撃墜の乙女〜TSした男は、パラレルワールドで生活する〜 作:布団から出られない
『F-A-MD1106』と共に、周囲の散策をしてみたわけだが、人っこ1人いる気配がない。辺りは倒壊した家だらけだ。だけど、何も収穫がなかったわけじゃない。分かったことはあるのだ。
辺りを見渡してみて、まず俺が思ったのは、この辺の地形、知ってるなってことだった。崩壊こそしているものの、ここは俺の住んでいた街だ。何でこんな状態になっているのか、正直サッパリ分からないし、そもそも『F-A-MD1106』とかいう機体が何なのか、皆目見当もつかない。
「さっきの男の人に会いたいんだけど、無理そうかなぁ………」
この荒廃した街で俺が最初に出会った男の人は、俺の素性、厳密には、俺が今動かしているこの少女の素性を知っているような口ぶりをしていた。そういえば、逃げろ、とも言っていた気がする。多分、さっき俺が殺してしまったおっさんの仲間達から逃げろってことなんだろうけど、正直さっきからあのおっさんの仲間らしきものとは遭遇していない。
「ん……? あれは………」
何の手がかりも掴めずに、途方に暮れていたところ、向こうのほうで俺の『F-A-MD1106』と同じ人型の大きな機体らしきものの影が複数見え出す。
「おっさんの仲間か?」
機体の数は7。
ほとんどが茶色い機体だが、2機ほど、他の機体と異なるものがあった。
一つは、中世の甲冑のような見た目をしており、至る所に金色のラインが入っている。
もう一つは、ピンク色の機体で、全体的に丸みを帯びたデザインになっている。その機体の顔は、どこか赤ん坊のような顔をしているようにも思えるが、そう見えるだけかもしれない。
「7対1かよ………」
いくらチートスペックなこの体とはいえ、7機も同時に相手するのは流石に厳しいんじゃないだろうか?茶色い機体だけならまだしも、いかにも特別ですよってアピールするかのような機体が2機もある。あれ?これ詰んだ?
茶色い機体の内、一機だけ何故かこちらに向かってくる。
他の機体は、単体行動を始める機体を止めるかのように手を伸ばすが、届くはずもなく………。
とりあえず、あれからやるか。
どうせ1人殺してるんだ。それに、やらなきゃやられる。
俺は、斧で突っ込んできた茶色の機体に攻撃を加える。
当然、茶色い機体の方も斧を持って俺の『F-A-MD1106』に突撃するわけだが………。
『クソっ!! 当たれ!!! 当たれよ!!!!』
俺は無意識のうちに、相手の攻撃を全てかわしていく。相手の焦る声も、俺の『F-A-MD1106』が拾っているみたいだ。焦るだろうな、正直俺も同じ気持ちだ。
やっぱり、この体はチートスペックだったらしい。まるで息をするかのように『F-A-MD1106』を操作できている。
気づけば、茶色い機体は、その手足を捥がれ、身動きが取れない状態になっている。
これなら、トドメを刺さなくてもいいか。
さて、残り6機。
さっきの機体みたいに、単機で突っ込んでくるようなまぬけはもういなさそうだ。全ての機体が、俺の『F-A-MD1106』を警戒している。
ここからどうするか。
いくらこの体がチートスペックだといえ、相手は6機。こちらは1機。
不利にも程がある。しかもそのうち、2機は特別な機体ときたもんだ。こりゃ厳しいね。
『大人しく投降しなさぁい。今、投降すれば命の保証はできるわよ』
敵側の、ピンク色の機体から、音声が流れる。野太い男の声だ。口調は女性っぽさがあるが……。いや、そんなことはどうでもいい。
投降するべきか……? いや、簡単には信用できない。さっき出会ったおっさんだって、俺に敵意剥き出しだったわけだし、何より、最初に出会った男の人が、俺に逃げろと言ったんだ。奴らに捕まることを危惧して。俺が奴らに投降しても、俺の安全が保証されるとは限らないわけだ。
なら、やるしかない。
俺は、さっき倒したダルマ状態の茶色い機体を見る。
……使える。
「投降だって? お断りだ! こっちには人質がいる! こいつを殺されたくなかったら、武器を捨てろ!!」
俺は、斧をさっき倒した機体へ向け、奴らを脅す。仲間のことが大切なら、下手に俺に手を出せなくなるはず。まあ、人質をとったところでどうやってあいつらを倒すもしくは逃げるのか、そんなプランは全く思い浮かばないのだが、しかし、時間は稼げる。その間に脳みそフル回転させて、何とか打開策を見つけるしか、俺には道はない。
さあ、どうだ!
