The Over rooms   作:美味しいラムネ

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遅くなりました。申し訳ありません。初投稿です。


level2

黄色い服を着た少年。それと目が合う。

風船を持ち、その顔は黄色い袋に覆われている。

その目立つ警告色の体と、血で描かれた無邪気な笑顔は「この存在は危険である」ということを伝えてくる。

 

「パーティゴアー…いや、funの外なら凶暴性は低い筈だ…大丈夫、大丈夫だ…」

 

「マイケルさん…あれが、自己紹介の時に言っていた、貴方が初めに辿り着いたlevelの住民、パーティゴアー…と言うことですね。」

 

ぶつぶつ呟くマイケルを不審に思ったモモンガが声をかけてくるが、その黄色い悪魔からマイケルは視線を外すことができない。

 

「あぁ、そうだ。パーティホストの統括の元、ポータル生成能力を活かして探索者を刈り取る無慈悲な狩人…だが、例のlevelの外なら、パーティホストの影響化にないから凶暴性は低い、だから刺激しなければ大丈夫…」

 

体が震え、金属の擦れ合うかちゃかちゃという音が鳴る。

目があった。

確実に、あの悪魔と目があった。

 

自分の震える音は、まるであの悪魔の笑い声のようで。

 

「…っ!《生命の精髄》《魔力の精髄》…耐久はは大体30レベル前半の戦士職と同じ、魔力は無し、か。」

 

モモンガは魔法をいつでも放てるように構え、マイケルもアサルトライフルを構える。

パーティゴアーが腕を上げ、それに反応し、モモンガとマイケルの構えが深くなる。

 

「やる気か?いや、違うな…なんだ、学校の、廊下…?」

 

パーティゴアーは、地面に落ちていたアーモンドウォーターに酷似した容器を拾うと、此方への興味を無くしたかのように、空間に切れ目を作って、何処かへと消えていった。

切れ目が消える瞬間、その向こう側から悍ましい絶叫が漏れ、同時に二つに割れた悲しげな表情の青いお面がはらりと落ちてきた。

 

瞬間、モモンガの体が一瞬震えた気がしたが、マイケルは気の所為だと思い、パーティゴアーの消えた先を見つめ続ける。

気のせいでもなんでもなく、実際モモンガは絶叫に驚くあまり精神抑制が発動していたのだが。

 

絶叫が残響して消えると同時に、沈黙が空間を支配する。

そして、黄色い悪魔が消えて、数十秒がたった。

 

「ぷ…はぁ!………あぁ、あぁ…。あー、生きた心地がしなかったぜ、モモンガ。一体相手なら銃で穴だらけにして勝ちなんだが、やっぱり怖えわ。裂け目に落とされたらそれこそヤバいlevelに飛ばされて詰むかも知れないしな。」

 

対して動いてもいないのに、体力をごっそり持っていかれた。そんな様子でマイケルは肩で息をする。

そして、拾っていたアーモンドウォーターを一気に飲み干す。

 

「あー、蘇る。くっそ、二度と会いたくねえな。でも自在にワープできるから何処にいても急にばったり出会いかねねえんだよなぁ…。あ、そういやモモンガは転移魔法とか使えるのか?」

 

「習得はしているんですが、ここで使おうとすると何もない真っ暗な空間に飛ばされてしまうから使い物にならないんですよね。だから、さっきの裂け目を使ったワープを見た時は驚きましたよ。…それにしても、魔力も使わずに転移を使うとは。特殊技術(スキル)のようなものか?」

 

「単純にMPじゃなくてSPとかTP的なエネルギー使ってるから感知できなかったんじゃないか?」

 

「あぁ、ありそうですね、それ。」

 

一刻も早く黄色い悪魔と出会ったこの場から離れたい、そんな様子でマイケルはバックパックを背負い直し、モモンガはローブを軽く払い、歩き始める。

再び、精霊髑髏の灯火を頼りに2人は探索を再開した。

 

 

 

 

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2日ほど探索しただろうか。

 

「あー、ダンボールの中身は…1セント硬貨に…なんだこりゃ、50ユーロ、しかも記念硬貨…なんでったってこんなもんがあるんだろうな。まぁ金が使える場所もあるらしいし貰っておくか。」

