さまよえるフリッツ【完結】   作:Yuki_Mar12

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第416話

***

 

 

 

『光』の持ち出してきた新たな武器は、弾丸が中に込められていて、離れたところより発射してひとを殺傷するものであった。いわば、大砲を、威力を弱めて携行できるくらいまで小型化したものといえる。

 

 確かにそれは、射撃が伴う衝撃や、弾丸の入っている円筒の真円度、射手の腕などによって、弾丸の命中率は大きく変化するのであった。

 

 下手なものが使えば、弾丸はまるで目標に命中しないし、しかし他方、練達したものが使えば、恐るべき真価を発揮するのだった。弾丸は重装兵の鎧さえ貫通するのだった。

 

「――報告です!」

 

 と、ひとりの兵士が慌てて陣中にやって来、戦況図のあるテーブルのそばに跪く。ずいぶん焦っているらしく、呼吸が乱れていた。

 

「物凄い勢いで近付いてくる一軍あり。正確な距離は分かりませんが、木立に潜ったり出たりして、こちらの方面へと近付いてきています」

 

 ブレイズは眉をひそめる。

 

「迎撃は」

 

「思うようにいきませんでした。装いからして、きっと『光』の上級の将かと。騎馬隊で猛進してきている模様です」

 

「塹壕があるというのに、うまくいかないのはおかしい」

 

「敵方は我々の堀った塹壕のことがある程度分かっている様子でした。あのジグザグの進軍の仕方は、塹壕のことを分かった上で避けているとしか見えません」

 

 陣中ににわかに緊張が走り、兵士たちは応戦する準備を早急に整えるために、動きだした。

 

「ブレイズ殿」、とひとりの佐官が言う。「自分が打って出ます」

 

「いや」、とブレイズは返す。「相手が騎馬なら、おれが行く。騎馬戦は得意だし、陣中でこうして座りっぱなしっていうのにも飽き飽きしてきたところさ」

 

「しかし、ブレイズ殿は、将官として陣中におられるのが……」

 

「指揮、その他はお前たちに任せる」

 

 立ち上がったブレイズは、他の将官、参謀に、そう言い、陣中の端の馬留の方に向かっていく。

 

 フリッツは、何も口にせずに、ただ、この陣中を満たす緊張感に胃をキリキリさせていた。

 

 隊列を組めという命令の声が響き、臨戦態勢を整えていた騎士たちが、乗馬して、ブレイズのもとに集合し、整列する。

 

 挟撃に失敗して逃げてきたフリッツたちも、兵士として、彼等の中に参加しようと近付くのだが、「お前たちはいい」、と、ブレイズに制された。

 

「歩兵は騎兵に付いてこれないだろうが。何、心配は要らないさ。ほとんど単独で来ているんだろう? 分はこっちにある」

 

 ブレイズはそう言って、馬を発進させ、亜明るい朝日の浮かぶ方へと、仲間を引き連れて向かっていった。

 

 

 

 ……。

 

 

 

 陣営を発ったブレイズはこう思っていた、あるいは自分は将官として指揮するよりは、こうして現業のために戦場に出張っていく方が性に合っているのではないかと。

 

 少数精鋭で彼等は来た。ある程度、報告のあった敵将と思しき騎馬隊の居場所を目指し、馬で走っている。

 

 奇襲があり得るかも知れないからと、ブレイズたちは、ブレイズを中央に据えた隊列での走行に切り替えた。

 

 まばゆい朝日めがけて馬を飛ばしていると、近傍の木立の方に、気配がし、その方に近い騎士がブレイズに、何かが近いと、違和感を叫んだ。

 

 ブレイズは彼の直感を当てにし、木立にずっと沿っていき、木々を迂回出来るところまで移動すると、Uターンする格好で木立の境を回り込み、反対側へと移った。

 

 すると程なくし、怪しい黒山が向こうに見えだし、望遠鏡で確認された前方に位置する仲間の報告を聞くと、『光』の騎士と思しき、黒い鎧をまとった騎馬隊のようなのだった。きっとこの騎馬隊が、インベガの陣営に猛進してきているというものなのだろうと、ブレイズたちにおいて推察された。

 

 彼等は、息を潜め、整った隊列を維持して、静粛に、敵の騎馬隊の後まで詰めていった。

 

 そして、「待て!」、とひとりが叫び、その瞬間、敵の騎馬隊が一散に二手に分かれて散り、方向転換し、ブレイズたちの方へと向かってきた。

 

「来たぞ!」、とブレイズが叫ぶと、ブレイズたちも、二手に分かれ、各自、正面よりぶつかり合うこととなった。

 

 ブレイズのいる方が対峙する敵の集団には、ちょうど、ブレイズに相応する将官がいるようで、彼が、報告のあった、そう思われたところの、上級の将官なのだろうと、ブレイズには察せられた。

 

 敵味方入り乱れる中、ブレイズが、目に見えぬ勢いで、大剣で、相手の将官の首の辺りに切りかかると、彼は仕留めたと、はじめ思ったが、相手の将官も腕が立つらしく、同じように大剣を、下より振り上げる恰好で反撃してくると、鍔迫り合いが生じ、ふたりは、互いの荒い息の生ぬるさが感じられるほど、近付き合った。

 

 ブレイズはまじまじと直視した。相手の人相は、いいとは言えず、まるでかつて盗人でもやっていたかのように、陰険であった。髪は背中に届くほど長く、後ろで簡単に結わえてある。

 

「アンタ、名前は」、とブレイズは、苦しく絞り出すように、興味を持って、相手に尋ねる。

 

「ハッ」、と相手は嘲笑するが、ブレイズ動揺、苦しそうに喘いでいる。「答える義理などないが、今この場で始末してしまうつもりなんだ。冥途の土産に教えてやる。おれは“エル”っていうんだ」

 

 ――ふたりは剣の柄を握る拳に力を込め、激しくせめぎ合ったが、弾き合い、一旦離れた。

 

 戦況が、ふたりの将官により概観されたが、両者共に、譲らない乱戦を繰り広げており、もう戦略も何もなく、意地と意地のぶつかり合いという感じだった。

 

 ブレイズとエルは互いに睨み合い、馬を疾駆させると、互いに再び激闘を演じた。

 

 生きるか殺すかという究極のやり取りが、眩い朝日の黄金色の光輝の中、ヒリヒリする緊張感と共に交わされ、その行く末は、天道を行く太陽ですら、まるで読み取ることが叶わないのだった。

 

 

 

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