『………殺すわ』
瞬間、俺の横を何か強力なエネルギー弾のようなものが通り過ぎる。
見ると、そのエネルギー弾はピンク色の機体の腹部から発射されていたようだ。
エネルギー弾は、無人と化した街を破壊し尽くしていく。エネルギー弾が通った後は、まるで最初からそこに何もなかったかのように、真っ平になってしまっている。
奴は、人質を取られているのにも関わらず、これだけ強力なビームを俺に放ってきたのだ。
「仲間のことなんてどうでもいいのかよ!」
俺は1人悪態をつく。
人質をとった俺がいえた義理じゃないが、あっさり仲間を切り捨てれるというのは、人としてどうなんだろうか。
……いや、戦いっていうのは、そういうものなのかもしれない。
なら、構わないよな。
俺は、人質に取っていた茶色の機体のエンジンがあるであろう場所を狙って攻撃する。
そしてすぐさま、それを奴らの方へ投げる。
「爆ぜろ!!!!」
俺の読み通り、茶色い機体は仲間の元へ辿り着いた途端に爆発し、周囲を破壊し尽くす。
「やったか……? ってこれ、やってないフラグになっちまうな」
独り言をボソボソと呟きながら、俺は『F-A-MD1106』爆発地点を観察する。
「なっ……」
爆発が収まり、生き残った機体は……。
6機。
つまり、さっき爆発した機体以外全て、無傷で生き残っている。
ピンク色の機体が、爆発の衝撃を吸収したのだ。
「まじかよ……」
現状先走り野郎を一機やっただけで、不利な戦況は変わらない。
特にやばいのがあのピンクの機体だ。あれはやばい。爆発を物ともせず、傷一つつく様子すらない。
だが、ここでやらなければ、やられるしかない。
……一か八かだ。
ピンクの奴と、もう一機のいかにも特殊って感じのやつ以外は、多分量産型の雑魚機体だ。
とりあえず、隙を突いて後ろの雑魚から順に始末していくのがいいだろう。
俺はコックピット内を操作して、『F-A-MD1106』の武器を取り出し、相手方に攻撃の意思を表明する。
すると、ピンク色の機体は腹部に、光の粒子が集まりだす。
………来る!
『F-A-MD1106』を上空へ移動させる。
多分、機動力の問題だろう。あの機体は多分、装甲が厚く、防御に秀でているんだろう。だがその分、関節の駆動域が限られてしまい、自由自在に動かすことができないのだ。
ってまあ、素人の推測でしかないんだけどな。
「くらえ!」
そして俺はそのまま、『F-A-MD1106』が手に持っている斧を、ピンクの機体に向かって投擲する。
いや、正確にはピンクの機体の後ろにいる、
だが、ピンク色のものとは別の、もう一機の特殊な機体が、細長い、けれど頑丈そうな剣を持って、俺の投擲した斧を、叩き落としていた。
ああ、でも、これでいい。
「いっけぇえええええええ!!!!」
俺はそのまま、『F-A-MD1106』ごと、敵の機体の方へ飛び込んでいく。
今が、チャンスだ。中世の甲冑のような見た目をしている機体も、ピンク色の機体も、今は身動きを取れない。
俺の『F-A-MD1106』が、茶色い機体、そのうちの一機と激突する。それだけでは終わらない。
俺は、激突した機体のコックピットのある部分を殴り付け、破壊する。
「ひっ、ひぃっ! た、助け」
「悪く思うなよ。こっちも命懸けなんだ」
そのまま、コックピット内にいたパイロットを、『F-A-MD1106』の手で圧死させる。
……あまり心地の良い感触ではなかった。
そのまま、ガラ空きになった茶色い機体を手に取り、俺の襲来に反応し、攻撃を加えようとしてきた敵機に向けて、言い放つ。
「俺は今ここでこの機体を破壊することができる。俺も死ぬが、お前らも木っ端微塵だ。ピンクの奴は変なビーム撃ってるせいで、お前らを守れない。どうだ?」
向こうが下手に『F-A-MD1106』を撃てば、俺が今持っている
実質爆弾を抱えているような状態だ。だが、ピンク色の奴がエネルギー弾を撃ち終わってしまうと、この爆弾は、効力を失ってしまう。
爆発させたとしても、ピンクの機体が衝撃を全て吸収してしまうためだ。
俺は少しずつ、
ある程度離れてから、爆発させる。そうすれば、俺と『F-A-MD1106』を巻き込まずに、奴らを始末することができるはずだ。
『あら、そんなに長く隙を晒しておくと思う?』
まあ、そんなに上手くいかないわな。
俺が
『爆発させてみなさいよ』
こいつ……。
斧は投擲してしまったし、爆弾は無効化。他に武器はないし、逃げるにしても数的有利を相手方に取られているせいで、挟み撃ちにされてしまうとTHE ENDだ。
こうなったら………。
「あっ! UFO!」
『逆になんで引っかかると思ったのかしらねぇ〜』
詰み、かな。
仮にこれで奴が引っかかってくれたとして、完全に逃走するのは難しいだろう。燃料とかの問題もあるだろうし。
後、単純に相手の方が数が多いから、仮に逃げ切れたとしても、その後複数人で索敵されてしまう。
『さあ、死んでもらうわよ!』
ピンク色の機体の腕に、一つの斧が握られている。
これが振り下ろされれば、俺は死ぬんだろうな。
ダメ元で、奴に突進するか?
いや、逃げた方がいいのか?
どうすればいい……。どうすれば…………。
『渚ちゃん! 避けて!!』
俺は言葉を受け、反射的に後ろへ下がる。
瞬間、ピンク色の機体に、複数のロケットランチャーが撃ち込まれていく。と同時に、周囲を煙が支配し、辺りの視界が悪くなっていく。
『おい! バカ渚! 逃げるぞ』
俺の『F-A-MD1106』とは少し違った、黒色の機体から、男の声が聞こえてくる。
……仲間、なのか?
『捕まって!』
困惑の中、さっき俺に声をかけてくれた女の子の声が、空を飛んでいる戦闘機から聞こえてくる。
戦闘機には、ぶら下がるためのロープのようなものが垂れ下がっていた。
俺の『F-A-MD1106』と黒い機体は、そのロープにぶら下がり、その場をあとにする。
段々と、戦場から遠ざかっていく。それに伴って、俺の緊張が、徐々に解けていく。
そして、さっきまで奴らがいた方向を眺めながら、俺の意識がプツンと切れるかのように、『渚』の体はその身を睡魔にゆだねた。