 

「ひょっとすると落として見つからないコインとか、失くしたものは全部こっちの世界に落ちてきているのかもしれませんね。…またネズミの死体だ…」

 

軽口を叩きながら、2人はコンクリート壁の空間を歩く。

視線を外すたびに変わる落書きや、急に消える電気にはもう慣れた。しかし、他の探索者には一切出会わなかった。

 

「にしても、随分と歩いた気がするなぁ…正面、曲がり角。…大丈夫そうだな」

 

曲がり角の前でマイケルが立ち止まり、向こう側の様子を伺う。

 

「感知にも反応はないので大丈夫そうですね。…おや?」

 

曲がり角の向こう側は、少し様子が違っていた。

突如として、壁に扉が出現していた。

防火扉のような、無地の金属質な扉だ。

 

「鍵は…かかってねえな。モモンガ、もう一度確認するぞ。」

 

そう言って、ここまでくるまでの間に何回かしてきた確認を再び行う。

 

「俺たちが次に向かうのは『level2 "Pipe Dreams"』。簡単に言うなら、滅茶苦茶熱くて急いで脱出しないとパイプに押し潰されて蒸し焼きになってしまう迷宮だ。それに、敵性生物(エンティティ)も多く出現する。今まで一緒に探索してきた二つのlevelと比べて、生存難易度が高い。だが、確実にlevel4に行くにはここを通る必要がある。まぁ、敵性生物に関しては俺の銃とモモンガの魔法であらかたなんとかなるのは説明した通りなんだが、問題は熱だな。」

 

「私は問題ないんですが、マイケルさんは生身ですからね…生憎、冷気対策の装備はあっても高熱対策は無いんですよね。アンデッドが対策する必要があるレベルの熱は高熱対策じゃなくて火炎耐性じゃなきゃ防げないものしかなかったもので。逆に火炎耐性で高熱耐性は得られませんし。」

 

「まぁだから熱対策に大量のアーモンドウォーターを用意したって訳だ。」

 

と、言いながらマイケルはリュックサックに取り付けられた荷袋を叩く。

無限の背負い袋。総重量500kgまで物体を入れることが可能な魔法の鞄だ。拾った道具や弾薬の持ち運びのために一時的にモモンガから貸し出されている。

その中にはかき集めた大量のアーモンドウォーターと弾薬が入っている。

 

「とりあえずこれがぶ飲みしてあとは気合と根性とやる気で乗り切るって訳だな!」

 

「マイケルさん、それ殆ど同じ意味じゃないですか?」

 

「細けえことはいいんだよ!」

 

そう言って、目の前の扉を開け放つ。

熱風が、扉の中から吹き付けてくる。

 

「よし、じゃあ『level2 "Pipe Dreams"』!行くぞ、モモンガの兄貴!」

 

「なんか、新発見されたダンジョンに挑む時みたいで少しワクワクしますね!じゃあ、行きましょうか!」

 

鼓舞するように、声を掛け合う。

一歩前へ踏み出す。高熱の蒸気を吹き出すパイプと、そこを徘徊する魑魅魍魎(エンティティ)が織りなすパイプの悪夢へ2人は突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「暑い、熱い!そしてエンティティの層も厚い!」

 

 

パイプの隙間から、汽笛のような音を立てて蒸気が漏れる。

そのせいもあって、空間全体の湿度が高く、余計に暑く感じてしまう。

 

(サウナ…スチームバス的な感じで熱くなってるんですかね?ああ、久しぶりに風呂に入りたいな…骸骨だけど、いやなんなら人間だった頃も湯船に浸かったことなんてなかったけど。マイケルさんがいうには、日本旅館風のlevelもあるらしいし、いつか行ってみたいなぁ。)

 

そんなことをモモンガは考えているが、マイケルの脳内は「さっさと此処から出たい」で埋め尽くされている。

 

少し歩けば敵に出会い、少し進めば蒸気が吹き荒れ、幾ら歩いても御目当ての出口──level4へ繋がるオフィスビル風のエレベーターは見つからない。

いや、出口が見つからなかった訳ではない。

 

「この出口は駄目なんですよね…」

 

目の前には何度目かの非常口が見つかる。

 

