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村にはちょくちょく訪れているが、来る度にブルーノは、そこに十余年住んでいたことから、昔懐かしい思いに駆られるのだった。
先祖崇拝というのは人類という種にとって何か必然性じみたものがあるが、ブルーノの父に対する精神的関係は、血縁に由来する宿命的なものではなく、ただ単に、彼が父に親近感を持っていることの微笑ましい現れに過ぎなかった。そして彼は、生前あれほど疎ましがっていたにも関わらず、死後これほどその思い出を求めるようになるなんて、と、自分を嘲らずにはいられないのだった。
ふるさとの村を訪れた時、彼は決まってまず墓参りするのだが、その次にもすることがあって、彼は、かつての住まいに足を伸ばすのだった。
レンガ屋根の家屋は、石壁がいくぶんか風化し、色がくすんでしまっているが、まだ打ち壊されたりせず残っており、そこには、生活の気配があった。煙突があり、白煙が空へ夢見るように昇るにつれ、薄くなり、そして消えて見えなくなるのだった。
住んでいるひとのことは何も知らなかった。記憶にない顔で、ひょっとしたら別の村か町から移住してきたひとかも知れないし、ひょっとしたら彼が覚えていないだけで昔からこの村に住んでいる住人かも知れなかった。
しかし彼にはそんなことはどうでもよかった。彼は、彼がいた家に新しい家族が住み着き、そしてきっと子供がいるだろうことや、毎晩家族全員で食卓を囲み、一家団欒の時を満ち足りた気分で過ごしているだろうことなどを想像し、その安息の時間を昔父が生きていた頃とダブらせて懐かしがり、また、それがもう昔のことだという今昔の感を覚え、むなしい気分になるだけだった。
しみじみと感傷を携えて街へ戻り、家へ帰ると、内職の編み物を中断して、テーブルで顔を横向けに突っ伏して寝ている母がいた。
寝息を立てる彼女の目元には、ぷっくりと涙袋が膨らんでおり、また髪はチリチリに乱れ、その様は見ていると目をそむけたくなるほど痛々しかった。
しかしその寝顔だけは、どこかあどけなく、屈託のないなめらかな表情で、まだティーネが、様々な辛酸をなめながら、かろうじて健全さを保っていることを示し、ブルーノはほっとできるのだった。
深い呼吸に合わせて母の背中が上下する。
ブルーノは思った。あぁ、おれはどうすればいいのだろう、と。
おれは、間違っているのだろうか。
兵士という商売をやって、父はたくさん金銭を稼いでいたのに、おれはどうして豊かになれないのだろう。どうして苦しんでいる母を癒してあげることが出来ないのだろう。
兵士という選択は誤りで、何か別の道があったのだろうか……。
もっと人殺しをしないといけないのか。もっと人の財貨を盗まないといけないのか。一兵卒から昇格するために、もっと自分を罪過の沼に入り込ませないといけないのか。
兵士になんてなるもんじゃない。
父のいましめが、今になってじくじくと、ブルーノを責め付けるのだった。