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まだ、わたしたちの目論見は明るみに出ていない。辺りはしんと静まり返り、争乱の気配は皆無である。
だが、いつまでも安心安全というわけには行かない。追い風が吹き続けるという楽観論にわたしたちが心を許せば、今回の作戦はたやすく頓挫してしまうだろう。
わたしは単独での兵器の運搬を断念し、わたしが下りてきた物見塔の出入口まで急ぎ、戻ることにした。
ひとの気配が乏しいとはいえ、隠密行動は怠らないようにし、わたしは、壁から壁へ、陰から陰へ、とにかく目に付かないことに細心の注意を払い、動いた。
途中、わたしはある家屋の壁の端より、壁に背中を付け、周りの状況を窺ってみた。
すると、ふと、カンカンとけたたましい音が鳴り渡った。鐘の音だ。わたしは瞬時に状況の暗転を知るようだった。
「敵襲!」
叫び声が上がる。
狭苦しい路地裏を抜け、城郭のてっぺんに目をやる。すると、城郭のてっぺんの内一部が、たいまつか何かでポッと照っている。
あそこで戦闘が始まったようだ。
最初の鐘の音が周囲に波及し、あちこちで同じ音が鳴り、城下町全体に、緊急事態が知らされる。
わたしが思ったより、追い風は早くやんでしまったようだ。
単独でいるわたしはとにかく仲間と合流しようと駆け出したが、すぐさま数人とでくわした。わたしと同じ下級兵士のようだった。
「まずいことになった。逃げるぞ!」、と内ひとりが、わたしを誘って言う。彼は肥満体で、緊張なのか暑い夜気のせいか、汗を流している。
「待ってください」、とわたしは引き留めようとし、再度駆け出そうとした彼等は忌々しそうにわたしの方を振り向く。
「作戦はまだ続行中です。その許可も出ていないのに、逃げるわけには……」
「ここではおれたちは圧倒的に不利なんだ。大体、兵器が見つかっていないんだよ!」
「兵器は、見つかりました」
全員、唖然としてわたしを見る。
「本当か?」
「えぇ」、とわたしは頷く。「ひとりで運ぼうとしてみましたが、いかんせん重くて、ダメでした」
「チッ」、とさっきの太った兵士が舌打ちする。ずいぶん険しい顔だ。
「兵器はどこにある?」
「ぼくの来た方にあります。覆いがかけられて。仰ればご案内しますが、どうなさるおつもりで?」
「そんなの決まってるだろう。運ぶんだよ。ただ逃げるために忍び込んだんじゃ、格好が悪いからな」
「……了解しました」
わたしたちの目論見が、作戦が、侵入が、とうとう発覚したこのタイミングでは、わたしたちが何を成そうとしても、悉く不利だろう。
「人手はどれくらい要る? 兵器はどれくらい重い?」
「いればいるほどありがたいです。兵器は、死ぬほど重いです。きっと護送という形で運ばれることになると思います。だから。兵器の運搬の人手と共に、彼等を護衛する人手が必要です」
「成るほど、分かった」
そう言って太った彼は、別の兵士に簡単に指示を出した。兵士は承諾し、わたしたちのもとを去っていった。
「たくさん連れてくるといいんだが」
と、太った兵士が、わたしと、他の残った兵士と共に、去っていく仲間の後ろ姿を見送って、些少の不安を込めて言う。
「さて、おれたちは運搬を急ごう。さぁ、案内してくれ」
ウカウカしていられなかった。わたしは「付いてきてください」と言って駆け出し、兵士たちは後を追ってきた。
有事を知らせる鐘声は尚、大音量で響いている。間もなく、防衛のために『光』の者たちが大勢やって来、夜中の町全体に出張ってくるだろう。
遠征で来ているわたしたちは、彼等と真正面から戦うつもりはない。出来れば戦闘は避けられたいが、この先の展望は、明るいものだとは決して言えなかった。
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