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城下町は迷路のようだった。
とにかく平地の面積が少なく、ほとんどどの道も上がるか下がるかしている。お年寄りにやさしくない街づくりだと思うものの、地形的条件を考慮すれば致し方のないことだろう。
「おかしいわね。何でこんな熱っぽいのかしら」
上り坂の砂利道を、青空に向かってゆっくりと上るリーザ嬢が、額に手を当てて呟く。
ぼくが先導しているのだが、どこへ向かえばいいのか、ピンと来なかった。とにかく、馬車に乗ったまま、任務完了とするには、令嬢の変調は障害に違いなかった。だから、下りて、先に町の中を探索しつつ、考えようと思ったのだ。
彼女は体に異変をきたした。それも、ありふれた仕方ではなく、特異な、また、ぼくに心当たりのある仕方で、異変をきたしたのだった。
ブルーノに前聞いた話からすれば、その病に罹ってしまったら、死を覚悟しないといけないらしい。
リーザ嬢が意識を失い、二度と目覚めないという状況を想像してみた。すると、ぼくは心臓が冷たくなるようだった。
シュトラウスという村の富豪に依頼され、別に日頃から誰かの護衛だの移送だのしているわけでもないのに、報酬がいいからと偶然請け負ったのが、リーザ嬢の護送だ。
ぼくはブルーノと共に、彼女の身辺を清め、危殆に瀕することのないよう、目指すべき土地へ旅しないといけないのである。
グルンシュロス城まで辿り着いたことは大きな成功である。だが、その成功は、令嬢が万全の状態であるということが伴っていなければ、意味をなさないのだった。
病気となればまず思いつくのは医者に診てもらうことだった。
だが、ぼくにおける医者にまつわるイメージは最低のもので、頭でっかちで役立たずも同然だった。
母のことがあるのだ。
母が病に病床に臥した時、医者を頼った。最初母は拒んだが、ぼくはその理由が分からなかったし、病をどうにか出来るのは医者以外ありえないだろうという決然とした思いから、ぼくは医者を呼んだ。
結果はひどいものだった。
坂を上り詰め、見晴らしのいい高所へと来る。風がよく吹き、涼しい。見下ろせば、夥しい建物が、下へ向かってうねうねと這う道に沿って建っており、その道は、ひとの姿で活気付いているのだった。
「涼しい」、と令嬢が、目を瞑って気持ちよさそうにこの場所を吹く風を浴びる。褐色のポニーテールがふわふわと散らばって優雅になびき、揺れる。
その様をどこか安堵を覚えてぼくは眺め、一方で、過去に思い巡らした。
母は、ぼくを連れて村の風呂屋へと行った。そして湯浴みし、体をリフレッシュした帰り、ぼくは母の様子のおかしいことに気付いたのだった。やけに盛んに呼吸し、更に、お風呂から上がった後に出るのとは違う種類の火照りが見えるのだった。
熱を伴う病気だった。熱が上がるのなら、入浴はよくないだろう。熱を帯びた体を、熱いお湯に浸ければ、悪化することは容易に想像出来る。
あの時風呂屋に行く前に母が発熱していたか、また発熱していたとして、どれくらい前からなのか、それは分からない。
だが、母がもともと体調を崩しており、そういう状態で入浴し、病態を更に悪くしたと仮定すれば、それは合点の行く話だ。
とにかく熱を上げないようにすること。むしろ下げるように処置をほどこすこと。
ぼくは取りあえず、その一点だけを意識し、また信じて、動こうと思ったのだった。
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