魔法の矢と弾丸を食らった化け物が後方へ飛び退き、様子を伺っていたもう一体の化け物と共に威嚇するように雄叫びをあげる。
(見たことのないモンスター…ユグドラシルで見たことのあるどのモンスターにも当てはまらない。未知は脅威だな…それに)
龍雷を食らった化け物のHPを《生命の精髄》で確認する。
明らかに減りが期待していた量よりも少ない。そしてあの男の放った銃で食らったダメージが自分の放った《魔法の矢》よりも大きい事も気になる。幾ら最低位階の魔法とはいえ、カンストプレイヤーの放った弾丸と、10レベルかそこらぐらいのHPの持ち主の放った弾丸だ。仮にあの散弾銃が特別に強力なものであったとしても、能力値ボーナスを考えるとこうはならないはずだ。
「なぁ、男。あの化け物の情報はあるか?」
暫定味方の男に、何かしらの情報がないか尋ねる。
「…信じるぜ、骸骨の兄貴。奴はハウラーとかバクテリアとか呼ばれているエンティティだ。精神を汚染したり幻覚を見せたりといった特殊能力はねえが、単純に身体能力が高けぇ。人間の首ぐらい簡単に引っこ抜いちまう。」
「モンスターでもエネミーでもなくエンティティ、か……そもそもここは何処なのか、だとか何故化け物の名前を知っているのだだとか、いろいろ聞きたいことが増えたな。答えるまで死ぬなよ、男。」
「そっちこそ」
その言葉をきっかけにした様に、2体の化け物が雄叫びを上げながら、その蔓の様にしなる腕を振り回しながら突撃してきた。
「《骸骨壁》《電撃》」
骸骨でできた壁にハウラーの腕が防がれ、同時に壁を構成する骸骨がその手に持つ槍でハウラーの腕を滅多刺しにする。
絶叫を上げたハウラーは自らの腕を切り捨て、電撃をギリギリで避ける。
(直線的な攻撃は避けるか…だが)
硝煙の匂いが鼻の奥をくすぐる。
電撃を受けた直後のハウラーの体を、男の放った弾丸が直撃した。そのままハウラーの体は墜落する。
その後、なんとか立ち上がるが、先程の勢いはない。
「aaaaaaaaaaaaaaaaa!」
相方がやられたのを見て、憤怒の感情でも覚えたのか、もう一体のハウラーが全身の蔓を使って男の体を滅多刺しにしようとする。
しかし、体の全てを攻撃に使うということは、防御を捨てると同義で。
「《魔法三重最強化・万雷の撃滅》」
先程の雷が子供騙しに見えるほどの威力の雷が束となってハウラーの体を穿つ。
その雷はハウラーの黒い体を完全に炭化させ、その命を刈り取った。
ひゅう、と誰かが息を呑んだ音がした。
(第五位階魔法に加えて、小規模な攻撃を少々、そして三重最強化された第九位階魔法で漸く、か…いや、初めから万雷の撃滅を使っていれば?)
相方が瞬殺され恐怖を覚えたのか、狂ったようにハウラーが自らの腕を振り回す。
そんな隙だらけな行動を見逃す筈もなく、男は弾丸を此れでもかとハウラーに浴びせる。そして、残弾を全て打ち切ったあたりで、ハウラーの体が一度震えたかと思うと、力なく倒れ伏し、そのまま二度と起き上がることはなかった。
「さて、終わった、な?」
ローブについた埃を払いながら、モモンガは腕を下ろす。
「…あー。骨の兄貴。まずはありがとう。おかげで死なずにすんだ。ここはやったなとでも言って、酒でも酌み交わせたらいいんだが…聞きたいことがあるんだろ?こんな血生臭い所で話すのもなんだが…とりあえず座る、か?」
「そうだな…とはいえ、地べたに座るのもなんだ。《中位道具創造》…ここにでも座って話そうか。」
木製のしっかりとした作りの椅子が2個、魔法により創造される。
「oh…物まで作れんのか。すげぇな、あんた。」
椅子に座った二者が向かい合う。
その周りには、辺りを警戒する様に、三体の死の騎士が立っていた。
「とりあえず…自己紹介でもしようか。俺はマイケル。アメリカの田舎町出身の、なんの因果かこのクソッタレな地獄に落ちてきた一般人さ。」
「アメリカ…ということはここはリアル、か?しかし田舎?どういうことだ?俺は…いや、こんな緊急事態にRPを続ける必要もないな。私はモモンガ。ユグドラシルをプレイしてたら、床抜けバグが発生して、そのままここに飛ばされてきた
「ユグドラシル?オーバーロード?床抜けバグ…noclipのことか?」
方や元22世紀人の現異形種、方や21世紀人。
前提条件の違う2人の会話は、しばらくすれ違うことになる─────────
数十分の後、お互いの状況を確認しあった2人は、深いため息を吐く。
