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ティーネが虚弱になってからは、『その時』の到来は予測し得ることであった。
仕事はおろか家事まで出来ないほどの神経衰弱に陥って、彼女はベッドに寝たきりになり、やがて衰弱死した。穏やかな最期ではあったが、満ち足りた気分で旅立っていったかと言えば、悲しいけれど、甚だ疑わしかった。
それまでの生活の乱高下にあってそれほど当惑することのなかったブルーノにしてみれば、母の死は憤激したり動揺したりするまでもない、理の当然のことだったし、頭の中にぼんやりとあった展望に適うことだった。
かといって、彼が母に死なれてもよいと思っていたわけではなく、出来れば未然に防げることを欲したし、そのために苦悩した。
だが、母を死に誘導する死霊の恐るべき力に抗するすべを彼は知らなかった。ティーネは徐々に内側から毒に蝕まれ、そして絶命した。彼女の遺骸は、マルティンの隣に葬ってあげようと、息子は高い金額で、葬儀屋にその遺骸の搬送を依頼した。
そういうわけで、父を追って母が逝去し、ブルーノは一人ぼっちになった。
もう働いてお金を稼いでいるし、ご飯の用意だって家事だって難なく出来るほどの生活力を習得していた。
そう、生活を営む仕方を彼は取りあえず十分といえるだけ覚え、慣熟した。
しかし、母の死後、彼の生は、何か重大な欠損への気付きによって、不安定なものとなった。
母と二人きりとなってから、ブルーノは彼女のために生きていた。彼女の支えとなり、彼女が一日でも早く健やかに回復するようにと、そういう目的意識を胸に、日々の時間を過ごしていた。
それは、いわば行き先のある人生を生きていたということであって、彼の向かう先というのは、母が再び笑顔になり、男でも誰でも愛し、依存ではない健全な信頼を寄せ、規律とリズムと良心による整然とした生活を送られるようになる時であった。
ところが、結局彼の助力や介抱はある程度の効果をもたらしはしただろうが、傷付いた母を完全に復活させるには至らなかった。
母のいなくなった街の場末の粗末な家。そこはもう彼だけの生活しかなく、それは寂しいことであった。
だが、彼の目は涙を浮かべることはなく、ただ茫然と、光を失った彼方を途方に暮れて遠望しているだけだった。
それからの彼は、ひとまず身辺整理をし、母の持ち物でいらないものは処分した。兵士としては、食い扶持を稼がないといけないので、渋々ではあったが従軍した。
兵士であれば誰もかれも武功を上げたいと欲し、奮闘するものだが、ブルーノは取りあえず前線に出るだけでて、誰も傷付けようとせず、石弓であれば虚空に向かって撃ち、剣や槍であれば、大振りに振って勢いだけを敵に見せて威圧した後は、そそくさと撤退した。
彼の評価は段々と下がっていき、いよいよ進退を考えることを促されるところまで行った。