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フリッツたちが、木立の広がりを、城のある山の方へと移動すると、やがて塹壕の並ぶ境域が見えてくる。
そこでは、インベガの軍と『光』とがすでに戦火を交わしていたが、膠着状態にあるようだった。
フリッツたちは、茂みより、外の様子を窺い、日射でよく見えるようになった開けた広原の情況に、じっと目を凝らしてみる。
――塹壕にインベガの兵士たちがすっぽりと入っており、敵方に向けて設置された『大砲』と呼称される、『光』より奪った新兵器が、断続的に砲弾を撃ち出し、相も変わらず、凄まじい砲声を上げている。
「敵の方はどうだ……?」、と男が、首をひねって視点を移す。
すると、見えないくらい遠くに、『光』の軍と思しき黒山が見え、彼等はそこより進軍することが、インベガ側の砲撃により、出来ないでいるようだった。
「まさか、あの位置でじっとしてるわけではあるまい」
「何か動きが見えるようですが」、とフリッツ。
「ちょっと待て」、と別の男が注意を促す。彼は単眼の望遠鏡のレンズを覗き込んで続ける。「アイツら、何かしてる……シャベル……穴?」
彼はレンズより目を離し、両目で睨むように遠方を見遣ると、「塹壕だ」、と呆然とする。
「塹壕? おれたちが作った?」
「あぁ。多分、そうだ」
フリッツはその話に驚愕したが、「今なら」、と口を挟んだ。「今、相手が穴掘りに夢中になっているのなら、広原を陣営に向かって突っ切ることが出来るはずです。行きましょう」
その進言に、男たちは頷き話を中断することにし、木立よりそっと出、インベガの紋章が施された盾を掲げ、全力で走っていった。
フリッツたちは肩で息をしながら、塹壕へ滑り込んでいき、フリッツが「ブレイズは?」、と、そばの兵士に尋ねた。
「上官なら、後方の陣営だ」
「ありがとう――」
「――ッ!」
何かが飛んでくる気配がしたかと思うと、凄まじい爆風が、熱と暴威を砂埃と共に運んできた。フリッツたちはしばし頭を抱えて守り、爆風をやり過ごした。
「おい、こりゃあ……」、と男。
「おいおい、『光』もおんなじものを持ち出してきたじゃねぇか」
望遠鏡で彼方を見ている男が言う。どうも敵が、ここに設置してある大砲と同じものを使用して、フリッツたちのいる塹壕の辺りを射撃してきたみたいだ。
「ずいぶん高いところから砲弾が落ちてきたようだが……」
「砲撃だ! 縮こまれ!」
誰かがそう叫んだ。
次の一撃が、またしても飛来し、フリッツたちは、飛んでくる真っ黒の砲弾が見え、今度は、さっきよりも近いところに着弾するらしく、塹壕の中で低くしゃがんで、頭を抱えた。
恐るべき轟音と振動。そして痛いほどの勢いで飛んでくる砂利。
「ブレイズ殿――上官に用があるのなら、さっさと行け」、と、塹壕にいた男が叫ぶ。「ここはおれたちが受け持つ。お前たちはさっさと命令を受けに急げ。戦況は常にひっ迫してる」
「了解!」、とフリッツたちが蒼白な顔で答え、敵の砲撃の隙を突いて、塹壕を出、陣営のある方へと走っていく。
生きた心地がしなかった。まるで寒冷地にいる時のような震える呼吸が、フリッツたちにおいてやまず、彼等は、精神的にまずい状態にあった。
陣営では、ブレイズが椅子に座って、テーブルの上に広げられた戦況図をまじまじと眺めていた。そばには参謀や、他の上官がおり、戦略について合議しているようだ。
「上官殿!」
その声に、ブレイズはハッとして振り向き、椅子より立ち上がる。
「お前たち」
「当初の作戦通り」、と男が言う。「我々は敵軍の挟撃を未明、試みましたが、後方より新たな敵軍の襲来で統率を乱され、後退してまいりました」
「……」
挟撃がうまく行かなかったと知り、ブレイズ他、皆、暗然と沈黙する。
「新しい命令をいただきたいのですが」
「まぁ、待っていろ」、とブレイズはイライラして返し、勢いよくまた椅子に腰を下ろす。「斥候がまだ帰ってきていない。斥候の持ち帰った情報をもとに戦況図を改めて、そうしてから、作戦を練らないといけない」
陣営においても、インベガと『光』の砲撃戦は続き、骨にまで響くほどの轟音が走る。
「包囲戦をしかれていないといいのですが」、と参謀が心細そうに呟く。
「一応、山中の避難所に数名派遣してある」、とひとりの上官が言う。「もし山中からの敵の攻撃があるとすれば、避難民しかいない避難所は手薄極まりなく、一刻も早く逃がしてやらないといけない」
その話を朦朧とした意識で聞いて、フリッツは、友人の少女、ミアのことを想っていた。彼女は無事だとされるインベガの城付近の山中の広場に、他の非戦闘員と共に、仮に避難している。きっと大丈夫に違いないが、概況は、インベガにとってよくなく、大砲を使用して応戦しているものの、芳しい戦果はあげられていない。
戦況は常に転じている。インベガにおいても、『光』においても、それぞれ、常に新しい情報を得て古い情報を排し、理論的に、戦いを有利にするための作戦を講じていかないといけない。
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