第69話
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それは、予想さえしないことだった。
リーザ嬢を無事移送し、グルンシュロス城下町を後にしたぼくら、ぼくとブルーノとコンラートさんの三人は、元いたところであるゲールフェルト村へと、来た時と同じ日数を費やして、道中人里で投宿するなどして帰還した。
シュトラウスさんはどうしているだろう。
きっと、愛娘の安否が気になってろくに眠れぬ日々を過ごしていたことだろう。そしてぼくらが帰着し、令嬢が親元を離れ、よその土地で過ごすことになったという報告を受け、嬉しいような、また寂しいような、複雑な気分になることだろう。
村の近傍に差し掛かった時、ぼくらははてと奇異の念に打たれた。
村のそばの地理は何となく覚えている。どっちの方角に森があるとか、どういう木々が立っているとか、どういう草花が茂っているとか、そういう視覚的情報の記憶が、村と結びついているのだ。
だから、あるはずのところに村がなく、その代わりに何か荒涼とした――それも、周囲の生き生きとした環境と対蹠的に、不自然に荒涼とした野原が広がっているだけという光景に、強い違和感を持った。
ぼくらはそう鈍いわけではなく、村で起きたかも知れない出来事を推測し、想像し、そしてその恐ろしさに背筋が寒くなった。声こそ出さないけど、ぼくら全員は心の中で、「まさか」、と呟いて、恐らくそうであろう真実を直視しようと挑む勇気をもって、忌避しようとする怯懦や恐怖心と戦ったはずだ。
馬に鞭打ち、急いで村へと近付く。
「何だよ、これ……」
誰かが呟く。
コンラートさんは力なく跪き、ぼくとブルーノは、唖然としてその場に立ち尽くした。
村はもう、村といえる状態ではなかった。
住宅はほとんどが損壊し、あちこちにゴミが落ちていた。屋根の瓦が転がっていたし、蹴られでもした扉は外れかかって抜けかけの歯のように傾ぎ、窓ガラスは割れるかヒビが入るかしていた。
あちこちに石弓の矢や、折れた剣、槍が落ちているのが目立つ。警備の兵士を始めとして、村人が、赤黒い血に塗れて、呼吸もせず倒れてもいる。
誰かが村を襲撃したのだ。そう明言されはしなかったが、ぼくら全員は、そう確信していただろう。
でも、何のために?
いや、ことの経緯を考えるより先に、確かめたいことがある。
ミアはどうなったのだ? シュトラウスさんも……
おぉい、とブルーノが声を張って叫んだ。
誰かいませんか?
……。
沈黙が走った。
彼の声は、誰の返事を呼び寄せることなく、虚しく宙に消えた。
「ブルーノ」
ぼくは半ば凄む恰好で呼びかけた。
「分かってる、フリッツ。お前には気になっていることがあるんだろう。だが、バラバラになるのはよくない」
「ご主人様は……」
四つん這いになって顔面蒼白のコンラートさんが、ブルーノを見上げる。
「分かりません。何も分かりません。とにかく、確かめましょう。何も分からなければ、悲しむことも、憤ることも出来やしない」
空はどこまでも青かった。
秋口に入り、吹き通う風は夏の熱を失って慎ましさを帯び、ぼくはだけど、その涼しい感じが、今は無性に悲痛だった。
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