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どこにでも賊なり、流浪者なり、そういう、社会の枠組みよりはみ出した者がいるが、彼らについて言えば、そうなってしまった原因としては、色々と挙げられるだろうが、多くの場合、社会がその構成員になるよう促す要請に反抗することである。
能力が足りないか、あるいは革命的な思想を持っているがために、その中に生まれた社会集団を裏切り、アウトサイダーになる。
彼らは基本的に若く、年長者に対して反感を持っている。職人であれば親方がそうだし、農奴や小作農であれば地主がそうだ。彼らにしてみれば、権力を持ち、下位の者を圧伏し、指導する立場にある者が憎たらしい。
だから、そういう者たちが、徒党を組んで、ちょっとした騒動を起こすことは、ないことではなかった。時には空騒ぎで終わるし、時には血なまぐさいことにまで発展する。
一夜を明かそうと、林の中に忍び込んで、ある大木のそばに馬車を停め、その中で横になっていたコンラートは、何かガサゴソと物音がするのが聞こえた。
「……!」
コンラートは一瞬目を見張ったが、誰かがランタンを掲げて、馬車の中を覗いているのだった。
「こんばんは、おじさん」
「ど、どなたですか」
コンラートは内心、ドキドキしていた。馬車を覗き込む男は、ずいぶん若かったが、目が虚ろで、表情が非常に不健全だった。また、ボロを着ていて、身分が怪しかった。
物音がすると同時に、ひとの気配がする。それも、複数だ。彼の仲間であることはまず間違いない。
「ぼくは、ただの通りすがりの者です」
「馬鹿な。こんな夜中に。こんな林の中で。ありえない」
「そうですね。おじさん、気を付けないといけませんよ。林や森というのはね、隠れるのに打って付けですがね。隠れるのは何もあなただけではないんですよ」
無造作に髪とっちらかった頭の男が、クンクンとにおいを嗅ぐ仕草をする。
「思ったより、荷物は少ないな……」
男は独り言を呟く。
コンラートは何とかこの卑しい男とその仲間を追っ払ってしまいたいのだが、いかんせん有用な武器がなく、すっかり参ってしまった。どうしてこんなことになったのだろうとうんざりした。彼は、フリッツたちと村に帰着して、その荒廃した風景を見た時に、記憶を遡った。全てが狂ってしまったようだ。彼はそう考え、何もかも失ったように意気消沈した。
「いい馬をお連れになっているのでね。ちょっとうらやましくなったんです」
「うらやましくなった?」
「えぇ、僕らはいい暮らしをしている大人が大嫌いでね。見つけたら、蹂躙してやりたくなるんですよ」
そう言うと、男はコンラートの足を掴み、思い切り引っ張った。
コンラートは抵抗したが、すでに老衰している身であり、無意味に等しかった。
ランタンがぼんやりとした光を膨らませている真夜中の林の地面に、老人は引きずり落とされ、最初に棒切れで腹を全力で打たれた。その一撃を食らい、老人は声にならない呻きを刹那上げると、もう意識が遠のき、お腹の中が熱くなる感じを覚えた。
段々と朧気になっていく仰向けの視界に、老人は、数人の男たちがそれぞれ好き好きに老人をリンチしている光景が、まるでじぶんとは無関係のもののように、映ったのだった。
自分は自分の人生に、どれだけの価値を付与することが出来ただろう?
薄れゆく意識で、彼はとっくり考えた。
そして、主人とその愛娘に、深い謝罪の言葉を心中で呟くと、昏睡の闇へと落ちた。
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