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その朝いちばん早起きだったのはぼくで、その次がコンラートさんで、最後がブルーノだった。馬は、ぼくよりずっと早起きしていたけど。
コンラートさんは、病弱な老人のように線の細い佇まいでおり、ブルーノは、後頭部が寝ぐせで乱れに乱れており、最も頼れる存在であるはずの彼がそういう有様なので、あってもいいはずの緊迫感や緊張感といったものが滑稽なほどなかった。
キラキラした黄金色の朝日の鮮やかさ、爽やかさとは打って変わって、ぼくらそれぞれが醸し出す雰囲気といえば、ひどいものだった。誰もかれも陰気臭く沈んで、有意な一言が発されるでもなく、各自、考え込んでいるようで、また、すねた子どものように、深く傷付いて意気阻喪しているようでもあった。
重苦しいその雰囲気にあって、何か意見するなどして気まずい沈黙を破ることが憚られたし、炊事、食事、洗濯などの衣食住にまつわる行動以外は慎まないといけないように感じられた。
ぼくはその中で無性にイライラして、爪を噛んだり、貧乏ゆすりをしたりして落ち着かなかった。
湖面に残っていた陰が、昇っていく日に掻き消える頃、ぼくらはパンだけの食事をモシャモシャと味も素っ気もなくとっていた。
その途中、コンラートさんが食べかけのパンを下ろし、こう言った。
「やっぱり、戻った方がいいのかなあ」
どこか独り言めかした言い方だったが、ぼくは彼のその言葉に反応を示し、「何ですか」、と尋ねた。
「いや、お嬢様はきっとこの事態をご存知ないと思うんです。執事として、旦那様のことをお知らせしなければ」
ブルーノがいささか眉間にしわを寄せ、口を挟む。
「手紙ではダメなんですか?」
「むぅ」、とコンラートさんは困った風に首を傾げる。「最寄りの村が分かりませんから。それに、郵便を頼ってはいつお嬢様にこのことが伝わるか知れません。あまり当てに出来ないのです」
「あぁ、成るほど」
どことなく、険悪な空気が漂う。
「どうされますか」、とコンラートさん。
「どうするとは?」
「いえ、お二方も、ご同行なさいますか」
「ぼくらは……」
そこまで言って、ブルーノは答えあぐねるように目線を逸らして俯き、口を閉じて低く唸った。
ぼくにはもちろん、決定権なぞなかったが、ちょっとじぶんなりに考えた。
城下町へ戻り、令嬢にことの次第を連絡することと、ミアを始めとした行方不明の村人を捜索すること。
その二つを天秤に掛けるとしたら、重いのがどちらかは、自明のことのように思えた。
「ぼくは」、とぼくは口を開いた。
意外だったのか、二人は幾分びっくりしたようにぼくを見た。
「ぼくは、残るよ。残って、人探しする」
「フリッツどの……」
コンラートさんの敬うような、呆れるような、よく分からない驚きの顔を見返すと、ぼくと彼の行くべき道は違えたという確信を持つ気がした。
ブルーノは、どうするだろう……?
彼は、じっと考え込んでいる。
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