撃墜の乙女〜TSした男は、パラレルワールドで生活する〜 作:布団から出られない
寝て起きて、働いて。目を覚まして、寝て起きて、働いて。
そんな毎日を繰り返していたわけだが。
どれくらいそれを繰り返しただろうか。数えきれないほど、繰り返し。
もう、数を数えることもできないほど、繰り返し、どれくらい繰り返したか分からない、目覚めを終え。
そこで俺は、違和感に気づく。
いつも通りの朝、見慣れた天井、馴染みの自室。
自分の部屋には、特におかしな点はない。ただ、感覚が違う。
(風邪か?)
体調が悪いだけだろう。そう思いながら、顔を洗うため、俺は洗面所へと向かう。
そうして鏡を見たとき、俺は先程から感じていた違和感の正体を知った。
「あ、うぇ? なんで……?」
鏡に写るのは、真っ黒な髪を肩ぐらいまで伸ばした、男の俺をそのまま女にしたかのような顔の、少女。頭に包帯を巻いていること以外は、至って普通の、いや、ちょっと可愛いかもしれない。
そして、俺が発した声は、思ったよりも高いもので。
朝起きたら、女の子になってたんですが?
まぁ、落ち着こう。まず、俺の家に変化はないのか、まずはそれだ。
そう思い、俺は自室のドアを開け………………。
「は?」
目の前に広がるのは、焼け落ちた家々。
残っているのは、俺の家も、自室以外は全て崩壊しており、まるで爆弾でも落とされたかのような、そんな光景だった。
人の声は聞こえない。悲鳴も、叫び声も、唸り声も。何も。
ただ、白骨化した遺体が、瓦礫の間から少し見えた気がした。
「ははっ………なんだよこれ…………」
俺は生存者がいないのか、周囲を散策する。
「誰かー!」
声を張り上げ、懸命になって呼びかけるが、返事はない。
「どうなってるんだ…………」
特に手がかりもなく、30分ほど散策し…………。
「疲れた………」
うん。30分も歩き続ければ、こうもなる。
俺は、とりあえずそこら辺の瓦礫に座り込む。
「なんでこんなことになってるんだよ。あークソ。朝起きたら女になってるし、外は凄いことになってるし、なんなんだよ………」
「まだこんなところにいたのか………」
歩き疲れて休憩し、そこら辺で休憩していた俺の耳に、男の声が響く。
生存者だろうか、俺は、声のしている方向を向く。
そこには、高身長で、とても清潔感のある、イケメンというわけではないが、確実にモテるだろう、そんな二十代の男が立っていた。
「あ、どうも」
「はやくそれに乗って逃げるんだ。君の操縦技術なら、逃げるくらいなんてことないだろう」
男はそう言って、俺の真後ろを指差す。
一体何のことを言っているのだろうか、俺は気になり、後ろを見る。
『F-A-MD1106』そう刻まれた、人型の青い機体が、俺の真後ろで倒れていた。
なんじゃこりゃ。
これに乗って逃げろって? どこへ? てかまず俺に操縦技術なんてないんだが。普通のリーマンなんだが?
そう思った俺は、とりあえず男に抗議することにした。
「あの、お………私には、これは操縦できません」
正直に、目の前の男に俺はそう告げる。
そんな俺の言葉を聞いて、男は何だか一瞬気まずそうな顔をする。
「すまない。君がもうそれに乗りたくない気持ちもわかる。だが、それに乗らない限り、君はここから逃げることはできない。俺の機体を貸すわけにもいかないし………」
操縦できない=乗りたくないって変換されてるんですが………。
いや、マジで俺乗れないよ? パイロットやってたならまだしも。
某有名ロボットアニメの主人公みたいな新人類的な能力を持ち合わせてるわけでもない。
遺伝子も凡の凡だし、マジで何もできないよ?
ていうか何でこの男は俺が
「あの………だから………」
「すまない。俺もすぐに戻らないといけないんだ。君も、逃げるなら早くした方がいい。捜索隊がやってくるぞ」
「いやちょっと待ってー!」
男は俺の声に耳を貸さず、そのまま走り去っていく。
いや、ちょっとくらい説明しろマジで。本当にぶち転がすよ?
