さまよえるフリッツ【完結】   作:Yuki_Mar12

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第431話

***

 

 

 

 インベガと『光』の戦力は、ほぼ互角という具合だった。それぞれの軍は、分散して互いに衝突し、しのぎを削っていたが、インベガの方で、ある作戦が練られた。敵の侵攻に対する防御力を高めるために、分散している戦力を漸次集合させ、インベガの山城を中央として平原に対し、弧状の陣を布くというものだった。城には大砲があるし、前線にも搬出されている。塹壕も掘ってあるということで、この利を用いない手はないというものだ。

 

「ですが」、とひとりの将官が、作戦の主導者であるブレイズに対して意見する。

 

 ブレイズと他の上官たちは、陣営の一隅にて鳩首合議している最中だった。

 

「――敵の戦力が限られている場合のみ、この布陣は有効です。『光』の戦力が衰えるまで、我が方は耐え抜けるのでしょうか」

 

「地の利はこちらにある」、とブレイズ。「あまりちょろちょろ動くべきではない。それに、相手は遠征で来ている。物資はさほど豊富ではないはずだ。供給経路を断てれば、干上がらせることが出来るのだが」

 

 ブレイズの作戦は、彼の独断ではなく、他の者との合議の上、考案されたものであり、合議の結果に関する彼の概説に、異論が出ることはなかった。

 

 作戦は決定され、早急に前線に伝達される運びとなった。

 

 ちょうど、日が暮れかかっていた。両軍には休戦の気配が見られ、インベガが陣形を変えるのを切っ掛けに、戦いは一時停止した。

 

 リーザとの衝撃の遭遇と別れを果たしたフリッツの耳にも、作戦の概略が伝えられ、その遂行のため後退するように命令が下された。

 

 淡く弱まった夕日の差す中、フリッツを含むインベガの部隊は疲労感や負傷などのため、落ち込んだ感じでトボトボと退路を進んだが、しばらくして、胸騒ぎがして振り返った。

 

 夕日の下で、木立がメラメラと燃え盛っていた。紅色と紫色の夕空に、無数の火の粉が舞う。

 

「アイツら、木に火を付けやがった。チクショウ」

 

 誰かが悪態を叫んだ。他にも、小汚く『光』を罵る者や、石を放る者がいたが、その中にいて、フリッツは、ただしょんぼりとしているだけだった。そういう者は、他にも大勢いた。皆、疲れ切って感性がマヒでもしているかのようだ。

 

 フリッツの目に、木立の火事は、味方たちにとって、罵声を浴びせたくなるほどであるのとは反対に、火の粉の舞う様が美しくさえあり、むしろうっとりさせるほど綺麗であった。

 

 

 

 その日の夜は秋らしく涼しくて過ごしよいものだったが、誰も彼も、一日戦い通したのに明るい展望が得られず、塞いでいた。

 

 

 

 翌朝は、打って変わって曇りがちな空模様だった。妙に蒸し暑く、ジメッとして不快で、戦意が削がれるようだった。

 

 弧状の陣形を組んだインベガに対し、『光』がどういった攻勢を仕掛けてくるか、ブレイズを始めとして、指揮を司る上官たちは、ハラハラし、額に細かい汗を浮かべていた。攻撃されて潰滅した避難所と避難民の後に関する情報が、まだやってこないというのも、彼等の焦燥感を増大させた。

 

 ブレイズは弧の内側に、守られる形でおり、彼の腕の負傷は、一日経っただけでは勿論完治することはないが、ある程度、気にならなくなりはしたようだった。

 

 他方、フリッツは、ちょうど弧線の中央に位置し、一番前方にいるのだった。

 

 彼には、遠目に、昨夜焼かれた木立の無惨な黒焦げの跡がぼんやりと見え、憎さと悲しさと悔しさの入り混じった感情に苛まれた。

 

 近くでは偵察の役目を担う兵士が望遠鏡をずっと覗いていて、敵の動きに注意している。

 

 日輪の見えない厚い雲に覆われた朝、ただ待つという時間は、嫌に長たらしく感じられ、ほとんど眠たくなるくらいだったが、とうとう、兵士が「来た」、と叫ぶことで、一瞬の間に、弧状に並ぶ騎士・兵士たちに、緊張感が漲った。

 

「髪の長い将官と思われる騎兵がひとり、先頭にいます」、と偵察兵。「その後方には、えぇと……」

 

 彼は困ったように言い淀む。

 

「敵の数は、千、二千、いや、もっと多くいます!」

 

 最早敵軍の規模などどうでもよかった。状況はにわかに緊迫し、塹壕にいる射撃兵が、弓矢での射撃で牽制する。

 

 無数の放たれた矢が放物線を描いて飛んでいき、相手方へと向かっていくが、あまり効果はないようだった。

 

 だが、インベガには、大砲があった。

 

 大砲はすでに発射準備を完了しており、工兵の手により、敵軍の中央を目掛け、発射された。

 

 フリッツの目は、エルと思しき髪の長い将官を正面に据える敵軍が、砲弾が発射されると同時に、その着弾点より一気に離れるように離散する姿が見え、直感的に、砲撃は大して意味を成さないだろうと思った。

 

 避けられた、と誰かが叫ぶと、将官が、打って出るように大声で命じ、じっとしていたフリッツ、そしてインベガの騎士・兵士たちは、「オォー」という鬨の声を上げ、応戦のために向かっていった。尖兵同士が激しく搗ち合い、フリッツも、剣を持って相手と火花を飛ばし合った。

 

 弧状の陣のインベガに対し、『光』は一転突破を狙ってきたように、思われた。彼等は戦力を集中し、一気にインベガの中枢を攻め付けるつもりなのだろう。

 

 となれば、弧状に広がっているインベガは、いわば戦力を分散させているのであり、一転突破のために戦力を集約している『光』の戦術には、不利と言わざるを得なかった。

 

 相手の出方は、すぐに急報として後方のブレイズのいる陣営へと伝令を介して届けられることになり、伝令の兵は俊足を飛ばした。

 

 敵軍は大砲、及び銃撃と剣撃を兼ねる『銃剣』を持ち出してきており、インベガにとって、そこに入ることで砲撃を避けられる塹壕が役に立つ運びとなったわけだが、『光』の集中攻撃は苛烈で、塹壕があることの有利ささえ霞むくらいであり、一刻も早い戦力の応援が、弧状の陣の内、フリッツたちのいる中央には必要だった。

 

 

 

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