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マントに付いた帽子を深く被って、ブルーノは歩いていた。
ザクザクという足音がしている。
雪が降っており、うず高く積もっているのだった。
雪雲に覆われた空は、一面灰色で、隠れて照る日が暮れようとしており、彼のいる樹海では、だんだん闇が深まっている。
覚束ない足取りで歩を進め、マントの前開きを片手で握って風にバタついたり飛ばされたりしないよう、ギュッと握り締めている。
所狭しと群生している針葉樹の枝葉は空より降ってくる雪を被って白くなっている。
ぜえぜえと、ブルーノは苦しそうに肩で息をしている。両の瞳は光明を失ったように濁っていて生気に乏しく、俯き気味で、その様は、気でも
彼の足取りは日脚よりも遅いらしく、いよいよ目が見えないくらい辺りが真っ暗になりだした頃、彼は敗北したように跪いて、すっかり動けなくなってしまった。
雪の降り方はちょっとずつ強くなっていき、風が吹けば、彼に吹雪を浴びせ、無風であれば、彼の被る帽子の上に、肩に、跪いて折れた脚に、降り積もっていくのだった。
彼は本当に、正気を失って、こんなひと気のない木々の間を徘徊しているのだろうか?
否、そうではなかった。
彼は、旅人であり、旅をしているのだった。この針葉樹の深い森は経由地であり、抜け出せば、近くに村があって、そこで食事も安眠も出来るはずだった。
ところが、森に入ってしばらくし、出口に早く着きたいと思い始めた頃、彼はギョッとして立ち止まり、空を見上げた。
雪はもともと降っていて考慮に入っていたが、雲の層が厚くなって、降雪量が増し、光の差す角度がよく分からなくなっていることに、気付いたのだった。
時すでに遅しだった。彼はじぶんが迷ってしまったのだと悟った。
冬の旅はやめておけと旅で立ち寄った村のギルドでそう忠告された。確かに獰猛な野獣たちは冬眠などして活動をやめているが、凍死する可能性があるし、雪雲が空を覆えば進路が分からなくなる。
残りわずかの体力を振り絞り、近くの木に寄りかかる。だが、葉の細い針葉樹のもとでは、雪がちょっとでも降り積もれば、その重みに葉がたわんで雪が滑り落ちてくるので、その害を避けることは出来なかった。
あの村に逗留しておけばよかったのだろうか、とブルーノは、寒さに膝を抱えて縮こまった姿勢で考えた。
――いや、あの村には、鄙びていた上、ろくな仕事がなかった。仕事がないのなら、留まる意味はないし、無駄に金と時間を消費するだけになっただろう。冬が明けるまで悠々と暮らせるほどの貯蓄などない。むしろすかんぴんなのだ。
だが、あるいは、金銭と時間を節約する代わりに、命を失うことになるかも知れない、と、ブルーノはそううっすらと予感した。
死はすでに経験した。父の死と、母の死だ。そうして今度は自分の番がやってきたというわけだ。
辺りはもう真っ暗だった。暗闇に慣れた目に見える範囲では、雪の妖精がチラチラと、はかなげに舞っていた。
死ぬのは怖いだろうか。ブルーノにはよく分からなかった。
兵士をしていて、戦場に出ていた頃、敵と白兵戦を交えている時、お互いに武器を手に、相手を殺そうとしている、死んだとしても無理はない、と思っていた。無残に転がっている死体を目にしても、血の生臭さに不快になるだけで、これといった感情を生じさせることはなかった。
だいたい、戦場に感傷を持ち込むべきではないのだ。あるのは殺すか殺されるか、奪うか奪われるかの二極であり、勝利を求めて奮闘し、勝てば敵地へ進出してより物質的に豊かになり、負ければその逆で防衛線の手前まで撤退するという、それだけだった。
割と生死に対して淡泊だったのかも知れない。
父の死に際しても、母の死に際しても、ブルーノは打ちひしがれるなどせず、割合冷徹にその印象、その感情、その感覚の渾沌とした間を通り抜けた。
あるいはひょっとすると、じぶんの死も、そんな風に、割合淡泊に通り過ぎていってしまうのかも知れない。
死んだら、あの世で父と母に会える、そう想像し、彼らの生きていた頃の相貌を思い返すと、それも悪くないと、ブルーノには、ほのかに思われるのだった。