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こればっかりは分からない、と、ブルーノがぼくの頭に置いた手をどけ、自信のないことを吐露した。
「正直、おれはもう諦めても構わない気持ちでいる。報酬が貰えないのは痛いが、これから解決しようとしてる問題と比べれば、リターンより、ロスが多い気がする」
その言葉は、今の落ち込んでいるぼくに対して、誘惑的に響いた。
もう剣呑な真似をしなくていいのなら、ぼくは安らいだ気持ちになれるだろう。肩の重荷を下ろし、子供の、従者の、無知であるゆえの、気楽さへと立ち返ることが出来るのだ。
「どうする?」
と、ブルーノは問うた。何の含みもないまじめな問い方だった。
「お前の意志をおれは尊重する。やるならやるでよし。やめるならそれもよし。ただし、おれのことは当てにするなよ。この件はおれの手に負えないものだからな」
ぼくは茂みの隙間より、遠くを窺った。
まだ、ぼくが手に掛けた男の体が横たわっている。
確かに、このまま引き返して全てリセット出来るなら、楽に違いない。ぼくとブルーノはまた、仕事と寝床を求めて旅するのだ。全てを過去にし、新しい土地へ、新しい仕事へ、新しい人々との出会いへ、歩んでいく。
だが、そのような虫のいい話があろうか。ぼくはもう人殺しをしてしまったのだ。その業をわが身に引き受ける覚悟で敢行したのだ。今更それをなかったことにしてしまうのは、子供の特権であるのかも知れないが、濫用は決してすべきではない。
やったことが罪だと思うなら反省し、償い、もう二度と繰り返さないと誓う。反対に、それを公正だと確信するなら、目的へと行動を繋いでいく。
ぼくはミアの面影を回想の中に眺め、改めて、彼女を過去に置き去りにしてしまうのは惜しいと思った。彼女との微かに、だけど確かに結ばれた絆を断ち切ることは出来なかった。
だから、ぼくはブルーノを見つめ、勇を鼓して続けることを申し出た。
彼は「分かった」と、粛々と聞き入れた。
「お前は、フリッツ、とても難しいことをやってのけた。それが正しいかどうかは別にしてな。その覚悟は買ってやる。そして、その覚悟はこれから生きていく上で必要だ。何度もお前は困難な目に直面するだろう。何もお前だけじゃない。にんげん誰しも、平等にそれぞれ決められた星のもとに生まれ、生きていく。誰しも、必ず困難に遭遇する。一度じゃない。何度もだ。その時に覚悟がなければ、うろたえて逃げるしかないだろうし、逃げるということは、みずからの運命を放棄するも同然なんだよ。だから……」
ブルーノは、ぼくの手を取って、こう言った。
「頑張れ」
ぼくの心を埋めていた憂鬱や懊悩は、すっかり消えはしないものの、その重みを和らげ、ぼくにある程度の自由を返した。そして絶えず流れていく時間を思い、その流れていく先へと内なる目を投じた。ミアとの再会。
少々ロマンチックに過ぎはしないかと、苦笑がこぼれてくるくらいには、ぼくの精神は健常に戻っていた。
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