The Over rooms   作:美味しいラムネ

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初投稿です


level2-2

「なんだ…編み物…?」

 

「人形…あみぐるみみたいですね。敵性生物(エンティティ)…?いや、敵では無さそうな感覚が…探知魔法に反応もありませんし」

 

目の前で、アーモンドウォーターが全身にかかって濡れた人形が、マイケルになにかを伝えようと必死にジェスチャーを繰り返す。

しかし、腕が短いこともあってか、側から見ると腕をブンブン振り回しているようにしか見えない。

 

「そもそも、だ。此処じゃ見た目は頼りになんねぇ。何かが擬態している可能性もあるし、幻覚かもしれない。迂闊に近寄らない方がいい…よな、多分これ」

 

必死に可愛らしく腕を振り回す様子からは危険さは一切感じられないが、逆にそれが怖い。

狂気に満ちたこの空間に、正常な物がいることが逆に恐ろしい。

 

「美しかったり、可愛かったりする物に擬態して接近した相手を襲うモンスターは定番ですからね。私のギルドにも、近寄るまでは普通の様子なのに近寄ったら「私の子ぉおおお!」って叫びながら半狂乱で人1人分の大きさの裁ち鋏を持って襲ってくるNPCいましたし。」

 

「おいなんだよそれだいぶクレイジーだな、でもそういうギミック嫌いじゃ無いぜ。とはいえ擬態はやっぱり怖えな。可愛い見た目のアバターのプレイヤーに貢いでたら普通にネカマで+10まで強化した装備普通にそのまま盗まれたこともあるからな、俺。」

 

「マイケルさん!?」

 

軽口を叩き合いながらも、警戒は緩めない。

とはいえ、ちょうどこの部屋の出口の位置に人形が居座っていて、この部屋を出るには人形の近くを通る必要があるのは事実。どこかのタイミングで腹を括って接近する必要がある。

 

いつまで経っても警戒を解かないマイケルとモモンガの様子にショックを受けたのか、人形は肩を落とし、いじけた様子で地面を指でなぞり始めた。

 

「…うーん。モモンガの兄貴。データベースで調べたところによると、目の前のそいつの特徴は、Entity 34”Dollface”と一致する。アーモンドウォーターをぶっかけると仲間になるエンティティらしい…んだがなぁ。本来のDollfaceは、会話が可能。でもこいつは話せない。しかも少し小さい。亜種か何かか?」

 

「先程から人形を観察していて気づいたんですが、どうもあれ、ユグドラシルでのテイム待機状態のモンスターの様子によく似てるんですよね。…テイム用アイテム何か持ってたかな…」

 

ゴソゴソと虚空に腕を突っ込み、そしてモモンガは一つのアイテムを取り出した。

 

「『カルカン・ハイグレード』!百獣の頂点だろうと誘い出せ、屈服させる伝説級アイテム!まぁ有り体に行っちゃえば超高級ペットフードですね。これの上位互換でカルカンプレミアムとかもありますが流石に希少すぎて…マイケルさん、試しにこれをあの人形に食べさせてみてください。」

 

「あー、テイム用アイテムってことか。…やべぇ、これ絶対俺が地球で食ってたものより質いいだろ。まあいいか。」

 

恐る恐ると言った様子でマイケルは人形に近寄り、カルカン・ハイグレードを人形に手渡すが、少し見た後、人形は不満げにそれをマイケルに返した。

 

「あー、やっぱりユグドラシルのシステムとは違うか…ってマイケルさんなにやってるんですか?」

 

「いや、アーモンドウォーターに浸したらこいつも気にいるかな、って。普通に情報にも「アーモンドウォーター」で手懐けられるって書いてあったしな」

 

と言いながら、マイケルはカルカンの山にアーモンドウォーターをドバドバとかけていた。

そして、山全体にアーモンドウォーターが染み渡った瞬間、人形は血相を変えて飛び出した。

 

「おい、なんだなんだ!?」

 

驚いたマイケルは背負っていたリュックにぶら下がっていたライフルを盾のように構え、モモンガも魔法を放とうと両手を前に翳す。

しかし、予想と反して人形は2人を襲うでもなく、カルカンの山に飛び込み、そのまま全て平らげてしまう。

 

