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ミアが暴露してくれる話に、ぼくは関心を持って貪欲に傾聴し、ブルーノも、同じようだった。ぼくらはそれぞれ、何がどうなっているのか知りたかった。
しかしブルーノは途中から、様子が変わったようで、眉間にしわを寄せ、口元を手で覆い、険しい目はぼくには見えない何かに注がれていた。何か深刻に考え事をしていて、近寄りがたい雰囲気になっていた。
ぼくは彼の、よくよく注意していなければ分からないだろう態度の微妙な漸次的変化に、ミアの話への関心を分かつことはなかった。うっすら何を考えているのだろうと軽い疑問符を浮かべるだけで、ぼくの識閾を大きく超えることはなかった。
ミアが教えてくれる宗教組織は『真光教団』と名乗り、元は小規模の秘密結社だったのが、今ではちょっとした領土と勢力を持つようになったことで、活動の範囲を拡大し、彼らにとってのフロンティアを開拓しようと進めているようだ。
以上の話は、ミアが施設で受けた講義の内容を根拠にしたものであり、教団の名は、信徒たちが、魂を正しく導いてくれる存在として崇める天使が舞い降りて来る道である光を由来としているそうだ。
一方的に長々とそういう教団の説教を聞かされながら、どれだけ自然な拒否感を持ったり、退屈さに眠たくなったりしようと、怠けることは決して許されず、あくびなどしようものなら、施設の教室に常駐している監視の者が、ものすごい険相をして板切れで引っぱたくし、余りにも素行が悪いと見なされれば、別室に連れていかれ、詳しいことをミアは知らなかったが、半殺しにされるとのことだった。
「ミアは大丈夫だったの?」
ぼくは尋ねた。
「えぇ」、と彼女は頷いた。「教団に逆らえばどうなるかは、段々と、他の失敗したひとたちを見て分かっていったわ。あえて逆らうことを考えることが出来ないくらい、彼らは冷徹で、酷薄で、非情だったわ。その様に恐れをなしてみずから入信するひとが出てくるくらいにね。あそこでは、誰も抵抗なんて出来ないんじゃないかしら」
「よく、そんな環境を抜け出せたね。徹底的に管理されていただろうに」
「まぁ、ね……」
ミアはとても辛そうに、そう相槌を打った。
「ミア?」
「わたしね――」、とミアは苦悶を思わせる声色で言った。彼女は何か後悔してでもいるようだった。
「わたしね、みんなを騙したの」
「騙した……?」
「お母さんもお父さんもいたけど、みんな絶望して、誰も、ここから脱出しようと試みるひとがいなかった。わたしは脱出したかった。だって息苦しかったんだもん。寝ても覚めてもずっと自由がないのよ? そんなところでひとは生きていけると思う? わたしは無理だった。無理だと思った。だけど、一人ぼっちではどうしようもなかった。だから、みんなを騙したの。最初は驚き戸惑っていたみんなが、徐々に教団に恐れをなして、すり寄っていくのをうっすらと、だけど確実に感じて、わたしはとても悲しかったし、孤独で、心細かったけど、我慢して、利用することにしたの。わたしも、真光教の信者になろうとでもするように従順に振舞ってね。そうしたら、うまく行ったのか。相手が、恭順にへいこらするみんなに溶け込むわたしを見て、すっかり見込みのある――洗脳しがいのある獲物だと思い込んで、不必要に警戒することをやめたの。挨拶も、雑談もするようになってね。そんな相手を出し抜くのなんて簡単だったわ」
ミアはそこまで言うと、涙ぐむ直前にあるように、呼気を感情の波に従って震えさせた。
「みんなを裏切っていくのは、イヤだったけどね」
乾きそうだった少女の目に、再び涙が滲んだ。
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