さまよえるフリッツ【完結】   作:Yuki_Mar12

415 / 451
第415話

***

 

 

 

 フリッツたちが、木立の広がりを、城のある山の方へと移動すると、やがて塹壕の並ぶ境域が見えてくる。

 

 そこでは、インベガの軍と『光』とがすでに戦火を交わしていたが、膠着状態にあるようだった。

 

 フリッツたちは、茂みより、外の様子を窺い、日射でよく見えるようになった開けた広原の情況に、じっと目を凝らしてみる。

 

 ――塹壕にインベガの兵士たちがすっぽりと入っており、敵方に向けて設置された『大砲』と呼称される、『光』より奪った新兵器が、断続的に砲弾を撃ち出し、相も変わらず、凄まじい砲声を上げている。

 

「敵の方はどうだ……?」、と男が、首をひねって視点を移す。

 

 すると、見えないくらい遠くに、『光』の軍と思しき黒山が見え、彼等はそこより進軍することが、インベガ側の砲撃により、出来ないでいるようだった。

 

「まさか、あの位置でじっとしてるわけではあるまい」

 

「何か動きが見えるようですが」、とフリッツ。

 

「ちょっと待て」、と別の男が注意を促す。彼は単眼の望遠鏡のレンズを覗き込んで続ける。「アイツら、何かしてる……シャベル……穴?」

 

 彼はレンズより目を離し、両目で睨むように遠方を見遣ると、「塹壕だ」、と呆然とする。

 

「塹壕? おれたちが作った?」

 

「あぁ。多分、そうだ」

 

 フリッツはその話に驚愕したが、「今なら」、と口を挟んだ。「今、相手が穴掘りに夢中になっているのなら、広原を陣営に向かって突っ切ることが出来るはずです。行きましょう」

 

 その進言に、男たちは頷き話を中断することにし、木立よりそっと出、インベガの紋章が施された盾を掲げ、全力で走っていった。

 

 フリッツたちは肩で息をしながら、塹壕へ滑り込んでいき、フリッツが「ブレイズは?」、と、そばの兵士に尋ねた。

 

「上官なら、後方の陣営だ」

 

「ありがとう――」

 

「――ッ!」

 

 何かが飛んでくる気配がしたかと思うと、凄まじい爆風が、熱と暴威を砂埃と共に運んできた。フリッツたちはしばし頭を抱えて守り、爆風をやり過ごした。

 

「おい、こりゃあ……」、と男。

 

「おいおい、『光』もおんなじものを持ち出してきたじゃねぇか」

 

 望遠鏡で彼方を見ている男が言う。どうも敵が、ここに設置してある大砲と同じものを使用して、フリッツたちのいる塹壕の辺りを射撃してきたみたいだ。

 

「ずいぶん高いところから砲弾が落ちてきたようだが……」

 

「砲撃だ! 縮こまれ!」

 

 誰かがそう叫んだ。

 

 次の一撃が、またしても飛来し、フリッツたちは、飛んでくる真っ黒の砲弾が見え、今度は、さっきよりも近いところに着弾するらしく、塹壕の中で低くしゃがんで、頭を抱えた。

 

 恐るべき轟音と振動。そして痛いほどの勢いで飛んでくる砂利。

 

「ブレイズ殿――上官に用があるのなら、さっさと行け」、と、塹壕にいた男が叫ぶ。「ここはおれたちが受け持つ。お前たちはさっさと命令を受けに急げ。戦況は常にひっ迫してる」

 

「了解!」、とフリッツたちが蒼白な顔で答え、敵の砲撃の隙を突いて、塹壕を出、陣営のある方へと走っていく。

 

 

 

 生きた心地がしなかった。まるで寒冷地にいる時のような震える呼吸が、フリッツたちにおいてやまず、彼等は、精神的にまずい状態にあった。

 

 

 

 陣営では、ブレイズが椅子に座って、テーブルの上に広げられた戦況図をまじまじと眺めていた。そばには参謀や、他の上官がおり、戦略について合議しているようだ。

 

「上官殿!」

 

 その声に、ブレイズはハッとして振り向き、椅子より立ち上がる。

 

「お前たち」

 

「当初の作戦通り」、と男が言う。「我々は敵軍の挟撃を未明、試みましたが、後方より新たな敵軍の襲来で統率を乱され、後退してまいりました」

 

「……」

 

 挟撃がうまく行かなかったと知り、ブレイズ他、皆、暗然と沈黙する。

 

「新しい命令をいただきたいのですが」

 

「まぁ、待っていろ」、とブレイズはイライラして返し、勢いよくまた椅子に腰を下ろす。「斥候がまだ帰ってきていない。斥候の持ち帰った情報をもとに戦況図を改めて、そうしてから、作戦を練らないといけない」

 

 陣営においても、インベガと『光』の砲撃戦は続き、骨にまで響くほどの轟音が走る。

 

「包囲戦をしかれていないといいのですが」、と参謀が心細そうに呟く。

 

「一応、山中の避難所に数名派遣してある」、とひとりの上官が言う。「もし山中からの敵の攻撃があるとすれば、避難民しかいない避難所は手薄極まりなく、一刻も早く逃がしてやらないといけない」

 

 その話を朦朧とした意識で聞いて、フリッツは、友人の少女、ミアのことを想っていた。彼女は無事だとされるインベガの城付近の山中の広場に、他の非戦闘員と共に、仮に避難している。きっと大丈夫に違いないが、概況は、インベガにとってよくなく、大砲を使用して応戦しているものの、芳しい戦果はあげられていない。

 

 戦況は常に転じている。インベガにおいても、『光』においても、それぞれ、常に新しい情報を得て古い情報を排し、理論的に、戦いを有利にするための作戦を講じていかないといけない。

 

 

 

***

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。