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オットーにとって手紙の配達のための旅は、宛名の者が大抵の場合、山中に籠って生活しているため、探し当てるのが困難という意味で、骨の折れるものだった。
雇われて飛脚をしていた頃、彼は、道路などの整備された行政区域の範囲内において、ある程度はっきりした住所に従って巡行したが、ベーラムと交わりのある者たちは、住所という概念のある環境に住んでいることがほとんどなく、大なり小なり迷うのだった。
体躯が小さいけれど俊足の馬を駆ってオットーは、山中、小回りを利かせて進んだ。かつては、相乗りぐらいしか出来なかったのが、今ではすでに乗馬は彼にとって、慣れたものだった。
山中は夏ということで、生き物や植物の模様が豊かだった。メジロが川のそばの木の枝で涼んでいたり、苔むした岩の隙間から薄紫の小さい花弁の花が咲いていたり、木の幹を、ミミズを咥えたトカゲが這っていたりした。
オットーは山を下りると、平原に出、暑い日差しの下、まっすぐに、行くべき方面へと、馬をひた走らせた。
数日間に及ぶ旅の間、雷雨に打たれたり、廃村のそばを通る時、うっかりそこにいた賊に見つかってしばらく追いかけられたりと、いくつかのトラブルに見舞われたが、オットーは、どうにか無事に、目的の場所の近くまで来た。
雷雨を運んできた雨雲が、まだ空に残っており、細雨で辺りを真っ白にしていた。
ひどくムシムシとし、オットーは汗と雨でズブ濡れで、居心地がよくなかった。
平原はとうに抜け、彼は、手書きの地図にある連峰の内、印のされたひとつを実際に見えるものと比べ、対象を定めると、山麓へと上り、山道を進んだ。
とはいえ、道といえるものはほとんど見当たらず、獣道同然のところを、オットーは、気配だけを頼りに旅を続けた。残された距離は後わずかのはずだった。
道中クルミの実がポツポツ落ちており、小腹が空いたオットーは、ひとつ拾い上げて、ダガーの柄で打って殻を割って中身を食べた。馬は、その辺の下草を好きに食んでいた。
ある草木の鬱蒼とした坂道を、水が流れていた。耳を澄ますと、どこか流水の音が聞こえる気がした。
彼は半ば人里の近いことを確信し、その水の流れに沿って坂道を下り、深い藪を、嫌がる馬を励まして抜けると、開けたところに出た。
細い水の流れが、より太い川へと向こうで合流し、川は、更に遠くへと伸びている。
谷間のようだった。山並みに周囲を囲まれて、丸太小屋が谷間の斜面に点在している。
時は夕方で、まだ日はあったが、雨天のため、辺りは暗く、灰色っぽく煙っている。
辺境のためか、出入口と思しき境界がなく、従って守衛もいない。オットーは馬を大人しくさせ、ゆっくりと村の方へと進めた。
ひと気はほとんどなく、チラホラ見受けられるが、ほとんどが高齢者のようで、オットーの訪問に、中々気が付かないのだった。
雨雲の切れ目が、夕空に差し掛かっていた。すでに遅い淡い夕日が、谷間の集落に差し込み、暗いオレンジ色で照らしている。暮れかかる青空は、雨のために濡れたように湿っぽく、また日暮れのために寂しげに褪せていた。夕陽のオレンジだったり、雨降りの灰色だったり、晴天の青色だったりする雲の固まりが、夕空に、渾然と入り乱れていた。
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