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平和な夜だった。
合流したぼくたち、旅の一行は、宿をとり、宿がしばしば兼ねている居酒屋でお腹を満たし、後はそれぞれ好きに過ごした。
ベッドは二人用で、枕が二つあったが、やはり、リーザ嬢が単独で使うことになり、他の者は皆、ぼくも含め、慎ましく譲った。そもそも、誰がこの二人用のベッドを使うかという話し合い自体あったわけではなく、端から令嬢がほしいままに占領し、ぼくらは彼女の意を甘んじて受け入れたというだけのことだ。
ベッドからはじかれたぼくら、ちょっとした難民のような男どもは、よそで寝ざるを得なかった。といっても、事前に予想出来たことではある。とりあえず、からだを冷やさないよう、人数分のブランケットだけ調達して、コンラートさんは、ベッドのそばに、ブルーノとぼくは、部屋の出入口付近に、それぞれ横になる位置を取り決めた。
「ずいぶん渋られたんだぜ」
と、居酒屋でブルーノが話していた。夜の居酒屋は果然、活況だった。
ブルーノは前ほどは飲酒しなかったのが珍しかった。令嬢の手前、取り乱したりしないよう配慮したのだろうか。甘い果実酒をチビチビ飲んで、せいぜいほろ酔いといった具合だ。
「受付で交渉したんだけどさ、二人用の部屋に四人も止まられたんでは困る、だってさ」
リーザ嬢はオーダーしたチョコレートケーキを、いかにも上流らしく品よく、フォークとナイフを使って食べている。たいそう気に入ったらしく見える。
コンラートさんは、お年なのであまり量は食べず、また、食べる速度がゆっくだったが、その内食べ終わったのだろう、今はうつらうつらと舟を漕いでいる。
「まぁ」、とぼくは顎を持って考える風に返す。「宿のひとの言わんとすることも分かる気がする」
「要は、本来は倍取れる料金を半分にしてくれっていうんだからな」
「うん、ぼくたちがね」
「まず金の問題があるし、それに、令嬢とコンラートさんを二人だけにしておくっていうわけにもいかないだろう。まぁ、誰かが宿の部屋に忍び込んで悪さするっていうことはほとんど考えられないんだがな」
「それでも、念には念をっていうことで、一部屋にまとめさせてもらったんだね」
「結局、料金は割増で取られちまったがな」
「そうだったんだ。交渉失敗したんだね」
「それでも二部屋借りるよりは断然安いんだぜ」
リーザ嬢は、特に不満がることがなかった宿の部屋だけど、その実は狭かった。何せ二人用なので、四人のぼくらが入れば、要するに二人がオーバーなのだ。あまつさえ屋根裏部屋で、窓が小さく、なおさら狭いように見えた。
まず入口の扉より入ると、短い通路があり、壁際にクローゼットが置いてあり、そのすぐそばにふたつの椅子に挟まれた長細いテーブルがある。ベッドはそのクローゼットから椅子までの間と同じ幅で、それらの家具と、通路を挟んで向かい合わせになっている。後のスペースはないといってよい。
こういう具合なので、この部屋においてひろびろのびのびと過ごせるのはリーザ嬢、ただ一人だけであり、彼女が占領するベッドの横で寝るコンラートさんは、ベッドの物陰に丸太のように横たわって隠れる恰好になり、ぼくらは入口付近の通路をすっかり塞いで、足の踏み場のないようにしてしまうのだった。
小さい、真っ暗の、夜中の屋根裏部屋の、そこしかない窓の枠には、ぼくがその火を消してしばらく経ったランタンが置かれている。
まだ火の気配が消え切らない、うっすらとしたその名残りがある中、ランタンのシルエットが、真っ暗闇にあって、何となく、見えてくる感じがするのであった。