「あー、で、モモンガの兄貴は俺より100年以上未来の人間で、フルダイブ式MMOをやってたらアバターの姿のまま、この世界に来ちまった、と。あー、俺もあのクソゲーのキャラで来れてたらもっと…そういやあれサ終してたわ」
「そして貴方は100年以上昔の人間で、ここはバックルームって言う、地球の裏側に広がるフロアの数が膨大な理不尽ダンジョンだ、と…」
頭が痛そうな様子で、モモンガが頭を抱える。
当然だろう。非日常に次ぐ非日常。つい先日まで社畜であった鈴木悟の精神の部分はもう限界である。
「俺たちはフロアじゃなくて「level」って呼んでるがな…あー、モモンガ。アーモンドウォーター一本余ってるが、飲むか?」
と言って差し出されたペットボトルに入った飲料を、モモンガは飲もうとして気づく。
「…そういえば、私骸骨になったから飲めないんでした」
気まずい沈黙が流れる。
「気配りが足りてなかったな。すまねぇ。」
「いえ、そんな謝らなくても…で、マイケルさん、貴方はこれからどうするんですか?」
「ひとまずは…『Level 4: "Abandoned Office"』を目指す。俺の恩人の残した端末によると、所謂安置的な場所らしい。とはいえ、今の装備でそこへ行くのはちと厳しい。今の戦いでこの銃も駄目になっちまったし、Level 1で物資を調達してからLevel2へ行って、目的地へ到達する予定だな。そして…ゆくゆくは現実世界へ帰還する。」
「帰還するアテは?」
「無い。彼が言っていたが、ゲームセンターみたいなとことで受注したクエストを達成すれば脱出できるだの、約束の地に辿り着けば脱出できるだの、色々な噂があるが…データベースに登録されていない以上、噂でしか無い。とはいえ、今はその噂にすら縋りてぇ状況だ。だからひとまずはLevel4という生存者の多い空間へ向かい、そこで情報を集める。そこで、だ」
一拍置いて、男がモモンガに言う。
「モモンガ、俺の用心棒にならないか?」
そう言って、男がニヤリと笑う。
はっ、とした様にモモンガの目の奥が光り、同じく笑ったあと、背中から黒の後光を出し、魔王然とした声色でモモンガはマイケルに問う。
「…マイケル。お前は私に何を差し出せる?」
「情報と、レアアイテム。モモンガ、俺が差し出せるのはこれだ。『スーパーアーモンドウォーター』。超希少なレアアイテムさ。お前もゲーマーなら、超希少アイテムはやっぱり欲しいんじゃねえか?」
「スーパーアーモンドウォーター…この世界にポーション代わりのアイテムのアーモンドウォーターの亜種か何かか?少し借りるぞ。《道具上位鑑定》…なっ!?」
差し出されたスーパーアーモンドウォーターというアイテム。
その効果は単純明快。あらゆる身体的欠損の完全治癒、精神の大幅な回復、全異常状態の回復、そして特定の敵への致命的な特攻効果。他にも様々な効能があり、しかもおそらくアンデットでも体に振りかければ回復効果は得られる。その効果はそれこそ第八位階魔法を超えていて、一部の点では第九…いや十位階魔法に匹敵するかもしれない。
何より、レアだ、と言うのがコレクター心をくすぐる。
「それに、情報、とは?」
「あぁ、あんた、話していて思ったが、さては英語読めねえな?解読魔法的なのがあるかもしれないが…俺がいればその手間も無くなる。俺の端末から得た各レベルの情報をモモンガに渡すことができる。それに、他の生存者とのコミュニケーションが円滑に進むぞ。俺の場合はタイミングがタイミングだったからトラブルにはならなかったが、冷静に考えてみると骸骨の体って割と怖いぞ」
「あ、そういえば俺骸骨になってたな…なるほど。十分なメリットもあるし、現品で出せる報酬もある、と…決まりだな。まぁ、元々ついて行くつもりではあったが。契約は成立だ。マイケル。改めてよろしく頼むぞ。」
「モモンガ、こちらこそ。」
硬く握手が結ばれる。
この瞬間、魂が結びついたかの様な、パーティが結成されたかの様な感触がした。
「パーティ結成、だな。まぁ初心者と廃人レベルの差はあるが」
───────────────
1人の男と骸骨は、足元にうっすらと霧の立ち込める空間を探索していた。
蛍光灯で照らされたコンクリートてできた大規模な倉庫。その中に、モモンガとマイケルの足音と、水溜まりが弾ける水音が残響する。
「随分と景色が変わりましたね…ここは、倉庫?」
手元のタブレット端末を操作しながら、マイケルが答える。
「あぁ、モモンガ。ここはlevel1『Habitable Zone』。ゲーム的にいえば、マップが変わったって感じだな。とりあえずは…モモンガ。何か光源は持ってたりするか?」
