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わたしが怪我で寝込んでいる間に、いくつかの物事が進行していた。その内の多くをわたしは、ミアやブレイズなどの話を通じて知ってはいたが、半知半解のものに過ぎなかった。
まずは、鹵獲してきた兵器の研究及び分析が科学者たちによって行われ、すでにそのからくりは解明されたという。大きい脅威としてわたしたちを苦しめたその兵器は、目下その複製のために、更なる解析が進められるとのことだった。
今回の作戦の成功が、新しい局面の打開に有効になればいいと思われる一方で、兵器を得たわたしたちと、すでに兵器を持っている『光』との間に、将来きっと起こるに違いない熾烈な戦争が予想され、わたしにおいては、憂わしい思いになるものであった。
他には、戦没者の追悼が催され、彼等の命が戦火の内に失われた悲しみは、『光』への敵愾心や怨念を生み、そういう感情も、次なる戦争への誘因であるようだった。
今度の戦いで功績をあげた者は表彰され、わたしも、最前線で尽力したひとりとして、その他の仲間と共に功労者として選抜され、真新しい武具・防具を与えられたし、わたしを始めとして、従卒たちは、騎士として認められる叙任式への参加の権利を得た。
それは、わたしにとって非常に画期的なことだったし、ブレイズもミアもとても喜んで祝福してくれたが、まだ下っ端だという自意識が強いままのわたしには、あまりしっくりこず、騎士への昇格は、しかるべき時まで待つことにした。
とにかく、鈍った体に戦闘員として相応しい敏活さを取り戻させることが急務であった。わたしは、訓練に復帰した他、あちこち情報収集がてら、歩き回った。
すると、城の廊下で、わたしは妙に既視感のある者と遭遇した。
「……!」
彼は、わたしの通りかかるのを見ると、目を見開いて、ちょっと驚いて見せた。
「おつとめ、ご苦労さまです」
ピシッと敬礼してそう言ってくれるのだが、どこかその振る舞いが、彼に馴染んでいないのだった。
彼はほうきを持っており、清掃員のようだった。他にも、城の雑務を請け負っているようだ。
とにかく、彼は見た目が怪しかった。口にする言葉が訛っていて、小汚く、所作がそわそわしていて、存在に違和感があった。
「あなた、どこかでお会いしたことがあるような……」
わたしはしげしげと彼の人相を見つめ、記憶を紐解く。
「へぇ」、と彼は相槌を打ち、敬礼の手を下ろして、へりくだるように首をすくめる恰好で、こうべを低くする。「あっしの方では、ちと思い当たるところがありませんが、ひょっとしたら、前にお会いしてるかも知れやせんね。といっても、あっしはひとり、山を越えてここまでさまよって来たんですが」
「あぁ、そういえば!」、とわたしは拳をてのひらに打つ。
ようやく忘れていたことが思い出された。
彼は、以前インベガの近傍をウロウロしていて、身分不詳の浮浪者として警戒されて捕まり、諸々の手続きの後、無害と見なされ、お咎めなしで、解放されたのだった。
「そういえば、地下の牢屋でちょっとお話しましたね」
「はて、あっしは頭が悪いもんで、過去の細かいことはすぐにさっぱり忘れてしまうんでさぁ」
「では、あなたはどうして城で掃除をしておられるのですか?」
「掃除夫として雇って貰ったんでさぁ。あっし、ここを解放されても、行くところがありませんもんで」
――これも、わたしが臥している内に起こった変化といえば変化だ。
彼は掃除夫であり、わたしたちの生活する城の清掃を担ってくれるが、わたしが憂える次なる戦争には、無関係である。
だが、わたしの彼について思い出したことは、彼をただの掃除夫として認識するところで留まらなかった。
わたしの覚えによれば、彼は、近傍の山を越えてこのインベガまでさまよってくる以前、賊として過ごしており、その時の仲間で首領の『エル』という名の男が、今、『光』の重要人物として、組織に属しているという話だ。
彼のその経歴は、彼をただの掃除夫に留めないものがあるという気が、わたしには何となくするのだった。
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