少し短めです
カツン、カツンとアスファルトを叩く硬質な音がする。
地面はひび割れ、周囲を囲うのは廃墟同然の街並み。
人間だけがいなくなってしまった後の街は、こんな感じになるのだろうか、と益体もないことが頭に浮かぶ。
2人と一体が、並んで崩壊しかコンクリートのジャングルを歩いていた。
Level11。ほんの少し前までは、『無限の都市』が続いている筈だったセーフゾーンは、今や全くの別物へと姿を変えてしまっていた。
「情報通り、元々のlevel11とは変わっちまってるな。」
「アーコロジー外周部の、さらに外側にある放棄された都市群と似た雰囲気があるな…」
枯れた街路樹の枝が、風に吹かれ、カラカラと物悲しい声を上げる。
自分たち以外に、誰もいない街を歩く。
「雑草の一本すら生えてねえ、どうなってるんだここ?」
「探知範囲を広げてみても、一切の生態反応はないですね…《妖精女王の祝福》も不発。」
モモンガの手から現れた小さな妖精は、儚い光を残して消える。
「…なんとなくだが、元々ここにいた奴らは全員死んじまったんじゃねえか、そんな気がする。このまま進んだところでかつてのlevel11に辿り着けるとは思えねえ。道があまりにも狂いすぎてる。」
「ところどころ重力もおかしいところもありますね…ビルの壁からビルが生えてます。バグり散らかしてますね。それに、食料はおろか、植物一つない。」
「じゃあなんで呼吸できてるんだだとか疑問は残るが…」
──ここ、空間そのものがもう死んでる。
より建物が多く、高くなってゆく方向へ歩いてゆく。
密度が増すたびに、都市は現実感を失ってゆく。美意識や、生活感のかけらもない枯死した街を進む。
進めば進むほど、妙な圧迫感のような、焦燥感のような言いようの知れない悪感情が増す。
ふと後ろを振り返るが、何もいない。
「気づきましたか?マイケルさん」
モモンガが声をひそめながら言う。
「あぁ、もちろん。『何か』に見られてるな。」
──僕は、何も感じないけど。
「ドーラは感じてないっぽいな…」
胸元から双眼鏡を取り出し、視線を感じた方向を見るが、何もいない。
モモンガも、魔法を多数使い視線の主を探知しようとするが、何も見つからない。
「一応、専門職じゃないプレイヤーなら見つけられるレベルの探知はしてみたのですが…何もいない。物理的、魔法的アプローチでも見つからない…何か、専門職レベルで隠密に特化した存在がいる?」
(でも、だとしたら、視線を感じるのはおかしい、仮にそこまで優れているのなら気づかれないことなど容易い筈…)
脳裏には、『見つからなければどうということもない!』と豪語し、その装甲を極限まで削って火力に振った友人の忍者の姿が浮かぶ。
(時代に関わらず、人間が、それもゲームの世界から落ちてきてるなら、ひょっとしたら会えるかも…いや、こんな所には落ちてこないに越したことはない、ですね。ですね…)
その指には、未だに既に意味を失った心臓のように赤い宝石が蠢いていた。
「ちょっと考えてみたんだが、あれじゃねえか?このレベルのエフェクトとか。『誰かに見られてる』と感じるようにして、精神を圧迫して、判断力を鈍らせる、とか。」
「あ゛ー、ありそうですね。でも、本当に精神的影響なら、アンデッドの種族的特性で無効化される筈なんですよね…まぁ、効果が若干変わってる気もしますが。」
「というと?」
「今までのレベルでも、不安を感じるようなことはあったんですよね…それが心因性のもまだしも、フィールドエフェクト由来なら、特性が機能していないことになるんです。」
「まぁ、ゲームと現実じゃだいぶ変わってるだろうし、変質しててもおかしくはないわな。」
話しながらも、双眼鏡を使って周囲を見渡すが、特に何かこちらを見ているような存在を見つけることはできない。
「あー、くそ。多分いないんだろうな、視線の主とかは。でも見られてる感覚は消えねえ!
