第84話
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目覚めると、そこは見知らぬ部屋だった。いや、実際は知っているのだけど。
屋根裏部屋で、決して広々としているとはいえず、むしろ狭苦しい感じがあるが、常識を逸しない程度に定期的に隅々まで手入れがなされている形跡があり、過ごしにくいということはなく、むしろ、これはこれで、広々とした住まいに慣れていた
だが、それも最初だけのことで、しばらくすれば、環境に慣れて、飽きが来てしまい、今ある感興は全てなくなってしまうに違いない――という予想を、うっすらとではあれ、彼女はすでに持っていたのだった。
棟木に向かって傾斜となって狭まっていく天井を、光に舞う無数の埃越しに、ちょっとの間見つめると、ベッド上の彼女は、おもむろに半身を起こした。
「フワァ~」と、大きくあくびをすると、部屋の扉がコンコンとノックされ、声がした。
「リーザ、起きてるかい」
「はい」
彼女が答え、寝ぐせの付いた髪をさっと手直しし、醜くむくんでいるかも知れないという不安から、顔を手でゴシゴシこすると、扉が開き、男が顔を覗かせた。老人だった。
「おじさん」
「ひょっとして、起こしちゃったかい?」
「ううん、だいじょうぶ。自分で目覚めたわ」
「そうかい。寝心地はどうだったかね」
「何も不満はないわ」
「ふむ。それはよかった。今、家内が朝ごはんを作っている最中なんだ。もしよければ、その辺を散歩してきたらいい。朝の空気が澄んで清々しいから。もちろん、家の中で過ごしたってかまわない」
「ありがとう。おじさん、ちょっと考えるわ」
会話が終わり、扉が閉まると、リーザの伯父が階段を下りていく音が続いた。
フゥ、と、何となくため息すると、彼女は掛布団を上げて折り畳み、くるりと転回してベッドを下りた。
鏡台に行き、椅子に座って、鏡を見る。
普段は後ろで括っているが、今は解いている髪が、ややパサついて、広がっており、着ている寝間着はいささかゆったりし過ぎてオーバーサイズのようだ。寝間着は持ってこず、当地で借りることにした。伯父の子が昔着ていたというお古だ。
リーザは、自分のそんな姿の反映を見、ちょっと子供っぽくてムッとする反面、やはり我ながら可愛いものだという思いに得意になるのだった。
城下町へ来て初めての朝。
フリッツたちはまだ旅路の途中だろうか、などと、彼女はすでに去っていない旅の仲間たちへ思いを馳せた。フリッツのみならず、ブルーノに、コンラート。馬車を曳く馬も、もれなく彼女の回想に現れた。
無事に帰っているといいのだけど――。
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