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達成感など、みじんもなかった。
見張りの男を殺めたことだ。
まず、罪悪感があった。彼に対して、恨みはなかった。ただ、障害であるという理由から、殺した。
後悔じみた疑いが、後から湧いてきた。他に方法はなかったのだろうか。殺す以外の方法が……。
途中、ぼくはハッとして、持っている短剣の刀身を見た。
血で真っ赤に濡れた刃が、怪しい光を放っている。
気味が悪くなって死体の服で血をざっと拭うと、鞘に納めた。
無性に、謝りたかった。ごめんなさい、ごめんなさい……。
そしてその謝罪の言葉を呟く時、ぼくは涙の出ない乾いた目の前に、生前の母の生き生きとした姿の幻を見るのだった。
それからのことは、よく覚えていない。
どうしようもないダルさを覚えたぼくは、血まみれの死体を後にし、元いた木立にトボトボと歩いて戻り、適当な木の根元に、どっと崩れるように腰を下ろした。
ごめんなさいという呟きはもう口から出てこず、代わりに、苦しげな息が、大きく膨らんだり縮んだりする胸から出てきた。
もう何もしたくなかった。
ぼくは深い眠りに落ちた。目を瞑ったら、あっという間にぼくの意識は深みに沈んでいった。
どれくらいの時が経ったか、ある不快感にぼくは眠りを妨げられた。
目は開けなかったが、どうやら肩を揺さぶられているようだ。
ぼくは眉間にしわを寄せ、肩に触れるその手を、憎しみを込めて握り締め、大振りに振り払った。
うろたえたような声が聞こえた。
ぼくはとうとう目を開けた。
ブルーノがかがんでいた。
ぼくが振り払ったであろう方の手を別の手で持って、ひどく怪訝そうに、ぼくを凝視している。
「どうしたっていうんだ」
「別に……」
ぼくは反抗的な気持ちになって、目を逸らした。
「まぁいい」
彼は、目を瞑ってため息を吐くと、目を開けた。真面目な表情だった。
「あいつをやったんだな」
例の見張りの男だ。
「うん。殺した」
「どうやってやったんだ? 争ったりしたのか?」
「ううん。木の実を投げて、注意を逸らして、背中から剣で刺した」
「そうか。おれはおれで、片割れを始末した。だが、フリッツ、どうして村へ来なかった? あの見張りを殺して、どうしてここに戻って寝ていたんだ?」
ぼくは苛立って歯噛みした。
「分かんないよ。とにかく疲れちゃったんだ。もう何もする気が起きなかった。帰りたかったんだ。何だか悲しいんだ……」
「はっきりした指示をしなかったおれも悪いが、お前の行動はいささか自己本位的だな」
「ぼくが、わがままってこと?」
「あぁ」
「ブルーノはっ――」
ぼくは憤然とそう叫ぼうとして、息継ぎを誤り、どもってしまったが、呼吸を取り戻して、もどかしい思いと共に、「ブルーノも」、と言い直した。
「ひとを殺したんでしょう。平気だったの? ぼくらは別に、あのひとたちを恨んでいるわけでもないのに」
「目的があれば、それを果たそうとする。その妨げになるものがあれば、排除する。当然のことじゃないか」
「それはそうだけど……」
悔しかった。ぼくはとにかく悔しかった。
自分がその責任を担い得ないことに手を染めるべきではないと、遅れて悟った。一方で、確かに他にしようがなかったという思いもあって、ほとんど混乱していた。思考が渾然と乱れ、収拾が付かなかった。
ポン、と、ブルーノは微笑みを浮かべ、ぼくの頭に手を置いた。優しい手付きだった。そして今のぼくは、誰かのやさしさを、心の底から求めていたのだ。
「いずれ分かる時が来るさ、お前にも」
目頭が熱くなり、だけど、ぼくは泣くまいと、涙を堪えた。
この世は、きれいごとだけでは成り立っていない。
そう、頭では分かっていても、どこかで、ぼくはその事実を、認めたくないという執念に、頑なになっていた。
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