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伯父夫婦は当惑していた。どうすればよいのかまるで分からず、おたおたして、ある種のパニック状態になっていた。
よもや姪のリーザがひとに泡を食わせるような妄言を口にしようとは、彼らはつゆも思わなかったのである。
かつてリーザの父が生まれて間もない彼女を城下町まで連れてきた時、その神の寵愛を受けたと思わせる可憐さに、思わずうっとりしたものだ。
リーザとの顔合わせはその時が初めてで、以後、今回のホームステイまで、彼らが会うことはなかった。だが、折に触れて手紙などでやり取りがあり、伯父夫婦は、弟の娘が、とても聡明に、また美しく育っているという手紙の文言を読み、まるで我が子のように喜んだのである。だから、城下町の学校に通うために寄宿させてくれないかという頼みを受けた時、夫婦は、すでに子育てを終え、彼らの子は自立して遠方に離れて暮らしており、ちょっとした所在なさを覚えていたので、二つ返事で嬉々として引き受けた。
手紙の通り、リーザは才媛になっており、夫婦は彼女が来訪した時、温かく迎えた。程なくして故郷の村の事件のことを耳にした時、ショックであったが、リーザは、気丈に振舞おうとしているように、少なくとも伯父たちの目には映った。
仕方ない、と彼女は言ったのだ。村が襲われた理由は明白ではないが、明白ではないだけで、どこかに理由があったのだろう、と、いささか落ち込んだ様子を見せるだけで、それ以上に心身を悪くすることはなかった。
リーザは学校までの少ないバカンスをそこそこ有意義に過ごし、いよいよ始業の日を迎えた。
皮革製のショルダーバッグに筆記用具などを入れ、朝、家を発った。
彼女の生活において、新しい幕が開けるのだと、伯父夫婦はしみじみ思った。
だから、リーザがとんぼ返りして戻ってきた時、彼らは目を丸くした。何があったのかと怪訝に感じた。
「わたし、旅に出たいの」
「……何? 旅?」
伯父夫婦は、最初は冗談のように受け取り、苦笑と共にダメだと答えた。
「本気なの! 本気!」
……冷や汗が伯父のこめかみを伝った。叔母はあまりに突然のことにちょっとした適応障害を突発的に起こし、棒立ちだった。
玄関でのことだったが、リーザの向こうに、男がいた。飛脚のなりをしている。
伯父は察しが付いてこう言った。
「まさか、ゲールフェルト村に行くんじゃないだろうね」
「えぇ、そうよ。この目で確かめたいの。真相を知りたくても手紙も送れないんじゃ、落ち着かなくって仕方ないわ」
「やめなさい。危険だから。君みたいな子が一人で行っては……」
「一人じゃないわ。彼が付き添ってくれる」
そう言ってリーザは、飛脚と思しき男を示す。
男はしまりのない微笑を見せ、軽薄に会釈して挨拶する。
「おいおい、待ってくれよ……」
仮に、これが、リーザと伯父の対決なのだとすれば、まだ、決着は付いていないものの、有利なのはリーザの方に違いなかった。何となれば、追い風が吹いているように、勢いがあったからである。
それは、伯父がどれだけ首を横に振り続けようと、彼女の一存で、強行出来るくらいには、力強いものだった。
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