「はぁ…………名前くらい言えばいいのに」
とりあえず、あの男が言うには、俺はこの機体に乗って、どこかへ逃げるのがいいらしい。
といっても……。
「機械なんて全然分かんないしなぁ……」
とりあえず俺は、青い機体、Fなんとかのお腹の上まで歩く。
「例の有名アニメを参考にするなら、ここら辺にコクピットがあると思うんだけど………いや、場合によっちゃ頭にある機体もあるんだけど………」
案の定、Fなんとかの腹の辺りには、コクピットらしきものがあった。運良くハッチも開いており、とりあえず乗り込むことはできそうだ。
俺はコクピットの中に入り、中を見回す。
「これから俺がこいつを動かすんだなぁ……。何だかワクワクするな」
何故だか分からないが、Fなんとかのコクピットに乗った途端、俺は何となく、勘でコクピット内を操作し、そして……。
「あ、動かせた」
難なく動かせた。本当に、特に苦戦することなく。
俺の手つきは、かなり手慣れたものだった。
もしかしたら、俺の使っているこの少女の体が、動きを覚えていたのかもしれない。
「もしかして、あの男の人も知り合いだったのかな……。てかこれ、もしかして俺、憑依しちゃったやつ? それなら罪悪感すごいな……」
そうぼやきながら、俺はFなんとかを操作する。
「おっ、立った!」
俺はFなんとかを操作したことはないはずなのだが、少女の体が覚えていたのか、俺はFなんとかを動かすことに成功する。
「よーし。じゃあ、F……えーと、そうそう。『F-A-MD1106』、
一回言ってみたかったんだよなぁこのセリフ。だってかっこいいじゃん?
なんて、そんな風に呑気に考えながら、俺はコクピットを操作する。
「『hello Nagisa』? 俺が乗ってるってことがわかってるのか……? それとも、今俺がなってるこの女の子も、渚って名前だったのかな……」
モニターには、『hello Nagisa』の文字。当然俺はこのFなんとかに名前を入力した覚えはない。俺が今なってしまっているこの少女の名前が渚である可能性もあるが、ただ俺は先程Fなんとかを動かす前に、名前を発している。もしかしたら、そこから俺の名前が渚であると読み取ったのかもしれない。
「うーん。とりあえず、適当に動かしてみるか。そういやこれ、空飛べたりすんのかなぁ………」
俺は空を飛んでみたいと、そう思いながらコクピット内を適当に弄ってみる。
「うわうわうわ!」
特に何の操作ミスもなく、Fなんとかは見事に空を飛んでみせる。
もしかしたら、この体はチートなのかもしれない。
「にしても、名前が『F-A-MD1106』はちょっとなぁ……。青い機体………。うーむ……名前、名前なぁ………」
考え事をしながら、俺は空を自由に飛び回る。
………そういえば燃料切れとか考えてなかったな。
「………降りるか」
とりあえず俺は、適当な場所へFなんとかを降ろす。
正直どこへ行けばいいのかなんて分からないし、捜索隊とやらが何なのかも分からない。分からないことだらけだ。
「んー。どうしようか。さっきの男の人を探して、色々聞くのが1番いいんだろうけど」
そう言いながら俺はFなんとかで周囲を探索する。
しかし、一向に先程出会った男性の姿が見える様子はない。
「マジでどうしよう………。誰か助けて………」
誰とも会えないことで、そろそろメンタルがやられてしまいそうだ。
話し相手が欲しい。
そんな俺の思いを知ってか知らずか、向こう側から茶色い、俺の『F-A-MD1106』とは少し異なった機体がやってくる。
「もしかして、アレにも人乗ってるんじゃ?」
俺は少し嬉しくなり、茶色い機体に近づく。
ガキィンっ!と金属がぶつかり合う音が、響く。
気づけば俺は、茶色の機体の腕を吹き飛ばしていた。
「え、なんで?」
よく見ると、茶色い機体の切断された腕の部分には、斧のようなものが握られていた。
おそらく、俺を攻撃しようとして取り出した武器だろう。つまり、俺は無意識に敵の攻撃を弾いていたということだ。
厳密に言えば俺ではなく、少女の意識が、だろうか。
「てことはこいつ、敵か!」
俺はすぐに2、3歩引き、戦闘の準備を進める。
「まずは武器。これをこうして……」
俺はコクピット内を操作し、先程茶色の機体が出していた斧と同じような斧を取り出す。
「ビームの武器ないのか……。ちょっと残念」
俺は少しだけ悲しい気持ちになりながら、斧で茶色の機体に襲いかかる。
茶色の機体も、さっき切断された片腕から斧を回収し、俺のFなんとかと対峙する。
「片腕ないし、こっちの方が有利だ。先に攻めさせてもらうぜ!」
俺はがむしゃらに茶色の機体に突進する。
相手方も、俺の突進に備え、斧を振り下ろす準備をしている。
……受け止める気か。確かに、この場所は家の残骸で横の幅がないため、横に避ける、というのは中々難しい。横に避ければ、家の残骸で不安定な足場の上を歩くことになるからだ。
よし、そのまま振り下ろせ!
