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ぼくは孤児だ。それはもう分かっている。
「よし。それじゃ、行こうか」
磨いた馬にハーネスを着けて、馬房から出るように誘導し、外の馬車と繋げる。
俯いて、考えた。
孤児のぼくには、だから、帰るべき家がない。ブルーノに付いて旅している。それは、悲しいことは悲しいことに違いないけど、別に、悩んでいるということもない。金銭もそうだし、食べ物もそうだし、寝泊まりするところもそうだし、色々な面で旅での生活は苦しいけど、それを理由に旅をやめたいと思ったこともない。
ふるさとは、ぼくにはあるのだろうか。そう考え、何となく、自信がなかった。そしてふるさとがないということは、とても寂しいことだという気がして、身震いさえした。
生まれ育った、母と過ごした村がある。そこを発ってかれこれ数カ月ほど経つけど、今はどうなっているだろう。共に農場で働いた仲間たちは、今日もこれからつらい労働に従事するのだろうか。嫌らしい領主と農場の監督に顎で使われて、屈辱や劣等感や敵意など、諸々の反感にまみれて、それでも恭順に振舞って、ささやかな賃金を稼いで生きているのだろうか。
戦争をやっている。ブルーノがそう教えた。
戦争はどこでも起こり得る。人間がいれば、戦争は起こる。人間だけが戦争をするのだ。正義を振りかざして、他者の命を冒し、その生きる権利を蹂躙し、土地を荒廃させる。
どこでも起こり得る。人間がいれば……。
ぼくの生まれた村も、例外ではないかも知れない。
だが、あそこで農奴として働かされる人々の顔を思い返すと、あるいは戦争でも起こって、何もかも破滅して、無に帰せばいいのかも知れない、などと悲観的かつ過激な妄想めいた望みを持ってしまいそうになるのだった。
風がヒュウと吹いて、耳元で微かに鳴る。
見上げれば、風車がゆっくりと回っている。厩舎のそばに、塔が合って、その上で回転しているのだった。蔦が巻き付いて古びて見える塔。よく見ると、裏に川が流れていて、塔は川に近接している。
出入口に内外を隔てるものがなかったので、ぼくは馬のそばを離れ、風車の中にそっと入ってみた。
お邪魔します、と言ってみたが、返事のかわりにこだまが帰ってきたので、無人のようだ。
上の窓より差す朝日が心もとなく、薄暗い中では、サラサラと水の流れが聞こえた。水車が回っているのだった。どうやらこの風車は、すぐそばの川の水をくみ上げるためにあるようだった。近くに水場はなく、村を通る川も細いものだったので、ここでは水資源は貴重と思われる。
ぼくは両手を合わせると、回転する水車の水受けの内、下りていくものの下に持っていき、流れ落ちる水をその手に貯め、グイと口にし、飲み込んだ。清冽な雑味のない水が、喉をその冷やかさで貫いた。
爽快な気分だった。目が覚めるようだった。
ブルーノはまだ町をぶらついているだろうか。リーザ嬢はそろそろ起きただろうか。あるいはコンラートさんがまだその寝顔を見守って無聊を託っているだろうか。
空が青い。今日もきっと、暑くなるだろう。