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何とものっぺりとした一夜が明けた。
朝、ぼくは寒さと身震いで目が覚めた。
ブルーノは自分の腕を枕にまだ寝息を立てていた。
テントを出ると、まばゆい朝日の、湖からの照り返しに、目が眩んだ。
焚火の跡が黒々と残っている。火の気は絶え、風が吹けば、灰がうっすらと舞い上がり飛散するのが見える。
辺りはひっそりと静まり返っていた。朝は朝でもまだ早朝なのだろう。日輪は秋らしく神々しいほどの黄金色を思う様、照射している。
馬車の方を見ると、ひとの気配がしなかった。きっと、コンラートさんもまだ睡眠中なのだろう。
ハーネスを外された馬は、下草の上で脚を折って横になり、楽にしている。
馬の目は開いており、起きてきたぼくを、じっと見つめている。
これからどうしたらいいのだろうか――馬と一対一のぼくは、そう馬に尋ねたい気持ちになった。
馬に限らず、獣は、ひとの世のことわりなど、分かりはしないだろう。だが、馬は駆けてくれる。それも、ひとを乗せ、荷車を曳いて駆けることが出来る。それだけで十分頼れる、ありがたい存在だった。
リーザ嬢は、城下町でどうしているだろう。
ぼくは青空を見上げ、思いを馳せた。遠くの連峰の尾根を伝って、淡い白っぽい光がもやのように滲み、その上では、磨いたような冴えたブルーが一面を染めていた。
彼女は、じぶんの村のことをまだ知らないだろう。
“パパによろしく”、という彼女の別れの挨拶にあった言葉が思い返される。
その伝言を届けるべきシュトラウス氏は、いなくなっており、恐らく連れ去られたと思われるということがかろうじて推測されるばかりで、彼がどこへ行ったのか、皆目分からないのだ。
ぼくは敢えて、目が眩まんばかりの光彩陸離たる湖面にあえて視線を投じた。そして微かに目まいを覚えると、ゆっくりと目を閉じた。
視覚が絶たれる。だが、目蓋に残光が見える。辺りはしずかだ。
目蓋に映じる残光はやがてぼんやりとしたイメージの揺らめきに変わり、ぼくが意識を集中すると、そのイメージは、ぼくの意志、期待、希望に即して、形相を整えていく。
手がかりは、ないことはない。
あの村に、まだ敵兵が潜んでいるなら、彼に問いただせばいいのだ。確実に、ぼくらが望む情報を持っている。ブルーノも、きっとそう、何となくではあっても、企てているに違いない。彼がダメだとしても、ぼくがやる。やってみせる。ぼくは単なる付き人をやめ、主体的に行動したいと、報酬を目当てに、ブルーノに打ち明けたのだ。
腰のベルトには鞘に納まった短剣がある。まだ、血塗られていない、まっさらの剣だ。
ぼくは手を剣にやる。指先で、何となく柄頭に触れ、グリップまで伝わせ、やわく握る。
引き上げれば、刀身がこの朝日の澄明さを反射し、キラリと光る。
そしてその光は、ぼくに、人を傷付け、最悪殺傷するかも知れないことへの覚悟を、圧倒的な威圧感や恐怖感をもって、迫ってくる。
のっぺりした夜から、覚めやらぬ寝ぼけから――翻然と覚醒し、背筋を一本の冷気がつたって、上ってくるようだった。
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