしたちは、インベガの者たちにとっては、異邦人であり、共通の相手に立ち向かうからという事情だけで、打ち解けられるのではないのだった。
だが、わたしたちは皆、独立した成人で、また男子なので、一度作戦が始まれば、きっと同じ目的のために、互いに協調して動くことが出来るのではないだろうかと、希望と共に思う。
インベガの者とて、この度の作戦が成功を収めれば、わたしたちフェノバールの者と同じく、大きな進展を得られるのだし、あまりケチくさい不安を想うことで、戦意や士気を削ぐものではない。ブレイズや王ギュンターを始めとして、上の人々は領土の違いを意識させない親しい関係をすでに築いているし、しょうもない言いがかりっをつけたり・つけられたりしているのは、心身共にまだ発展途上のわたしたち下っ端なのだった。
「みんな、はしゃいでるね」、とわたしは、酒のジョッキを片手に、隣のブレイズに言った。大笑いや下手な歌や叫び声が、晩餐が始まってずいぶん経つというのに、まだあちこちで聞こえていた。
「今夜は無礼講って感じだな。皆、羽目を外してやがる」、とブレイズ。彼もわたしと同じく、下草の地べたに座り、干し肉や豆を肴に、酒を飲んでいた。
わたしの木のジョッキには、半分くらいのところまで酒があったが、次の分は飲まず、寝ようと思った。眠たかった。
「ぼくには無理だな」、とわたし。「だってやっぱり、作戦が不安だもの」
「だからじゃないのか」、とブレイズ。「不安だからこそ、ああいう風にバカ騒ぎして、その勢いで打ち消そうとしてるんだよ」
「そうなのかな。じゃあぼくも、歌ったり叫んだりするのがいいのかな」
「さぁな。不安の鎮め方は人それぞれだ。お前は、内気だから、そういうのは苦手そうだな」
ブレイズの言う通りだった。いくら不安でも、わたしは、あまり目立つ真似はしたくなかった。したところで、きっとうまく出来ないに違いない。だから、おとなしく不安に苛まれていようと思った。
夜が更けていた。夏のムッとした夜の空に、三日月が浮かんでおり、満天に星々が瞬いている。
今頃インベガでは、ミアは、もう寝ているのだろうか。
目を閉じると、眠気がガツンと頭に乗っかってくるようだった。
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