げぷっ、とげっぷをしたかと思うと、満足げな様子で人形はマイケルに近寄り、その肩に飛び乗った。

 

「…!?マイケルさん!?」

 

咄嗟にモモンガはそれを振り払おうとしたが、マイケルがそれを手で制する。

 

「いや、なんとなくだけど…こいつは危険じゃ無い。むしろ…今のこいつは俺たちの味方になった。お前とパーティを結成した時と同じように、この目の前の人形と、魂の繋がり的なものが芽生えた気がするんだ。」

 

「…テイム成功、ということですか。」

 

「あぁ。『オイラは失敗作、ご主人も、骨のおじさんも、これからよろしくな』的なことを言おうとしてるっぽいな。」

 

「おじさっ…!?いや、まぁいいか。考えていることが分かるんですか?テイマーの基礎スキルに似ているな…」

 

モモンガはカルカンと同時に取り出した器具で目の前の人形が敵でないことを確認したのか、骨の指で人形の頭を撫でている。

くすぐったそうに身を捩らせる人形の様子は、人間のそれと比べても違和感は無かった。

 

「たしかに、パーティメンバーにしか使えないアイテムも使える…まぁ、この世界に来て誰にでも使えるようになっただけかも知れませんが。そのほかの探知魔法でも特に問題はない。…マイケルさん、これを使ってみてください。」

 

と言って、指輪をモモンガは差し出す。

 

「テイムモンスターと視界を同調できる指輪です。これが使えるなら確定でしょう。」

 

「おぉ、やってみるわ…。…出来るな、これ。じゃあ本当に安心、ってことか。」

 

指輪の力を引き出し、マイケルが効果の発動が可能であることを確認する。

指輪をモモンガに返そうとしたが、モモンガにそのまま持っているようにと促された。

 

「…OKわかったよ。じゃあこれからよろしくな…えぇと、こいつの名前どうしようか。」

 

「名付けですか…それなら」

 

「少し待ってくれ、予感だが、お前のネーミングセンスは壊滅している気がする。」

 

「失礼な!」

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

「いやぁ、案内してくれて助かるぜ、ドーラ。ここら一体をしばらく歩き回ってたから出口を知ってる、ってのは最高だな。」

 

マイケルの背負うバックパックから上半身を覗かせる人形が、マイケルに自分の知っている出口の方向を伝える。

空間も徐々にパイプの数が増し、狭まる中でテイムした人形がたまたま出口を知っていたのは僥倖だった。

 

「いやぁ、いいと思ったんですけどね…ドルスケって名前。」

 

「いやそれはない。俺の付けたドーラって名前も大概だが、間違いなくその($)目当てにカジノに入り浸ってそうな名前よりはマシだ。」

 

ドーラも頭をブンブンと振り、肯定の意を必死に示している。

 

「…いいですよ、私にネーミングセンスがないのは知ってましたし!」

 

徐々に温度が上がってきた空間を進む。

とはいえ、今までと違い、明確に目的地がある分、足取りも軽い。

 

「前方、敵一体。推定、ハウンド。俺がやる」

 

「了解です。」

 

セミオートに切り替えられたアサルトライフルから放たれた弾丸が、正確にハウンドの脳天を貫き、絶命させる。

まだこの空間にたどり着いて1ヶ月も経っていないが、いつの間にやらこの空間に順応した放浪者の姿がそこにはあった。もちろんその側には骨の大魔法使いの姿も。

 

「…こうしていると、ユグドラシルでボスのレア泥狙いでダンジョンアタックを繰り返したあの頃を思い出すなぁ。」

 

ぼそっ、とモモンガが呟いた。

 

「で、周回を続けて慣れた頃に限ってトラップ踏み抜くんだよな」

 

「…此処ではやらかさないでくださいよ!?」

 

そんなフラグのような会話をしていながらも、そのまま大したエンティティにも会わずに、目的地まで辿り着いた。

魔法での感知に、危なそうな場所は霊体系のアンデッドに先行させるを徹底しているのだから、当然ではあるが。

 

迷宮のように複雑な通路を、ドーラの案内に従って進む。

パイプの量はさらに増し、ついにモモンガの頭と天井の間の隙間が精霊髑髏一体分にも満たなくなった頃だろうか。

パイプだらけだった壁面が突如として変わり、オフィスビル風のエレベーターホールのような空間へと到達した。

 

