第96話
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ぼくは当惑し、何が何だか分からなかったが、彼女が――ミアが、ことの真相に触れたであろうことは自然と推測出来た。
彼女の取り乱した精神状態が落ち着き、呼吸が整うと、ミアは、涙を拭ってぼくの問に対し、俯きながらも、重い口を開いてくれた。ブルーノはそばで、両膝に手を置いてやや前屈みになった姿勢で、気の毒そうにミアを見下ろしている。
――彼女によれば、こういうことだった。
まず、ミアを始めとして、村人は多くが囚われた。
その理由を、彼女ははっきりと知らなかった。
「お金とか、権力とか、そういうものが欲しくて、攻撃したんじゃないか」
ぼくはそう、みずからの考察を提示してみた。
「ねぇ、ブルーノ?」
「まぁ、そう考えれば筋が通るっていうだけで、確証はないがな」
「お金、権力……」、とミアは呟いた。「そうかも知れないわね。とにかく《彼ら》は、力を求めていた。それはきっと、間違いないでしょうね」
「彼ら?」
ぼくらが思い描く、あり得るだろう敵の姿というのは、どこかの強欲な領主が率いる荒くれものの軍隊か、もしくは規模の大きい盗賊の集団であった。
ところが、ミアが言うには、敵はどちらでもないそうだった。
「じゃあ、誰が……」
日が暮れようとしている。ぼくもブルーノもはっきりと明言しなかったが、今夜はこの城跡で寝ることになるだろう。多少の不便はあるが、今はミアから取り出せる情報が尊ばれるべき時である。
ミアは話した。敵はある結社である、と。
その結社は、ある宗教団体をバックにしていて、あるいは、その宗教団体そのものかも知れないということだった。村人を襲い、連れ去ったのが、ただの一派なのか、全体なのか、定かではなかった。
彼らが説くのは、『魂を導いてやること』だった。ひとえにそれだけのようだった。
その文言自体を見れば、悪いものではないが、実際にやっていることがやっていることなので、怪しまずに感心するというのは無理があった。
「まるで他の連中が迷える子羊とでも言わんばかりの説教だな」
ブルーノが嘲って言う。
「えぇ、そうね。彼らにとっては、彼ら以外の人々は、迷誤を抱えた者なんでしょうね。だから、連れ去って、監禁して、洗脳して、仲間にしたいんでしょう」
――ミアは、他の村人と共に、連れ去られた後、ある修道院じみた、いやに立派な施設に閉じ込められ、寝る間もなく、彼らが定める強制労働と義務教育に従事させられていたそうだ。自由な時間はまるでなく、徹底的に管理され、指導され、それまでの生きがいを丸ごと奪われて、無理矢理に彼らがよしとする代わりのものあてがわれた。
苦痛であり、屈辱だったが、宗教団体に属する騎士の抑圧が強く、反抗したり、脱走したりするのは困難だった。
「わたし、これからどうすればいいのかしら」
ミアが悄然と呟く。
「村が壊滅させられて、わたしの帰る場所は、もうなくなっちゃった」
風が吹いた。冷たい秋の夜風だった。
その風は、まるで体を貫くような感触がし、ぼくは、ミアへの同情もあいまって、胸がツンと痛むようだった。
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