「あぁ、ここを通るともっと危険なlevelである「level3」に行っちまう。」

 

後ろでは倒したエンティティの死体から作った死の騎士がスキンスティーラーという人の皮を剥いで被る化け物の群れと激戦を繰り広げている。しかし、この光景も十数回目。モモンガもマイケルももう慣れた。

 

「で、この隣にある出口は?」

 

「もっと駄目だな。情報が一切ない。というか完全な暗闇が広がってるな。voidかnullかlevel6か…とにかく碌でも無いところに繋がってそうだな…あ、死の騎士(デスナイト)が雄叫びあげてるぞ。勝ったみたいだな。」

 

「みたいですね。あ、じゃあこの隣の赤いランプのついた扉は…」

 

完全にどういう反応が来るか分かっている様子で悪戯っぽくモモンガは言う。

 

もっと駄目だ!命をかけて走ることになるぞ!というかこの部屋ハズレ部屋に繋がってる扉しかないのかよ!次だ次!…というかあの扉が駄目なのはさっきのlevel探索している間に危ないlevelの情報は知ってる限り教えたから知ってるはずだろう…」

 

アーモンドウォーターのボトルを開けながらマイケルは再び扉とは反対側の方向へ歩き出す。

その側をスキンスティーラーの死体から生まれた従者の動死体が守るように固める。

 

「まぁ、確認は大事ですからね。」

 

モモンガも再び歩き出す。

少しの無言、その一瞬の間にモモンガはふと思う。

Level0の孤独や既視感からくる根源的恐怖や、Level1の恐怖とも違う、明確に「The back rooms」その物が悪意を向けてきた、そんな感覚。

とはいえ、こちらの方がモモンガにとっても、「やりやすい」。精神抑制に引っかからない量で少しづつ正気が削られていく感覚を味合わせてきたあれらのレベルよりは。

 

まぁ、マイケルにとっては暑さが辛そうだが。一度、「凍った骨」のような物理的に冷たいアンデットを召喚して涼ませようとしたが、一瞬でぬるくなってしまった。《第一位階怪物召喚》の籠った巻物で召喚した氷の小精霊は少し冷気を出しただけで蒸気となって消えてしまったし、我慢してもらうしか無いか。まぁ、まだ30度〜40度前後。摩訶不思議な飲料であるアーモンドウォーターがあれば多少は大丈夫だろう。いざと慣れば超位魔法で階層ごと凍らせればいい。それは脳筋がすぎるか。

 

「あー、確認といえば…やっぱり情報通り空間狭まってきてるよなぁ。」

 

「つい半日前までは天井と死の騎士の頭の間に握り拳が入りそうなぐらいには隙間がありましたが、今や天井に巡ったパイプと兜が擦れ合ってますからね。あ、ゾンビに蒸気が直撃して崩壊した。」

 

「………うへぇ、俺もああならないように気をつけなきゃな…っ!」

 

急に目の前に現れた黒い笑みを浮かべた非実体──スマイラーの体を撃ち抜く。モモンガの与えたパーツの効果で魔力を纏った弾丸は、本来ならすり抜けるはずのスマイラーの体を破壊した。

 

「oh!やっぱ兄貴のカスタムは最高だぜ!」

 

星幽体(アストラル)とも違う…やはりエンティティは不思議な存在だな。」

 

「モモンガの兄貴も大概だけどな。」

 

そう言って、もう一本アーモンドウォーターを飲み干そうとした瞬間、手に滲んだ汗で思わずボトルを落としてしまう。

そのボトルは放物線を描き、前方へ向けて落下した。

 

パシャ。

 

 

「あ、何かにかかっちまったな…なんだ、編み物…?」

 

 

 

 

 

 

 




感想、評価などありがとうございます、励みになります!
まだこの世界線ではlevel’fun’は消滅していませんしパーティゴアーもまだ生き生きしています。消されたlevelも登場することが今後多くなると思いますが、許していただきたいです…

あと此処で↓行って欲しいlevelなど募集しています

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=294487&uid=334264



今回(新たに)行ったlevel「Level2 Pipe Dreams」

https://backrooms.fandom.com/wiki/Level_2

http://backrooms-wiki.wikidot.com/level-2

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