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混乱した町の、切迫した状況の中、わたしは仲間の兵士たちを兵器のあるところまで連れてきた。
わたしはかかっている覆いを除け、兵器の全体像が見えるようにした。
「おれは初めて見るが、どういう構造になってるんだ?」
太った兵士が、しげしげと兵器を観察して言う。他の者たちも、緊張でオロオロしながらも、些少の興味が隠し切れないようだ。
「細かいことは分かりません」、とわたし。「兵器は木の台車に載っていて、移動させることが可能です。今はとにかく、城門に向けて動かしましょう」
「ようし分かった。皆も、いっしょに押すんだ」
彼の号令で、彼を含む何人かが兵器のそばに密着して両手を付け、「せーの」という掛け声で押し始める。すると、わたしが単身押していた時とは比べものにならないほどの推力で、台車の車輪がコロコロ転がり出す。
そばで突っ立っているわたしと他の者は、茫然と感嘆したが、太っている彼の体格は、伊達ではないということだろう。
「おれたちが運ぶから、お前たちはおれたちを守ってくれよ」
「はい!」
わたしとその他、兵器を押さない者たちは、台車の周囲に均等に散らばり、護送の形を取る。
最初は仲間たちが合流して来てくれるのだが、途中から敵が襲って来、わたしたちは都度応戦した。
あらゆる方面から敵はやって来、必ずしもわたしたちが彼等をうまく退治出来るとは限らず、相手が手ごわいと、台車を囲む編隊の内の一部が戦闘への集中を余儀なくされ、その部分が手薄になるということがあり、形勢は二転三転した。
合流してくる仲間の数が、来襲する敵より多ければ有利なのだが、いかんせん、場所が敵の拠点なので、そういうわけにはいかなかった。
わたしたちは移動と敵への応戦とを同時に並行してやっていったが、いよいよ立ち止まらざるを得ない状況まで追い込まれ、兵器を押していた人員は、ひとまず移動を中止し、周辺で繰り広げられる戦闘のために散った。
こうしていてはじり貧だとわたしの内に悲観が芽生えたのとほとんど同時に、ドカンという、空気が震えるほどの音が、わたしの心臓を縮めた。
近くで爆発があった。――わたしたちが今まさに持ち去ろうとしている兵器が、わたしたちを駆逐するために使われたのだと、わたしには直感された。
わたしが剣と剣を交わしている相手の男が、「盗みとは、卑怯なり」、と叫ぶ。
わたしは、だが、気圧されるわけにはいかないのだった。
わたしと彼は鍔迫り合いに入ったが、途中、わたしは身を若干引くことで彼の力をいなし、彼はつんのめり、その隙に、人体の急所にサッと切り込みを入れ、打ち倒した。
だが、敵はまだまだ近くにはびこっているし、更に増える見込みなのだ。
いっそ逃げるべきか、とわたしが思いかけたその時、駿馬がその物凄い勢いで空気を波立たせて、わたしたち、敵・味方の入り乱れる中を通り抜けていった。
「――ブレイズ!」、とわたしは、自分が彼を認識するかしないかの内に叫んだ。
彼が来たのだ。城門は開放され、出入りが可能になったようだ。
ブレイズは、わたしの呼び声は届かなかったかのように、乗馬したまま、あちこち走り回り、敵を動揺と混乱で掻き回していく。
彼のお陰で、付近はある程度清められた。
「フリッツといったか」、とわたしは不意に話しかけられる。
わたしのそばに、いつの間にか、参謀の姿がある。鎧ではない軽装の、知性的な顔立ちの男だ。
「劣勢は当面覆った」、と彼。「ブレイズの武勇のお陰さ。彼が作ってくれたチャンスを潰すわけにはいかない。さぁ、兵器を運ぶぞ」
わたしは頷き、今度は、わたしも兵器を押す役を担う。この短い間に、戦死して脱落した者がいるらしいことが見て取れた。あの太った兵士は手傷を負っているが、まだ大丈夫そうだ。感傷に浸る暇などない。とにかく体を動かすしかない。
エイ、エイという掛け声と共に台車を動かしながら、ふとそれまでの重みが和らぐ瞬間があり、不思議に思って見てみると、台車の前方にも、ひとがいるのが見え、彼等は紐を台車に括り付けて引っ張っているのだった。
戦火に埋め尽くされる夜の町の風景の彼方に、城門が見え、後ちょっとで外に出られるのだと思うと、胸が高鳴ったが、刹那、またドカンという音が鳴り、今度は、近かった――。
わたしは爆風に吹き飛ばされて、頭を打ってうつ伏せでぼんやりしている中、ガバッと両手で地を付いて上半身を持ち上げ、状況を確認した。兵器が横転しており、周りに仲間が倒れている。
「……」
中にはあの太った力持ちの兵士もおり、彼は、ぐったりとし、事切れているようだった。
感傷をみずからにかたく禁じていたわたしは、どうしようもない悲しみと体の痛みに悶絶した後、余力を振り絞って立ち上がり、兵器を立て直そうとそのそばまで行った。
わたしのように、吹き飛ばされながらも健気に起き上がってきた仲間が何人もおり、挽回はまだ出来そうだった。
倒れた兵器を元に戻し、再び車輪を転がす。いささか損傷しているらしく、台車の進みが悪いが、構わずにわたしたちは押して進んだ。
体のあちこちが熱い。きっと大なり小なり体が負傷しているのだろう。だが、わたしを含めて皆、ツラい状態の中、狂ったようにゼエゼエ言いながら、諦めずに、兵器を前へと進めるのだった。
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