あ゛あ゛あ゛!やっと着いた!おかげで漸くこの焦熱地獄から抜けられる!」

 

「…この、オフィスビル風のエレベーターからいけるのが、Level 4『The Abandoned Office』 。今回の目的地、という訳ですね。…今まで、一度もほかの放浪者には会いませんでしたが、本当に他の人間がいる、んですよね?」

 

「あぁ、情報が確かなら他のレベルと比べて見つけやすい大規模な集団が幾つもある…はずだ、ぜ?」

 

と、このタイミングでドーラがマイケルの頭をぽかぽかと叩き、なにかを伝える。

 

「『その骸骨の見た目で、他の放浪者に出会って、撃ち殺されないか…』、だって?あ、そういえば」

 

「…あまりにも馴染んでいてすっかり忘れてました。」

 

骸骨の赤い瞳がチカチカと点滅する。

顎を触りながら何かを思案した後、本当に嫌そうな雰囲気で、モモンガは独特の雰囲気の仮面を取り出した。

 

「あー、一応その下に幻術的な何かで顔作れたりしないか?ウォールマスクって言う、被った人間を攻撃的な狂人に変えるオブジェクトがあるから、仮面を外さないでいると怪しまれるからな、疑われたら一応仮面を外せるようにはしておいてくれ。」

 

「あー、そんなのもあるんですね…分かりました。一応低位ですが幻術は使えます。」

 

仮面を被り、骨が剥き出しの腕は小手で隠す。

 

「『嫉妬する者たちのマスク』…クソ運営がクリスマスイブにログインしてたプレイヤーたちに配布した曰く付きの仮面です。非リアはこれでも付けて嫉妬してろとでも言うんですかねあのクソ運営は…!しかも特殊効果とかは一切ないですし。」

 

特殊効果の無いはずのマスク。しかし、その背景を聞いた後だと、その背後に嫉妬の炎が燃え上がっている様子を幻視してしまう。

 

「すげえ事するなその運営、クリスマス特別ログインボーナスでそれって最高にcoolな運営だな。」

 

「ユグドラシルの運営ですから。ローブは…まぁ、コスプレイベント帰りにこの世界に来ちゃったってことで誤魔化すしか無さそうですね。ドーラは…実際に使役されてる実例のあるエンティティですしまぁ大丈夫…なんですよね?」

 

「あぁ、そう言う例はそこそこあるらしいからな。」

 

ドーラはバックパックから顔をひょっこりと覗かせて手を振る。

 

「さて、出口は見つかった、変装も終わった。これで準備万端。」

 

ポーチの中身や、銃器の調子、バックパックの中身を再度確認し、軽く服についた煤を払った後、マイケルは伸びをする用に立ち上がる。

 

「魔法でエレベーターを調べましたが、直接的な罠はありませんでした。行き先が予想していたレベルと違ったら困るので、動死体に先行させて見ましたが、即死したりはしてないので致命的なレベルである確率は低いです。距離の問題で視界共有は出来ませんでしたが。」

 

「おー、やっぱ魔法って便利だな、俺も使えねえかなぁ…ま、魔力なんてもん持ってないから無理か。じゃあ、行こうぜ。Level 4『The Abandoned Office』へ!」

 

おー、と叫んでいるような様子でドーラが腕を天に突き出し、それに釣られてモモンガとマイケルの2人も腕を突き出す。

 

「あー、後モモンガ…感謝してるぜ。お前がいなきゃ此処までこんなに順調に来れなかった。これからも、よろしくたのむぜ」

 

「…私も、本当に楽しかったから、お互い様ですよ。これからも、よろしくお願いします!」

 

握り拳をとん、とぶつけ合う。

超越者と人間、そして新たに加わった人形の奇妙な旅路。

互いの存在を確認するように視線を交わした後、2人と一体は目の前のエレベーターへと乗り込んだ。

 

ごぉ、とワイヤーがかごを吊り上げる音が密室に響き、エレベーターは急速な上昇を開始した。

 

 






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此処でチュートリアル終了、的な感じです。ここからが本当のバックルームです。



今回のエンティティ
Entity 34 - "Dollface"

http://backrooms-wiki.wikidot.com/entity-34
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