さまよえるフリッツ【完結】   作:Yuki_Mar12

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第67話

***

 

 

 

 花屋からそう遠くない薬屋を訪れたぼくは、花屋から薬草を預かってきたことと、じぶんが薬を求めていることを伝えた。

 

 ゆったりしたローブを纏い、帽子を被った薬屋の主人は、机について読書中だった。

 

 彼は最初、「いらっしゃい」と言いながら、ぼくという未知の客を怪訝そうに探るように見たが、花屋からの使いだと知ると、納得したように、それまでの警戒を解いて打ち解け、破顔した。

 

 こぢんまりとした建物の中は、あまりリラックスした雰囲気ではなかった。瓶が棚にびっしりと並び、テーブルの上には分厚い書籍が山積している。瓶の中には、生き物が干からびたものが入っていたりし、何か寒々とした感情をぼくに覚えさせた。

 

 が、びくびくしていても埒が明かないので、花屋のお使いであることを伝え、薬草を机の空いているところに置いた後、ぼくはもうひとつの用事を切り出した。

 

 リーザ嬢の症状を教えたのだった。

 

 主人は最初、ぼくが何を言い出すのかと困惑したようにポカンとしていたが、やがてぼくの意を汲み取ってくれ、「成るほど」、と納得するように言った。

 

「承知した。薬草を薬に加工すればいいんだね」

 

「発熱と湿疹があるんです」

 

「じゃあ、解熱効果のある薬がいいね。さて、どうしようか」

 

 主人は棚の端から端まで顎を持ってじっくり眺め、好適な薬種を吟味するようだった。

 

 何も知らないぼくは、後は彼に任すほかなかった。

 

 彼はしばらく悩んだ後、数個の薬草の瓶を取り、机の上に載せると、適当と思われる量だけを抜き出した。

 

 彼は隅の暖炉へ行き、薪を積んで火を付け、水で満たした宙吊りの鍋をその火にかけた。

 

 沸騰した熱湯に先ほど選んだ薬種をぜんぶ入れ、グツグツと煮込み、煎じる。何とも言い難い異臭が嗅覚を刺激する。

 

 やがて出来た薬液――飲み薬は、小瓶に入れられ、ぼくに手渡された。

 

 代金は請求されなかった。ぼくがお使いをしたその報酬として、無償にするという、主人の取り計らいだった。

 

 ぼくは感謝し、おどろおどろしい色をした

飲み薬を手に、薬屋を去った。主人はリーザ嬢の快復を祈念してくれた。

 

 後は、彼女のもとへ帰るだけだった。悪化していないといいのだけど。

 

 時間はそれほど経ってはいないだろう。空はまだ青い。

 

 花屋とギルドハウスを含めた、寄ってきた建物が並ぶ通りを逆戻りし、坂道を、あの展望のよい、風のよく吹く広場へ向かって駆け上っていく。

 

 角を曲がると、ぼくはベンチに座る、コンラートさんに寄り添われた令嬢を見つけた。

 

 彼女は座りながらうつらうつらと舟を漕いでいるようで、コンラートさんは、不安そうに眉を下げた面持ちで俯いているのだった。

 

 ぼくの帰ってきたことにコンラートさんが気付いても、令嬢はなお夢の中で、ぼくは正面に立って、その肩をポンと叩いて起こそうとした。

 

 令嬢はゆっくりと目を開けたが、半開きで、ぼくを認識出来ているのかどうか、定かではなかった。

 

「……フリッツ?」

 

「お嬢様、薬をお持ちしました」

 

「薬……?」

 

 その顔はまだ不自然に赤かった。所見では、病状は何も変わってはいないようだ。

 

 ぼくは小瓶を令嬢の手に握らせた。コンラートさんはその液の気味悪さにしかめっ面になった。

 

 寝ぼけた令嬢は妙に聞き分けがよく、意識がはっきりとしないのに、従順に返事をし、請われたことを聞き入れた。

 

 彼女は小瓶を口に付け、空を仰いだ。中身が全部、彼女の口に流れ込み、そして、ゴクリと飲み込まれた。

 

 一瞬の沈黙。

 

 その間合いは、これからどうなるのかという恐れと興味を搔き立てた。

 

 太陽も雲も、固唾を飲み込んだように、カチッと固まって止まったようだった。

 

 令嬢は、咳のような音を口を閉じたまま立てると、両手で口を覆い、嗚咽を漏らした。

 

「オエッ。まずっ。ちょっとフリッツ。何よ、これ?」

 

彼女の両目には涙が滲み、流れた。よっぽど口が受け付けない味のようだった。

 

「苦しいでしょうけど、我慢してください。病気に効くみたいですから」

 

 彼女はしばらく嗚咽を続けたが、やがて落ち着きを取り戻した。その顔は涙やら鼻水やらよだれやらでひどく汚れていたけど。

 

 さて、と、ぼくは人心地が付く気がした。

 

 取りあえず、令嬢のために一番やりたいと思ったことはした。人事を尽くしたとは言えないけれど、問題を認識し、思考し、熟慮し、実行した。

 

 後は、いいように事態が転がり、収束することを願うばかりだった。

 

 

 

***

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