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高い城郭のいただきまで届く攻城を目的とした器具である梯子は、使用の直前までは、分解された状態で保管されていた。実際に使用する状況になってから、組み立てて使われるのである。
梯子の組み立てが済むと、複数の梯子の合体したものがたわまないように大人数で支え、わたしもその一員だった。そして、積まれた石で成る城壁の真ん中くらいの微かに突出している石に引っかけると、先端が上に向かうようにズルズルと押していった。
すでに梯子にはひとりの尖兵がいて、彼は人々の持ち上げる梯子の先端にがっしりとしがみついているが、高所でも物怖じしない者しか、その役目は絶対に務まらなかった。
皆で一本の梯子を支え、尖兵はいよいよ城郭の通路に上がり、最初の一手が実行された。
下にいる一同は息を呑んで、次の展開を待ち受けた。
やがて、合図の木の実が落下して来、それは、上がってもよいというしるしであった。
「よし、城壁を上がれ」、と指揮官の騎士が言い、腕を回す身振りをして見せる。
指示を受け、兵士たちが続々と梯子を上りだし、わたしも彼等に続いた。
梯子の桟を手で掴み、足で踏んで少しずつ上がっていくと、梯子が風とひとの力で振動したし、上がるひととひとの間隔が短すぎると、長い梯子がたわんでポキッと折れそうになったし、上りながら、わたしは肝が冷えた。
わたしがやがて頂上まで来ようとしたタイミングで、上方で物々しい声がした。
ドキドキしてわたしが城郭の通路に上がると、衛兵らしき男が倒れていた。彼が持っていた、転がったたいまつを、一番乗りの尖兵が踏み付けて消火する。
「叫ばれる前に息の根を止められてよかったよ」
と、彼が呟くが、わたしは安堵するどころか、剣で刺殺された死体を眼下に見下ろすことで、血の気が引いていくようだった。
「とりあえず、城郭の上を占拠しよう」、と尖兵。「作戦の概略はすでに聞いていると思うが、そういう手筈になっている。くれぐれも隠密に動けよ。ギリギリまで感付かれる時機を遅らせるんだ」
「分かりました」、とわたしは、その他のじっと耳を傾けている兵士を代表するようにして応答する。「後進は待たなくてもよろしいのですか」
「ここで全員が上ってくるまでぐずぐず待っているわけにはいかないだろう。その間に、別の衛兵が早晩きっと来るに違いない。ヤツらにおれたちが見つかる前に、おれたちがヤツらを先に見つけて暗殺していくんだ」
「暗殺……」
「とにかく、さっさと散らばれ。ここでこうしてウジャウジャしてると、悪目立ちする」
彼の勧告で、わたしたちはめいめい動き出した。ある者は城郭の通路の一方へ行き、ある者は城郭の通路の別の方へ行き、ある者は、櫓の出入口を通って階段を下りていった。
わたしは、ブレイズのいる後進の様子が知りたくて、城郭に残ることにした。
夜中でやや眠たくてぼんやりしていると、誰かのびっくりする音が聞こえたが、すぐに静寂が戻った。
きっと、また誰かが死んだのだ。
その方に目を向けると、通路の地面に近いところがほのかに明るく照っていて、たいまつのようだったが、一瞬の内に消え、散っていた夜の暗闇が、灯火のあったところに集合した。
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