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ぼくらが世話になったギルドハウスもその他の例に漏れず、内外ともに損傷が目立ち、ガラス窓は割れるなり、ひびが入るなりし、扉はグラグラで、物が散らかっていた。
村はさながら嵐が通り過ぎた跡のようだった。
しかし物を傷付けたり破壊したりするだけではなく、ひとを攫いもするというのが嵐とは違うところだった。
村はほとんど一方的に戦闘を仕掛けられ、村に駐屯し、警備するわずかの手勢は、慣れない戦いに総じて打ち負かされ、後は皆、連れ去られたのだろう、という風に推測される。
ぼくらの内誰も、口をきかず、押し黙って、それぞれ、村で起きただろう出来事について、沈思黙考していた。
その時、ぼくと同じように顎を持って厳粛に考え込んでいる様子のブルーノが、ギョッとしたかと思うと、「走れ!」と号令して一散に駆けだした。
ぼくは始め、何が何だか分からなかったが、足元に矢が飛んでくるのを見ると、緊迫感を持って反射的にブルーノを追った。コンラートさんも馬を蹴って疾駆させた。
「乗ってください、早く!」
なりふり構わぬという風に正面だけを直視しているコンラートさんが、叫ぶ。
馬はひとよりも当然足が速い。逃げるなら、じぶんの足よりも馬の足だ。
ブルーノがまず馬車に手をかけて飛び乗り、その後ぼくは遅れて取り残されそうになったが、ブルーノが伸ばした手を掴み、引っ張り上げられた。
最初の矢が飛んできてから、何本も矢が飛んで来、何本かはぼくの体をかすめ、矢じりの鋭い部分で擦り傷を作ってしまった。
疾駆する馬に曳かれる荷台が、ガタガタと暴れ、ひどい乗り心地だったが、緊張と危機感から、ぼくの意識は、生命を死守することに集中し、心身を損なう危険性のあること以外には、全く注がれなかった。
高速で移動する馬車は大気中を勢いよく突っ走り、向かい風がひどく、髪は後ろに向かってなびき、服はばたつき、うっすら肌寒くさえあった。
「これから、どこへ?」
コンラートさんが、やはり正面を見据えたまま誰にでもなく訊く。
「とにかく遠くに行くしかないです」
ブルーノが返す。
「ただ、ぼくらの行く方に、まとまった敵勢力がないといいですがね」
「さっきのヤツらは」、とぼくが横やりを入れる。「一体何なの?」
さっき矢を放った者は、ギルドハウスの上階の窓にぼんやりと見えた。あそこに隠れて、何をしていたのか知らないが、ノコノコと帰ってきて呆然としているぼくらに、一撃を浴びせようとしたのだ。それも、威嚇ではなかっただろう。殺すつもりだったのだと思う。結局、腕が悪いのか、矢は外れたけど。
「そんなの分かんねえよ」、とブルーノ。「おれが聞きたいくらいだっつーの。急に攻撃されて慌てたもんだから、どういう恰好してたかろくに見ることも出来なかった。正規の兵だったら何となくどこのやつかは分かるんだが、あるいはただの賊かも知れない。あくまで憶測に過ぎないがな」
ようやく晴れて任務終了と達成感と解放感に浸れるはずだったところが、不測の事態となってしまった。
ぼくもそうだが、ブルーノも、コンラートさんも、皆揃って、自分たちを取り巻く状況がどういうものなのか、まるで分からず、困惑と落胆と衝撃を抱えて、本来そこへ帰るはずだった場所を離れ、あてどもなく逃げ道を、馬車でひた走っているのだった。
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