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どんどん嵩を増していく深雪に埋もれて凍え死ぬのだと、ブルーノは思った。
目の前に見える景色はまるで現実味がなく、どこか窓でも隔てて眺めているようだった。
みずからを取り巻く絶望的窮境を、決して愚昧ではない彼はしっかりと把握していたが、吹きすさぶ風雪に晒される彼は、限界まで衰弱し切り、最早まともに物事を考えられる状態ではなくなっていた。
誰も訪れない、厳冬の、夜の森。
安らかに冬眠する動物が数多くいる中で、ただのヒトに過ぎないブルーノは、粗末な防寒着だけを着こみ、行くべき道を見失い、いよいよ永眠を覚悟する時が来たようだった。
あぁ、でも、と彼は思った。
自分は残してきたものは何もない。父も母も死に、故郷を捨て、旅人となり、今死んだところで、誰かを悲しませることもない。自分が死ぬことで、誰かが損失を被るわけではない。借金も何もしていないのだ。
それなら、いい。悔やむべきことはない。
そう観念したところで、ふと彼の胸にサッと稲光のようにある感情が閃いた。
悲しみだった。
だが、なぜ……?
体温を失いかけている彼の体が、ワナワナと震え、氷のように冷たくなった頬に温かい涙が伝った。
彼は歯を食いしばり、寒さに凍える肺でハッハッ、と犬のように短い深呼吸を何度かすると、拳を握ってみずからの胸を打った。
一度では足らなかったようで、二度、三度。打った。
やがて、四つん這いになり、ゲホゲホとほとんど嘔吐しそうなくらい涙目になって苦しそうに咳き込んだ。
まだだ……!
彼はしばらく目をキッと瞑ると、開き、ふらつきながらも、おもむろに立ち上がった。
死を迎えようとし、その死と握手でも交わそうとしていた彼に、すんでのところで何か死に抵抗させるものが萌したようだ。彼の両目には生き延びようとする意志がメラメラと燃え盛り、輝いていた。
客観的に見れば、彼の状況はもう救いようのないくらいの瀬戸際まで追い込まれていた。明朝彼が凍死体として雪を被って転がっているという予想は、筋の通ったものであった。
だが、死に抗おうと決意したらしいブルーノの輝く目は、この雪の夜の真っ暗闇の中、何か見えているようだった。それに向かって突き進めばいいと教える何かが、彼の方へ光を放射しているようだった。
彼はよろめきながら深い雪の中、辺りに乱立する木々に手を突いて、大儀そうに歩を運んだ。
一歩、二歩、三歩と、眠りを誘うようなリズムであったが、確実に、前へ、未来へ、両頬を真っ赤にして、うつろな死の淵から、進んでいった。
冷たい空気を肺へと呼吸して、わずかなエネルギーを、生き延びることへと健気に注いだ。