「それだったら…《第十位階不死者召喚》『
蛍光灯の仄かな光に照らされていた空間が、目が痛くなる様な4色の光に照らされる。
「ユグドラシルではゲーミング髑髏だとかあだ名が付けられていた、光源効果持ちのアンデッド。他にも松明とかならありますよ?」
「おお、凄えな。絶妙なセンスのインテリアみたいな見た目してるな、そいつ。まぁ、周囲を照らせるぐらいに明るいなら十分だ。光源が必要な理由は、エンティティ避けだな。時々蛍光灯の光が急に消えて、復旧するまでの間にわんさかエンティティが湧く。そしてそいつらは殆どが光に弱く、光源に照らされているうちは襲そってこない。まぁ、出てくる奴らはハウラーよりは弱い奴が多いがな。」
「一先ずの目標は、次のlevelへ移動できる出口と、物資の収集だな。ちょうどこんな感じの…」
地面に落ちていた段ボール箱を指さす。
「箱の中に物資が入ってる。これを探しつついく感じだな。」
周囲を警戒しながら、2人は探索を続ける。
先程までいた黄色い狂気の空間と比べれば、幾分情報量も多く、心理的負担は小さい。しかし、コンクリート剥き出しの壁は広いはずの部屋に拘束感や圧迫感を感じさせる。
ふと視線を外した隙に、壁に描かれていた奇妙な記号が別の記号へ変わった様な気がした。
「気味が悪いな…」
ボソリ、とモモンガが呟く。
(《妖精女王の祝福》もまともに機能しなかったし、この空間自体がおかしい…んだろうな。そもそも、ゲームの姿で現実世界と接してそうな世界にいる時点でおかしいか。)
言いようの知れない様な気味の悪さを掻き消すように、前方に見つけた段ボール箱を開ける。
中に詰まっているのは、窒息死したネズミの死体、束ねられた髪の毛、何に使うのかわからない工具、少し古い時代のファッション誌、萎びた大根。
「またハズレか…」
「あー、やっぱりモモンガ、お前運ねぇなぁ。ガシャとかやばかったんじゃねぇか?」
瞬間、モモンガの眼孔が暗く光る。
「沼りに沼ってボーナス全部溶かしたことならありますが?」
そこには、バックルームとはまた別の意味での狂気が灯っていた。
「はは。奇遇だな兄弟。俺もだ。」
マイケルとモモンガが熱い握手を交わす。そこにはゲーマーにしかわからない厚い友情が芽生えていた。多分。
こほん、と咳払いをしてモモンガがマイケルに問う。
「そういえば、マイケルさんは何かお目当ての物資は出たんですか?」
「サバイバルナイフが3本に、アーモンドウォーターが14本。まぁこれだけあれば次のlevelは何とかなるだろうな。あとは…名前が分からんアサルトライフルが一丁。というか、これ本当にどこの会社のだ?一瞬AK-12かな?とも思ったんだが…まぁ、バックルームだ、それこそ並行世界の銃が来ててもおかしくは無いだろ。」
「ユグドラシルの魔導銃っぽいな、と思いましたが、魔力で弾丸を生成できないのを見ると多分違う?…マイケルさん、これを」
そう言って、モモンガが長方形の小さいチップのようなものを差し出す。
「魔導銃に取り付けると、1日2発まで拘束弾を放てるようになる物です。あと単純に銃弾が第一位階相当の魔力を纏うので威力も上がります。この世界の銃器に効果があるかは不明ですがね。同じパーティメンバーなんですし、ある程度はいい武装を持ってもらわないと。」
「おお、そりゃありがて、ぇ………っ!?」
受け取ったパーツを銃器の側面に取り付けた瞬間、マイケルは気づく。
地面にメモ用紙が落ちていることに。
『Let's play together! =)』
『Won’t you stay for the afterparty ? =)』
それを拾い上げ、内容を読んだあと、マイケルの体が凍りつく。
視線の先には、黄色い服を着た少年のようなものが立ち尽くしていた。
感想、評価などありがとうございます、励みになります!
追記:非ログインユーザーからでも感想を送れるようにしました
今回行ったレベル
Level 1: "Habitable Zone"
https://backrooms.fandom.com/wiki/Level_1
こんなレベル行って欲しい、とかあったらメッセージか活動報告の方へいただけると、嬉しいです。
ただし現状記事が残っているか、(削除済みなら解説動画が)あるレベルでお願いします。基本fandom版かwikidot版だけです。ただnullとかREDACTEDとかTH3 SH4DY GR3Yみたいな詰みレベルは書くのは厳しいですが