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その店は、薬屋ではなかった。
目的とする薬屋のすぐそばではあるけれど、また別のものを取り扱うお店で、鉢植えには色とりどりの花が咲き誇っていた。
花屋だった。
なぜぼくが、急ぎの用があるにも関わらず、花屋などに寄ったかというと、見覚えのある面影を見た気がしたからだ。
質のいいとはいえない衣服を纏い、薄い褐色のロングヘアー。年の頃も、服屋で働くミアと同じくらいに見える。
後ろ姿を目にして懐かしい、慕わしい気持ちになったのだが、彼女がぼくの気配に気付き、振り返ると、別人であることが分かった。決して醜くはないけれど、残念に思ったことは否めない。
「あら、いらっしゃい。何かご入用で?」
鉢植えの草花をひとつずつ丁寧に観察している彼女が、振り返って挨拶する。そうすることで、葉が害虫に食い荒らされていないか、とか、花弁が朽ちていないか、などを、確かめているようだった。
「あっ、ぼくはその、別に……」
ミアの似姿に現を抜かしていたぼくは、もじもじしてしまう。
「薬を探してるんです。知人がちょっと、病を患いまして」
「まぁ、それは気の毒なことね」
「薬屋さんは、あっちですよね」
ぼくは地図の情報を思い出し、薬屋があるだろう方向を指で示す。
「そうね。確かにそうだけど、せっかくだから、うちのも見ていかない?」
「えっと、お花を、ですか?」
ミア似の少女は違うと首を振る。
「うちはお花以外に薬草も取り扱ってるの。お花を育てるのと要領は変わらないしね。育てたお花はうちで売るけど、薬草は、薬屋さんに納めることがあるのよね。ちょっとした連携ね」
「この町の薬屋さんは、その、どうなんですかね。ぼく、旅人をしていて、買い物に不慣れなもので、ギルドでは騙されるかも知れないから気を付けるよう言われたんですが」
「あの薬屋さんとは長い付き合いだけど、そんなひどいことする人じゃないと思うわ。まぁ、商売していれば、どこかでいざこざがあって、それが悪評に繋がるかも知れないけどね。ギルドは町にある商店や工場のことを網羅してるものだから、そのギルドがそんな注意をするっていうことは、過去に何かあったんでしょうね。わたしには思い当たることはないけど」
――ところで、なぜかぼくは同い年くらいの異性から、妙に馴れ馴れしく接せられる。打ち解けやすいところがあるんだろうか? よく分からないが。
「症状は?」
少女が尋ねる。
「発熱、湿疹、紅斑、といったところでしょうか」
「そう。なら、これなんか効くかもね」
彼女はズラリと並ぶ中から、小樽を一個持ってきた。
大きな葉っぱが根本に放射状に広がって重なっており、しかし、その葉に対し、ずいぶんと貧弱なヒョロヒョロの茎が不安そうに、慎ましい白色の花冠まで伸びている。
「ハァ」
ぼくは釈然とせぬまま樽を受け取り、しかしどうすればいいのか分からず途方に暮れて立ち尽くした。
「そうだ」
思い付いたように彼女が言う。
「あなた、薬屋に用があるのよね。なら、その薬草を持っていってくれないかしら? まだ他にもいろいろとあるんだけど」
彼女が思うに薬草であろう鉢植えや樽を見せる。
「自分で煎じたり出来るのなら、必要はないけど、薬草をどう加工していいか分からないなら、薬屋さんに聞くのが一番適切よね」
ぼくは首肯した。
「もし、何かあれば戻ってくればいいわ。うちの店と薬屋さんは取引があるから、わたしが取りなしてあげる」
そういうわけで、ミアに似た相貌の少女は、ぼくに幾つもの鉢植えを押し付けた。
きっと悪い子ではなかろう。いささか馴れ馴れしいだけで、警戒心も不信感も持たせることはなかった。
だから、ぼくはその勧めを聞き入れて、彼女のお使いがてら、薬屋を訪ねようと思ったのだった。
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