さまよえるフリッツ【完結】   作:Yuki_Mar12

96 / 451
第七章~恐るべき敵を目指して~
第96話


***

 

 

 

 ぼくは当惑し、何が何だか分からなかったが、彼女が――ミアが、ことの真相に触れたであろうことは自然と推測出来た。

 

 彼女の取り乱した精神状態が落ち着き、呼吸が整うと、ミアは、涙を拭ってぼくの問に対し、俯きながらも、重い口を開いてくれた。ブルーノはそばで、両膝に手を置いてやや前屈みになった姿勢で、気の毒そうにミアを見下ろしている。

 

 ――彼女によれば、こういうことだった。

 

 まず、ミアを始めとして、村人は多くが囚われた。

 

 その理由を、彼女ははっきりと知らなかった。

 

「お金とか、権力とか、そういうものが欲しくて、攻撃したんじゃないか」

 

 ぼくはそう、みずからの考察を提示してみた。

 

「ねぇ、ブルーノ?」

 

「まぁ、そう考えれば筋が通るっていうだけで、確証はないがな」

 

「お金、権力……」、とミアは呟いた。「そうかも知れないわね。とにかく《彼ら》は、力を求めていた。それはきっと、間違いないでしょうね」

 

「彼ら?」

 

 ぼくらが思い描く、あり得るだろう敵の姿というのは、どこかの強欲な領主が率いる荒くれものの軍隊か、もしくは規模の大きい盗賊の集団であった。

 

 ところが、ミアが言うには、敵はどちらでもないそうだった。

 

「じゃあ、誰が……」

 

 日が暮れようとしている。ぼくもブルーノもはっきりと明言しなかったが、今夜はこの城跡で寝ることになるだろう。多少の不便はあるが、今はミアから取り出せる情報が尊ばれるべき時である。

 

 ミアは話した。敵はある結社である、と。

 

 その結社は、ある宗教団体をバックにしていて、あるいは、その宗教団体そのものかも知れないということだった。村人を襲い、連れ去ったのが、ただの一派なのか、全体なのか、定かではなかった。

 

 彼らが説くのは、『魂を導いてやること』だった。ひとえにそれだけのようだった。

 

 その文言自体を見れば、悪いものではないが、実際にやっていることがやっていることなので、怪しまずに感心するというのは無理があった。

 

「まるで他の連中が迷える子羊とでも言わんばかりの説教だな」

 

 ブルーノが嘲って言う。

 

「えぇ、そうね。彼らにとっては、彼ら以外の人々は、迷誤を抱えた者なんでしょうね。だから、連れ去って、監禁して、洗脳して、仲間にしたいんでしょう」

 

 ――ミアは、他の村人と共に、連れ去られた後、ある修道院じみた、いやに立派な施設に閉じ込められ、寝る間もなく、彼らが定める強制労働と義務教育に従事させられていたそうだ。自由な時間はまるでなく、徹底的に管理され、指導され、それまでの生きがいを丸ごと奪われて、無理矢理に彼らがよしとする代わりのものあてがわれた。

 

 苦痛であり、屈辱だったが、宗教団体に属する騎士の抑圧が強く、反抗したり、脱走したりするのは困難だった。

 

「わたし、これからどうすればいいのかしら」

 

 ミアが悄然と呟く。

 

「村が壊滅させられて、わたしの帰る場所は、もうなくなっちゃった」

 

 風が吹いた。冷たい秋の夜風だった。

 

 その風は、まるで体を貫くような感触がし、ぼくは、ミアへの同情もあいまって、胸がツンと痛むようだった。

 

 

 

***

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。