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山の麓の木立に入り、数分歩くと、湿り気のある空気の流れをうっすらと感じて、その流れに従って進むと、草木の鬱蒼とした中にポツンとある池に出た。ひとの姿が現れた途端、トカゲが這って逃げ、小鳥の群れが一斉に飛び去った。
そこは、山へ向かって傾斜する土壌がえぐれて出来た風の池で、わりに水質はよさそうだった。
そういう環境に対して期待したように、池の水は雑味が少なく澄んでいて、飲むには悪くなかった。また、食べられそうな淡水魚もおり、石の下でひっそりとまどろんでいるのを手掴みで捉えると、ナイフでしめ、以前、ブルーノに好意で作ってもらった小型の樽に池水と共に入れた。生食は怖いが、火を通せばだいじょうぶだろう。
魚について、手頃なものを見つけるのも、捕らえてしめるのも、実際、骨が折れたけれど、人数分だけ確保することはからくも出来、ぼくは、飲み水も食用魚も、これだけあれば十分だと思い、時間が押していたので、急ぎ、池を離れた。
木立に籠る空気はぞくぞくするほど冷たくなり、平原へと出ると、振り返って見上げる山は屹然としていかめしく、その上の空は、雲と共に橙色に染まり、哀調を帯びていた。
城跡に戻ると、ミアが相変わらず膝を抱えた格好で座っていたが、壁に背を持たせて眠っていた。すっかり項垂れて、首は傾き、肩が深い呼吸に合わせて上下している。
よっぽど疲れているのだ。そっとしておいてあげよう。
ぼくは取りあえず、魚を入れた樽、飲料水で満たしたひょうたんを置くと、焚火の準備に取り掛かった。
カチカチと火口であるボロの切れ端に向けて火花を飛ばし、火口が赤熱すると、息を吹き込んで大きくしていく。
ぼくが火を育てている間に、ブルーノが帰って来、彼はやや膨らんだ袋を持ち上げると、バラバラと中身を零して見せた。
「大したものとは言えないが、腹の足しにはなる」
黒かったり、肌色に近かったりするそれは、クルミだった。果肉をそぎ落としてあった。一度、ぼくはクルミの果肉を口にしたことがあるが、二度とすまいと誓わせるほどに恐ろしい味だった。
「お前は、魚を獲ってきたのか」
ブルーノはぼくの収穫してきたものを品定めするように見る。
「うん。山の麓まで行ってきてね」
「銛でも使ったのか?」
「ううん。手で。銛を持っていくには、他の荷物が多すぎた」
「器用なやつだな」
「ううん。結構苦労したんだ」
他愛のないおしゃべりと並行して、ぼくは火口の火を大きくしていく。メラメラと炎が立ち上がると、小枝を組んで、炎が燃え移るようにした。
パチパチという音が鳴り、火の粉が流れ星のようにさっと閃く。
後は、この火勢を維持するだけだ。
ミアの下を向いた寝顔と、その髪が、火に照らされて赤々と染まる。
城跡の壁はさっき見た夕空と同じ色になっており、その上には三人の人影がそれぞれ二回りくらい拡大されて映っている。
気付けば明るいのはこの辺の焚火が照らす範囲だけになっていた。他は夜の闇が下りて真っ黒になっている。
もうじきミアは目覚めるだろう――そういう予測を口にしなくとも、ぼくはブルーノと共有しているという気がし、今は、幾ばくかの物思いに黙然と、目の前に揺れる炎を、ぼくは胡坐をかいて、ブルーノは立って腕組みして、じっと見つめているのだった。
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