***
台車を押し進めていくわたしたちの中には、さっきの爆風で深手を負って途中で力尽きて倒れる者があった。
彼等の命運はそこまでだった。この切迫した局面においては、わたしたちは救助のために引き返すわけにはいかないし、彼等の生命力も、風前の灯のようだった。
わたしは彼等が落ちこぼれないように救おうと足を止めたかったが、その思惑を見抜かれて、近くの兵士にやめろと呶鳴られ、断腸の思いで前を向き続けた。同情など、無価値だと自分に対して、まじないのように何度も言い聞かせた。
敵方の兵器の爆撃によって、周囲は敵味方諸共吹き飛ばされ、ひとの密度が下がった。敵はわたしたちを滅殺するつもりで爆撃してきたのだろうが、かえってわずらわしい戦闘が省かれ、好都合だった。
とはいえ、援軍はじき訪れるに違いなく、どの道わたしたちが不利であることに変わりはなかった。
兵器を押しながら、この物体の重みが憎たらしくして仕方なかった。早くこの戦いと仕事から解放されたくて、わたしは、この激闘の最中に空想が浮かんでうつつを抜かしそうになった。
夜空には星々。真っ暗だったはずの辺り一帯はぼやで点々と明るい。
わたしだけでなく、他の者も、体の損傷及び疲労でもうダメだと脱力しかけたその時、馬蹄の音が近付いてきた。
振り向くと、あちこちに煙が風になびいて昇るのが見えた。味方の騎兵が手に何か持っていて、煙はそれより立ち昇っている。わらのようだ。
「煙幕だ! この機に一気に距離を稼げ!」
ひとりの騎兵が叫んで回った。彼等はその辺に火の点いたわらを投げ捨てていき、辺りは煙で濛々と白みだした。だが、煙の昇るわらはわたしたちの後方に限って散逸し、我が方は目くらましで敵方を攪乱しているようだ。いささか煙が目に沁みたりするが、進行方向は冴えて見える。
わたしたちは「せーの」、という掛け声と共に、城門まで精一杯兵器を押していき、そうしてとうとう、城外へと抜け出ることに成功した。
「まだだ! まだ手の力を抜いてはいかん!」
という叫び声が聞こえ、わたしはない力を振り絞り、奮起する。
だがやがて、城外に控えていた後詰の兵士たちがわたしたちの輪に参加して兵器を押す役を交代してくれ、わたしはようやく、一時的ではあるが、力仕事より解放され、人心地付くことが出来た。
とはいえ、わたしたちと『光』の交戦は各所で繰り広げられていて、すっかり安んじることはまだ出来ないのだった。
比較的安全なところに退避していた自然科学者たちが、わたしたちに加わり、城外に出てきた兵器を早速調べるため、わたしたちの運搬を邪魔しない形で、目視で各部を確かめている。
ふと、「フリッツ!」、と大声で呼ばれ、わたしはびっくりする。
「無事か?」
乗馬したブレイズが、そばにいて、わたしを心配するように見下ろしている。
わたしは苦笑し、「分からない」、と答えた。「ここまでこの重たい兵器を押したし、自分の足で歩いてこられもしたから、大丈夫だとは思うけど、爆風に飛ばされて、体中が痛いんだ」
「見た目では分からなくとも、内部が損傷している可能性がある。無理するなよ」
わたしはうん、と頷いて返したが、ブレイズは、報告を持って駆け寄ってきた騎士とのやり取りに気が逸れてしまった。
どうも、この兵器を中心にこれより撤退を開始するのだそうだが、きっと手厚い勢力で追ってくる『光』をどうやってわたしたち連合軍が退けるかが課題だった。
奪取した兵器の運搬も、いつまでも人手でというわけには行くまい。わたしたちはベースキャンプを越え、出立してきたインベガまで帰還しなければならないのである。兵器の乗ったやや傷んだ台車に数頭の馬を繋ぐか、新たな台車として馬車を用意してその上に積載するかして運ばねばなるまい。
だが、着実に、わたしたちの歩みは前に進んでいる。一歩一歩がまことに難儀であるが、その困難を凌ぐ気力がなければ、わたしたちには明るい未来はないのである。
***