「私はそこまでではないですけど、見られてる、って感覚はあまりいいものではないですね。」
──多分、この空間の効果なんだと思う。『人の心』に直接影響するような。…だから、僕は大丈夫なんだと思う。
苛立たしげに、一本足を踏み出した途端、突如として頭上から、何かが折れるような、嫌な音がした。
ぱらり、と頭に何かが当たる。
「…あ、砂…」
頭上を見上げた瞬間、マイケルはすぐさまドーラを抱き上げ、そのあと弾かれたように後ろに跳び、叫ぶ。
「モモンガ、避けろ!ビルが落下してくる!クソ、こんな違法建築したら崩れるに決まってるだろ!」
ビルの最上階から下数階層が分裂し、轟音を立てながら大質量の隕石となって地上へ一直線に落下する。
間違いなくまともな人間が食らったら即死する圧倒的質量の暴力。
エンティティとはまた違った意味で命の危機を感じる事態に、逆に思考がクリアになる。
このまま走っても落下圏からの離脱は不可、だったら。
「モモンガっ!」
「マイケルさん、側へ!《魔法三重化・骸骨壁》《力の聖域》《魔法三重最強化・核……》」
モモンガが攻撃魔法で迎撃しようとした瞬間、マイケルの腕の中からドーラが勢いよく飛び出し、そのまま落下してくる瓦礫目掛けて跳躍する。
「ちょ、ドーラ!?」
──任せて、この程度、問題ない。
ドーラの、柔らかそうな腕が瓦礫に触れた瞬間、自身の体の数百倍はあろうビルの外壁が一瞬にして砕け散り、モモンガの手によって形成された壁に、既に小石ほどの大きさへ粉砕された瓦礫が落下してくる。
──ふぅ。
「ちょ、ドーラ…ドーラさん!?というかモモンガ今『nuclear』って言いかけてなかったか!?え、核!?」
混乱したのか、思わず敬語でマイケルが叫ぶ。
「き、気のせいですよ気のせい。にしても…跳躍力、火力…レベル50の純戦士職と同じぐらいはあるぞ…」
一瞬、誤魔化すようにモモンガの目が点滅した気がした。
──パイプが邪魔で、力が出せなかったあそことは違って、ここは広いから。これでも、弱い方だけどね…
「…なぁ、モモンガ。ちなみに、あの瓦礫、あのまま食らってたらどうなってた?」
「魔法で十分防げてたとは思いますが、防御魔法が間に合わなかったら、マイケルさんはまず間違いなく即死でしょうね。」
「oh、まじかよ…助かったぜ、ドーラ。くそ、いきなりなんなんだ、何かのトラップか?」
あたりを見渡すが、誰もいない。
空を見上げても、鳩の群れが空を飛んでいるだけだ。
「クソ、モモンガ。何かいたか?」
「いえ、何も………」
「ドーラ、お前は何か見つけたか?」
何も、と言った様子で首を振る。
誰かが悪意を持って罠を仕掛けたわけでなく、ただただ経年劣化でビルが崩壊しただけなのか。
(だったら今まで歩いてきた道は、もっと瓦礫に覆われててもおかしくねえと思うんだがな…)
落ちてきた瓦礫を拾うが、素人目には特におかしな点があるようには思えない。
だが、何かが引っかかる。
「なぁ、モモンガ───
いや待て。
何かがおかしい。
「鳩?いや待てここにはさっきまで生き物はいなかった筈…level11…鳩…不味い、エンティティだ!」
気づいた時には遅かった。
頭が、靄に包まれたように急にぼんやりとする。
(あ、まず…くそッ!)
二の腕をナイフで切りつけ、その痛みで無理矢理意識を覚醒させる。
ズキズキとした痛みで靄が晴れる。
「おいモモンガ!大丈夫か?………モモンガ?」
今までにないようなフラフラとした足取りで、鳩の群れへと歩んでいく、モモンガの姿を目撃する。
ぶつぶつと、魘されるように呟きながら。
「ペロロンチーノさん…?あぁ、ここにいたんですね」
フラフラと、幽鬼のような足取りで。
ある男は、デスクの前に座ると、端末を起動し、それを目の前のデスクトップPCに接続する。
「なるほど…null、voidでの封じ込め作戦も失敗。現実世界への執心を利用した『hope』への追放も失敗、かの存在は希望を抱いているのではなく、別の感情で動いている、か…仮にあの化け物が外へ放たれたとして、外の存在はあれをなんとかできるだろうか?いや、無理だろうな…」
報告書らしきものを読み進めながら、男は一人零す。
「はは、level532の神、そしてking of normalityとの突発的な邂逅による三つ巴の戦い、か。最終的に神は倒され、王も撤退したと、かの存在とはここまでなのか…」
そして、最後の行に記された言葉を見、ブラウザを閉じる。
「あぁ、わかっているさ。お前たちの犠牲は無駄にはしないよ。」
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今回行ったlevel
https://backrooms.fandom.com/wiki/Level_11