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ティーネの客には、高貴なもの、下賤なもの、老いたもの、若々しいもの、と色々だったが、中にはやはり兵士がいた。そして兵士と対する時は、どうしようもない同情と憐憫からの慈愛の情とが湧きあがってしまうのだった。兵士はそんなティーネの取り乱したような様子に、じゃっかんの気味悪さを覚えさえした。
ブルーノは考えていた。これからどうしようか、どうすればいいのだろうか、と。
とにかく働こうと思った。このまま運勢の下落に任せて衰亡していくのは、彼に宿る生命がやすやすと許容しなかった。
しかしいかんせん当てがなく、母は頼るには余りにも疲弊し過ぎていた。卑しからぬ家庭に生まれ、育ち、待っていればおのずと道が開けてくる生活を生きていた彼の目の前は、父の死んでからは、もう暗澹として先が読めず、信じられるものがあまりにも少なかった。
さて、ティーネは娼婦だった。そして彼女には常識を逸しない程度の衛生観念があり、風呂にはほぼ毎日入らないと落ち着かなかった。へんぴな村と比べれば中央に近い街には衛生設備が整っており、金銭さえあれば体臭やしらみなどに困ることはなかった。
ブルーノは、毎日とは言わないまでも、たびたび母と同行し、体の汚れを流した。
ある日のことだった。
彼は熱い湯に口まで浸かって日頃の憂慮に沈んでいた。
「来週からまた遠征だな」、と他の湯桶にくつろいでいる男が言った。隣には彼の連れ合いらしきお互いにくだけた雰囲気の相手がいた。
遠征と聞き、ブルーノは何となく、父のことを思い返すのだった。彼らはきっと兵士なのだろう。若者ではなかったが、年寄りでもなかった。
「今度も生きて帰れるといいがな」
「死んだって構わないくらいに考えようぜ。何たって兵士なんだから。死ぬのだって仕事っていうものよ」
「お前はタフだな。おれはいつもやめてぇなって思いながら渋々やってる。お陰様で上の評価は低くって万年兵卒だ。お前は兵長になったんだろう? 大したもんだよ」
「馬鹿。お前は他に何も当てがないから兵士になったんだろう? なら観念して勤めるしかないじゃないか」
「ごもっとも」
最初に言いだした方の男が両手でお湯を掬い、顔をごしごし擦る。
「ふぅ」
「頑張ろうぜ。頑張って稼いで、きれいな嫁さんもらおうぜ」
「あいにく、おれは縁がないもんでな。間に合ってるよ。酒も、女もな」
「それは、どういう意味だ?」
「この間妙な女を見つけてな……」
ブルーノは聞くともなしに聞いていて、何だか嫌な気分になってきた。それは、まず、男たちが兵士であり、死んだ父とその後のことが回顧されたからであり、次には、彼らが話そうとしている、思うに性的な事柄が、漠然とした悪い予感をブルーノに与えたからである。
「おれが兵士やってるってさ、話の流れで言うと、なぜか顔面蒼白みたいになって、涙目になるんだよ。ふつうの娼婦にしてはこなれた感じがしなかったが、何か事情があるんじゃねえかな。あまり詳しくは気の毒で聞けなかったがよ。骨と皮ばっかりで痛々しいやつだったし」
「やれやれ」
ブルーノはぼうっとして来た。のぼせたのだろうか? いや違う……
だが、それ以上おのれの真意を突き詰めるのは、怖気づいて出来ないのだった。