さまよえるフリッツ【完結】   作:Yuki_Mar12

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第三章~ブルーノの過去~
第43話


***

 

 

 

 騎兵と対話し、別れたブルーノは、思い出していた。

 

 あの日の空も青色で、よく晴れていた。

 

 だが、こんなのどかではなかった。決して、のどかなどではなかった。

 

 青い空には何かしみじみと物思わせるものがある。行ったことのない遠い旅路、山脈の遥か彼方、煌めく川面のざわめき、小鳥のさえずり。

 

 

 

 彼の父は兵士だった。

 

 ある小さな村に住んでいた彼にとって、父はあまり親しみのない存在であった。なぜなら、彼の父は、しょっちゅう遠征に従軍して、家を留守にしていたからである。

 

 が、たまには帰ってくるのだった。

 

 

 

「ブルーノ」

 

 三人で住むささやかな石造りの住宅。テーブルにイス。暖炉。蓄えられた薪。レンガで出来たコンロ。梁には鎖が吊り下がっており、そこに鍋をかけられるのだった。

 

 呼びかけられたブルーノは、とても小さかった。まだ十にも満たない年齢だろう。父を甘えられる対象として見ることのなかった幼いブルーノは、彼に対する時は、常に何か、緊張感を伴い、びくびくしてしまうのだった。

 

「……」

 

 テーブルについて、一家は夜食をとっていた。四角いテーブルの片方に父がつき、その両側の斜め前方に、ブルーノとその母が向かい合わせについていた。

 

「ブルーノ、どうしたの?」

 

 母がそう訪ねるものの、にやついたその顔は、ブルーノの心情をすっかり見透かしているといった感じだった。

 

「お父さんの顔が怖いのか」

 

「そうじゃない」

 

「じゃあなんで、ビクビクするんだ。おれたちは親子じゃないか」

 

「あなた」、と母は父に向かって注意を促すように言う。

 

「ブルーノとはあんまり顔を合わさないんだから、この子が緊張するのは無理もないんじゃない」

 

「別に年に一回しか会わないわけでもないじゃないか」

 

「まぁ、そうだけど」

 

 母は、我が子のブルーノを見つめた。そしてその瞳の奥に、気後れ、遠慮、おびえなどを認めた。

 

 小さいブルーノは、両膝に手を置いて、しんと黙っている。肩だけが微かに動いて、ほとんど呼吸だけしているようだ。

 

「おれがいつくたばるか分からないっていうのに、頼むぜ。おれが生きている間に、父親らしいことをさせてくれよ。遊ぼうとしたって、どうも興が乗らなそうだから気の毒に思っちまうんだ」

 

「次は、いつ出るの?」

 

 ――今度の遠征の話だろう。

 

「来週にはもう発つな」

 

 母は憂わしげに眉を顰め、「まぁ」、と嘆いた。

 

「どうしてそんなしょっちゅう戦争があるのかしら。野蛮だわ」

 

「仕方ねぇだろ。兵士も商売なんだから。ずっと平和じゃ、干からびちまうってもんさ。だいたい、そんなこと言うなら、何で兵士のおれなんかと一緒になったんだよ」

 

「そりゃ、あなたが求愛してきたからでしょ。あたしが進んで兵士の嫁になったんじゃないわ」

 

「ケッ」、と半ば鬱陶しそうに、半ば恥ずかしそうに、父は悪態を吐く。

 

「何でもいいが、とにかくそれまではゆっくりさせてもらうぜ」

 

「うん。気のすむまでゆっくりして、あなた。お疲れ様」

 

「おう、ありがとう」

 

 そうして、父と母は改めてお互いの相手への情愛を確認し、軽く接吻し合った。

 

 ブルーノは父に対してはとても内気で打ち解けない子供だったが、母に対してはそうではなかった。そして、両親がこうして仲睦まじくしていることも、彼にとっては、頬の緩むことで、彼は膝に手を置いたままだったが、何か心休まるものを感じるのだった。

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