第412話
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風雲急を告げる展開となった。インベガの騎士・兵士たちは総出で、偵察の告げた『光』の多勢で成る進軍のために、すみやかに準備を整えた。ただ、未だ、敵方がインベガに向かってやってきているかどうか、確かではなかった。
彼――青年フリッツは、この度の戦争の行く末を予測することが叶わなかった。
インベガは奪った兵器をもとに、同じ物を開発・製造して戦力と成し、更に塹壕まで掘って周縁の防備をかためているのだが、『光』とて、インベガと同等か、それ以上の戦力を有しているのである。衝突が実際に勃発したとして、勝敗を決するのは、戦略と、士気と、人的資源を含む物量だった。
要するに、どれだけ消耗に耐えられるかという我慢比べになるということだ。きっと過酷に違いないと、フリッツはおそれていたが、最早後退出来る状況になかった。
フェノバールの敗走兵を含むインベガの軍と、『光』の軍は、いずれは正面からぶつかり合い、明確に白黒付けないといけない敵同士の関係であり、互いに不倶戴天であった。
ある晩夏の秋の風情の漂う涼しい爽やかな一日、その深夜、フリッツは、インベガの城と町をいただく山をくだり、平原に近い、塹壕のたくさん掘ってあるところの、木陰で、仮眠中だった。
彼は、だが、うまく熟睡出来ず、度々目覚めてしまい、彼は何度目かの入眠の後、また目覚めた。
「……」
彼の視界は、最初はぼんやりとしていたが、段々とクリアーになっていき、冴えた星空が見えるようになった。まだ朝までは長いようだった。
彼の横になっている木陰は、ある木立の中であり、彼は起き、立ち上がると、木立を出ていった。
すぐそばには、陣営があり、戦いが起きるとすれば、最前線になるところだった。騎士たちと兵士たちがソワソワした様子で、ある者は落ち着かず歩き回り、ある者は知人・友人と今度の戦略について確認し、互いに意見を言い合っている。フリッツのように仮眠を取っているものもあり、篝火が照る中で、深夜だというのに、精気が濃密に漂っていた。
「――どうした、フリッツ」、とひとりの重装騎士が怪訝そうに思う表情で彼に近寄ってくる。
「ブレイズ。よく寝られないんだ」、とフリッツは、目をゴシゴシとこすって返す。彼は、彼の師事するブレイズに対して小姓であり、身なりも、金属のプレートアーマーではなく食肉に供された家畜の残骸を加工して作ったレザーアーマーなのだった。
ブレイズは、フリッツの隣に来、体の向きを転じて平原の彼方を見遣ると、「偵察の報告はない。近くにはまだ来てないようだ。奴らがおれたちのところに向かっているとすると、明け方くらいには、見えてくるっていう予想なんだが」
「ちゃんと睡眠は取るのがいいね」、とフリッツは自嘲的に言う。
「間違いない」、とブレイズは首肯する。
「ブレイズは寝ないの?」
「寝たいのは山々だが、いつ何が起こるか分からん。ギリギリまで耐えるさ」
「無理しないでね」
「あぁ」
夜空を見上げると、夏の星座と並んで秋の星座が浮かんでいるのが見えた。夜気が涼しく、朝晩は冷え込むし、季節は秋に片脚を突っ込んでいるようだった。
陣営にはあの砲弾を撃ち出す兵器が数台設置されており、工兵が入念に整備している。近くには真っ黒の砲丸がズラリと並んでいて、火薬と共に、準備は万端という具合だ。塹壕に潜って物を投げ合ってふざけている兵士たちがいて、不謹慎だが、皆、それぞれ自分なりに、今張り詰めている緊張感を和らげつつ、戦意の昂じるやり方を探っているようだった。
「ミアはどうしてる?」、とブレイズがフリッツを見て尋ねる。
「ミアは山に避難した。マルテといっしょに」
「マルテ……誰だ、そいつは?」
ブレイズはきょとんとする。
「あれ、マルテのこと、知らなかったっけ? 看護士だよ。ぼくは、前の戦いで怪我してしばらく面倒を見て貰ってた」
フリッツは、ミアの噂話を思い出していた。マルテがブレイズのことを好いているらしいというものだ。だが、こうして分かるように、ふたりの間には、交流らしい交流は絶えてないようで、つまり、マルテは一方的にブレイズに憧れているということなのだろうか、などと、フリッツは憶測してみた。
そういうこの場にそぐわないのんびりした想像を弄んでいると、偵察のひとりが馬でやってきて、にわかに空気がピリつき、フリッツとブレイズは、共に顔を険しくした。
「報告です」、と偵察は馬を下りてピシッと敬礼して言う。
「いよいよ来たか?」、とブレイズ。
「いえ、敵方との隔たりはまだあります。ですが、着実にこちらの方へと近付いてきています」
「ふむ」、とブレイズは考える恰好になり、わたしは、傍聴する格好で立っている。
「それより、敵方が見慣れない武器を持っていると気付きまして」
「見慣れない武器?」
「えぇ、最初それはただの槍に見えたのですが、妙に短くてまた太く、違和感がありました。実際、それは槍ではなかったのです。敵兵が両手で抱え、肩に抱くようにしていたのは、弩に類する射撃武器でした。槍のように見えた刃が、その先端にちょこんと付いています」
「新しい武器……」、とブレイズは呟く。「戦略を練り直す必要があるか……」
気付けば、辺りはシンとしており、近くにいる誰もが、偵察の報告に耳を傾け、知らない内に、人だかりが出来ていた。
ブレイズは偵察に労いの言葉をかけ、任務に戻させてやり、その後、「しばらく考える」、とだけ言い残し、フリッツのもとを立ち去った。彼に合わせて、出来ていた人だかりが散り散りになり、誰もが、悩むように暗い面差しだった。
敵が徐々に迫ってきているとことに加え、新しい武器、及び、それが可能にするのであろう新しい戦略を、『光』が有していると知らされ、一同、それぞれ工夫を凝らして高めていた集中力や意識が、乱されてしまったようだった。
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