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先日手紙を託した飛脚がリーザのもとへ来訪し、届け先の村の事変を理由に、手紙を返却した。送り届ける相手がいないのだから、当たり前のことだった。
しかし、心をこめてしたためた手紙が、手元に返ってくるというのは、何とも馬鹿げていた。送られない手紙などに、どんな意味があるものか。
もしも――とリーザは考えた。
もしも、じぶんが故郷にいて、たとえば父が所有する麦畑が荒らされるなどの事件が起きたなら、父はみずから赴いて確かめるか、もしくは執事のコンラートに命じて代わりに確かめに行かせるに違いない。
今、父も母も、コンラートもいない。何か命じたりお願いしたり出来る身近なひとはいないのだ。いるのは老後の生活を細々と暮らす伯父夫婦のみであり、彼らはちょっとした財産を持っているばかりのしがない有閑人でしかない。
故郷は襲撃を受け廃村となった。死人は少ないというが、その中に両親が含まれていないという確証は得られていないし、実際に、死んでいないにしても、行方知れずであるという問題にぶつかる。
リーザはある日――伯父が村のことを彼女に知らせる日だった――屋根裏部屋を出、落ち込んだ気分で階段を下りようとして、ハッとし、聞き耳を立てた。
伯父夫婦が何やら話し込んでいる様子だ。
「――しかし妙じゃないか。村を襲って、死者よりも行方不明者の方が多いなんて」
と、伯父。
「ほんとのことは分かりませんよ。でも、わたしが思うにきっと、連れ去られたんでしょう」
「からくも逃げおおせたと考えたいが……」
「そうですね。そう考えたいところですが、こういう事例はちょこちょこあります。ある村が襲われて、抵抗する者は惨殺され、それに怯えた村人が手もなく拉致される。そして拉致した村人を人質に領主を脅迫し、金品や領土の割譲などを要求し、呑めば解放するし、呑まなければ……」
物陰でじっとしているリーザは、ゴクリと固唾を飲み込んだ。いやに大きい音がし、伯父たちに気付かれないかドキドキした。
「せっかくリーザが無事着いたというのに、折悪しくこのようなことが起こるというのは、何かの前触れなんだろうか。この町も、あるいは突然、襲われて潰滅してしまったりするのだろうか」
「考えすぎですよ。あなた」
「なぜそう言い切れる? 現にリーザの村は予告も何もなく強襲を受けたじゃないか」
リーザは階下へ下りようとしたのだが、にわかに胸が悪くなり、部屋へ戻った。
静かに扉を後ろ手に閉め、背中を扉に持たせ、しゅんと俯き、長嘆息をついた。
開けていた明るいリーザの展望に、急に暗い陰が差した。
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