俺は、本能のままに斧を振り下ろし……。
いや、違う。
カウンターされる!
俺の中の何かが、そう訴えかけてくる。
このまま振り下ろせば危ないと。
俺の中に、ビジョンが浮かび上がる。
俺の攻撃を後方に下がることで避けた茶色の攻撃が、すぐに俺の機体をその手に持つ斧で破壊するのを。
「なら……!」
俺は茶色の機体に斧を振り下ろす動作をやめ、一歩下がり、斧を投擲する。
茶色の機体は当然避けずに俺の斧を自身の斧で迎撃する。
「かかったな!」
俺はそのまま、茶色の機体に向かって突撃する。
「Fなんとかパーンチ!」
俺のFなんとかのパンチで、茶色の機体はバランスを崩し、その場に崩れるかのように倒れる。
今だ。
俺は茶色の機体と共に地面に落ちた斧を回収する。
そのまま茶色の機体の上に覆い被さり、身動きが取れないようにする。
「終わりだ!」
そのまま俺は茶色の機体の残った方の腕を切り離し、カメラがあるであろう頭部も完全に破壊する。
確か某有名ロボットアニメだと、エンジンかどっかを破壊すると爆破してた気がする。
だから俺はエンジンとか、そういう場所がないであろう腕や頭部を破壊し、相手が身動きを取れないようにしたのだ。
「さて、中の奴引っ張り出して、色々吐かせるか」
俺はFなんとかで茶色の機体のコクピット部分を無理矢理こじ開け、中にいるパイロットが丸見えになる状態にする。
中には、ヘルメットを被っているため若干見にくいが、髭を生やした小太りなおっさんが入っていた。
俺はFなんとかのコクピットのハッチを開き、Fなんとかから出る。
「ひっ、ゆ、許してくれ!! お、俺にも家族がいるんだ! 分かるだろ!? 俺が君にしたことは、謝ろう、すまなかった! この通りだ! 頼むから、見逃してくれ!」
コクピットから出ると、そう言いながら土下座をして無様な姿を晒すおっさんの姿があった。
「いや、別に殺すつもりないから。後さ、教えて欲しいんだけど、これ、どういう状況なの? 何でこんな、家が壊れたりとかしてるの?」
「はは……お、お前……俺を殺すつもりだな? そうやって何も知らない、いや、記憶喪失にでもなったふりをして……俺を油断させた後に殺そうって魂胆だろ!? クソっ! く、来るな! 俺を殺そうとしてみろ! すぐに無線で仲間達に知らせてやる!」
「だから、殺すつもりなんて『バンッ』ない………え……?」
おっさんからは情報を引き出したかったのだが、知らぬうちに俺の右手には拳銃が握られており、既に茶色い機体のパイロットであるおっさんを射殺した後だった。
「は……はは………なんだよ………いつの間に拳銃なんて………あ…… 『F-A-MD1106』のコクピット内にあったのか……」
多分、おっさんを射殺したのも、この体の意志なんだろう。
人を殺してしまった。そのことに少しの罪悪感に襲われながらも、今の俺を支配していたのは、これからどうすればいいのかという、不安だった。
「こいつ、仲間がいるって言ってたな……。そいつらから情報を引き出すか? いや……危険すぎるな」
茶色の機体のパイロットの仲間から情報を引き出すとなれば、おそらく先程同様戦闘になるだろう。
そして、さっき茶色の機体のパイロットのおっさんは、仲間『達』と、そう言っていた。
ということは、敵は1人ではない。少なくとも2人。多くて3人4人、もしかしたらそれ以上いるかもしれない。
流石にパイロットのおっさんの仲間から情報を引き出すのは難しいだろう。となると……。
「最初に会った男の人から情報を引き出すしかないか」
とりあえず目下の目標は決まりだ。
最初に出会った男の人、その人にあって、色々事情を聞かせてもらう。
「じゃ、行こうか、『F-A-MD1106』」
こうして俺と『F-A-MD1106』の旅は始まった。
にしても、『F-A-MD1106』じゃちょっとな……。
今度呼び名を考えておこう。
もし読んでくれる人が結構いるなら、『F-A-MD1106』の呼び名はアンケートで決めようかなと……。読んでくれる人、いるかな…?
『F-A-MD1106』、何かの名前と被ったりしてないだろうか。もし被ってるものがあれば、教えていただけると幸いです。