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オットーは飛脚であり、日々、手紙や荷物などを運び、各地を走り回っている。取り立てて秀でたところはなく、頭脳はどちらかというと暗い方で、勉学などさっぱりという具合だったが、体力には覚えがあり、特に持久力に長けていた。飛脚になったのはギルドの紹介だった。
「情報収集ですか」、とオットー。すっきりした短髪の青年だが、目尻が下がっているせいで眼力がなく、どことなくぼんやりして頼りなさそうに見えてしまっている。
「そうだ」、と所長が彼の問いに厳然と答える。「今、当地の模様を知りたいというニーズは多い。ところが我々のあずかり知るところではないので、分からないと答えざるを得ないのが現状だ」
それでよいではないかとオットーは思った。相手が知りたいと思うことを知らない。以上だ。自分たちは自分たちの出来ることをすればよい。やるべきことは受け持ちの仕事だけで、それ以上は高望みだ。
「だが、オットー君」
夫人が、ことの行く末を半ば恐々と、半ば愉快そうにジロジロとした目付きで、二人の間から見守っている。
「これは非常によいチャンスと思わないかね」
「というと?」
「当地は剣呑だから、皆、治安を危ぶんで近寄りたくても怖気づいてやめてしまうのだよ。中にはあの村の近親者がいて、その安否が知りたくてしょうがない者もいるだろう。彼らに代わって、彼らの知りたい情報を集めるのさ。勿論、ボランティアじゃないからね、それなりの対価は頂戴するが」
オットーは、直感し、気が一時、遠くなった。これから押し付けられるに違いない仕事の面倒くささに憂鬱が募ったのだ。
「君は要領が悪く、仕事量が他の者と比べて少ない。だが、今回の仕事を果たした暁には、相応の待遇へと引き上げようじゃないか」
「ですが所長、ぼくは自分の精一杯やれることをやっているだけで、不満があるわけではありません」
「分かっている」
所長は椅子より立ち上がり、オットーの肩をポンと激励するように叩いた。
所長はにんまりと笑ってみせたが、オットーは目をパチクリさせて戸惑うばかりだった。
日が暮れて、オットーは家に帰った。
家に帰った途端、オットーは頭をかかえて四つん這いになり、両親をびっくりさせた。
両親はどうしたのかと尋ね、オットーは悲しみと共に所長から課せられた難題を説明した。
息子は両親が同情し、所長を説得してでもくれることを期待したが、仕事をこなした後の好待遇を聞くと、両親は、同情するどころか、むしろぜひがんばれと息子にエールを送った。オットーは失望した。
彼は分かっているつもりだった。彼はこう推量した。所長はきっと自分を煙たがっているのだ。だから、この機会を利用し、ぼくを遠ざけてしまおうと、そういう魂胆で、ぼくを廃村へと派遣するのだ。
やれやれ……。
オットーはいっそどこかへ逃げてしまいたい気分だった。
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