第43話
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騎兵と対話し、別れたブルーノは、思い出していた。
あの日の空も青色で、よく晴れていた。
だが、こんなのどかではなかった。決して、のどかなどではなかった。
青い空には何かしみじみと物思わせるものがある。行ったことのない遠い旅路、山脈の遥か彼方、煌めく川面のざわめき、小鳥のさえずり。
彼の父は兵士だった。
ある小さな村に住んでいた彼にとって、父はあまり親しみのない存在であった。なぜなら、彼の父は、しょっちゅう遠征に従軍して、家を留守にしていたからである。
が、たまには帰ってくるのだった。
「ブルーノ」
三人で住むささやかな石造りの住宅。テーブルにイス。暖炉。蓄えられた薪。レンガで出来たコンロ。梁には鎖が吊り下がっており、そこに鍋をかけられるのだった。
呼びかけられたブルーノは、とても小さかった。まだ十にも満たない年齢だろう。父を甘えられる対象として見ることのなかった幼いブルーノは、彼に対する時は、常に何か、緊張感を伴い、びくびくしてしまうのだった。
「……」
テーブルについて、一家は夜食をとっていた。四角いテーブルの片方に父がつき、その両側の斜め前方に、ブルーノとその母が向かい合わせについていた。
「ブルーノ、どうしたの?」
母がそう訪ねるものの、にやついたその顔は、ブルーノの心情をすっかり見透かしているといった感じだった。
「お父さんの顔が怖いのか」
「そうじゃない」
「じゃあなんで、ビクビクするんだ。おれたちは親子じゃないか」
「あなた」、と母は父に向かって注意を促すように言う。
「ブルーノとはあんまり顔を合わさないんだから、この子が緊張するのは無理もないんじゃない」
「別に年に一回しか会わないわけでもないじゃないか」
「まぁ、そうだけど」
母は、我が子のブルーノを見つめた。そしてその瞳の奥に、気後れ、遠慮、おびえなどを認めた。
小さいブルーノは、両膝に手を置いて、しんと黙っている。肩だけが微かに動いて、ほとんど呼吸だけしているようだ。
「おれがいつくたばるか分からないっていうのに、頼むぜ。おれが生きている間に、父親らしいことをさせてくれよ。遊ぼうとしたって、どうも興が乗らなそうだから気の毒に思っちまうんだ」
「次は、いつ出るの?」
――今度の遠征の話だろう。
「来週にはもう発つな」
母は憂わしげに眉を顰め、「まぁ」、と嘆いた。
「どうしてそんなしょっちゅう戦争があるのかしら。野蛮だわ」
「仕方ねぇだろ。兵士も商売なんだから。ずっと平和じゃ、干からびちまうってもんさ。だいたい、そんなこと言うなら、何で兵士のおれなんかと一緒になったんだよ」
「そりゃ、あなたが求愛してきたからでしょ。あたしが進んで兵士の嫁になったんじゃないわ」
「ケッ」、と半ば鬱陶しそうに、半ば恥ずかしそうに、父は悪態を吐く。
「何でもいいが、とにかくそれまではゆっくりさせてもらうぜ」
「うん。気のすむまでゆっくりして、あなた。お疲れ様」
「おう、ありがとう」
そうして、父と母は改めてお互いの相手への情愛を確認し、軽く接吻し合った。
ブルーノは父に対してはとても内気で打ち解けない子供だったが、母に対してはそうではなかった。そして、両親がこうして仲睦まじくしていることも、彼にとっては、頬の緩むことで、彼は膝に手を置いたままだったが、何か心休まるものを感じるのだった。