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物見塔の螺旋階段を下りながら、わたしは、下方よりひとりの敵兵の上ってくる、その頭を見た。
衛兵が巡回のためにその順路を回っているだけなのか、城郭が不審と思われて様子を見に来たのか、定かではない。
わたしは階段の途中で立ち止まり、壁にピタリと背中を付け、気配を殺す。急速に緊張感が高まって来、口の中が乾燥し、苦い液体が分泌されたようにまずくなる。
腰に帯びている剣の柄に手をやり、臨戦対戦を整える。
幸い、この螺旋階段、階段の中央に軸というべき柱があり、お互いに右利きである場合に限るが、上にいる方は軸のない側に、下にいる方は軸のある側に、武器を構えねばならないので、上にいる方が圧倒的に有利だった。
相手が段々と近付いて来、わたしは、間合いをはかって、繰り返しうまい仕留め方を考え、意図的に殺意を高めた。
そして、相手がいよいよ気付くか気付かないかの内にわたしがみずから彼等の目の前に現れてびっくりさせ、その動揺の内に急所を突いて殺害した。
障害が取り除かれたと知ると、わたしは、横たわる死体を跨いで越え、一気に階段を駆け下りた。
後進のブレイズのことが気になったが、わたしは強いて考えないようにした。わたしたちの作戦が少しでも前に進み、一刻も早く終わることを念頭に、わたしは動くことにした。
高い城郭のてっぺんと地上を貫く階段は長く、わたしは駆け下りながら、息を弾ませた。
そして、アーチ型の出入口を通って、城郭の内側へと出た。
他にもここまで下りてきている者がいるのだろうか。辺りはひっそりとして、夜中に相応しい雰囲気が充満している。皆、きっと家で寝ているに違いない。夜警の勤めがある者だけが、この暗がりの中、蠢いているのだろう。町の通りには、灯火などの気の利いたものはなく、ほとんど完璧な真っ暗闇だった。
視界がすこぶる悪いが、戦災で荒廃したフェノバールの様子が、わたしの目にぼんやり見える気がした。瓦礫が散らばっており、目に見える建物は、角が欠けたり、ヒビが入っていたりしている。
当時わたしの嘗めた、敗北と逃走の悲しみと、死への恐怖が、こういう風景を見ることで蘇ってくる気がした。誰かが叫んだり号泣したりする声、武器と武器がぶつかるガチャガチャいう音、血のにおい……。
胸を拳で圧迫して、その力で不安を抑えながら、半ば放心して歩いていると、ふと、通りのど真ん中に露店のようなものが、通路を牛耳るように置かれているのが見えた。
それは、布の覆いをかけられていて、中身が隠されている。
シルエットを見ると、露店のものというには上端があまりにも低いところにあり、地表付近の覆いのないところに車輪らしきものが覗いており、もしやと思ったわたしは、周りの目を確かめ、その布の中へと潜り込んでみた。
わたしを動かした閃きは、的中していた。中身はあの兵器だった。車輪の付いた木製の台に、金属の筒が載っている。新円の筒ではなく、やや傾斜がかかった形状になっている。
車輪が付いているのであれば、このまま押すなどして運べるのではないか? そう考えたわたしは、さっきまでの感傷など忘れ、城門の方に向かって、兵器を両手で押してみようとした。
だが、兵器の重量があまりにもあり、ほんのちょっとは動いたが、精一杯踏ん張るわたしの足が反動でずれたし、車輪は一回転さえまだしていない。
応援を呼ばなければならないか、とわたしは面倒に思った。城郭の者が、数名でも、地上まで下りてきてくれればいいのだが……。
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