***
戦で負ったわたしの傷は、当初、わたしの運動に大きく制限を加えていて、きちんとしたやり方で治療が行わなければ、あるいはわたしの体には何らかの障害が残っていた可能性がある。
だが、安静にして日々を過ごしていく内に、傷は癒え、運動を制限されていた体の自由が戻って来、わたしは自分の足で歩けるようになった。
寝込んで十日以上過ぎたある日、いつものようにマルテが部屋まで往診に来た時、わたしは、すでに軽々と動かせるようになっていた腕を動かして見せ、「もうずいぶん楽になってきました」、と言ってみた。
「あら」、とマルテは驚いたように目を見開いて見せる。「そろそろ完治でしょうか。視診だけでは断定的に言えませんが」
わたしは、みずからの容態がもう充分回復してよくなっているという気がしていた。長時間、長期間床に臥せているというのは、病んで傷んだ体には効果的で好適であっても、健やかな体には、かえって居心地を悪くさせる毒なのであった。
「添木と包帯を外してもらえませんか」
そうわたしが問うと、マルテは考えるように黙然とわたしの腕を見つめた。
「そうですね」、と彼女は言い、わたしの腕を持って、手首をひねったり、部分的に圧迫したり、ねじる力を加えてみたりする。わたしには、どうされてもさして痛くないのだった。
「平気ですよ」、とわたし。
「えぇ、そのようです。まだ悪ければ、刺激を与えた時に必ず痛みがあるはずですから」
快癒したらしいという推定に過ぎなかったが、わたしはマルテに許可を得、怪我人という状態をようやく脱することになった。添木と包帯が外され、身軽になった。腕を振り回してみると、長期間固定されていたことでこわばった筋肉が伸縮する違和感はあっても、骨折の痛みは、完全になくなっているといってよかった。
わたしは、治った方の手首を別の手で持ち、「マルテのお陰です」、と言った。「他のひとじゃ、もっと時間がかかったんじゃないでしょうか」
ほどいた包帯と外した添木を持つマルテは、照れたように苦笑し、「わたしは必要な施術を行ったまでです。それは、わたしの思い付きや創意工夫ではありません。あくまで理論的なものであって、わたしの手腕が特別優れていたわけじゃないのです」
「また、マルテにこういう風にお世話になることがあるかと思いますが」
「そうかも知れませんね。出来れば、そうならないことが望ましいですが」
確かにそうだ、とわたしは心中で首肯し、微笑みで彼女に返した。
だが、彼女が嫌忌を向けているのは、戦争の荒仕事による負傷の治療ではないという気が、何となくした。彼女は、わたしがフェノバールよりインベガに帰還してから今までの間、終始淡々としていた。わたしの負傷にこれといった感想も持たず、ミアがひどく心配したのとはずいぶん対照的だった。確かに彼女は、元々喜怒哀楽のはっきりした人柄ではなく、全体的にふんわりと落ち着いてやさしい雰囲気を帯びてはいるが、何を考えているのかよく分からないところがあった――他人が何を考えているのかなど、いちいち気にすることではないのだが。
「では、本日で看護は完了とさせていただきますね」、とマルテ。
「えぇ、結構です。助かりました」
「また何かあれば、おっしゃってください。普段わたしは薬屋にいますので、御用があれば、そちらまで」
そう言い、マルテはペコリと頭を下げて部屋を去っていった。
わたしと彼女のやり取りをこっそり見ていた隣人が、わたしの完治を簡単に祝ってくれた。わたしは礼を述べたが、彼はまだ治療中のようで、足の骨を折ったようだった。
まだ治っていない自分の分まで精力的に働くように、彼は冗談めかして言ってきたが、わたしは気軽に笑い飛ばした。
***