某ゾンビゲーに夢中になって遅れました。申し訳ないです。
「……可哀そうに、眠れないのですね」
「──っ!? あ、あなたは……!」
扉を蹴破りコツコツと足音を鳴らし、暗闇の廊下から常夜灯に照らされたのは浦和ハナコだった。
「どうしてあなたがここに……!?」
疑問を送る形にはなっているものの、ナギサの脳内は至って冷静であり、概ねの察しは付いていた。これはあくまでも時間稼ぎ、問答の合間にこの状況を切り抜ける最適解を探る方向へシフトしていた。
「それはこのセーフハウスをどうやって知ったのか、という意味ですか? それはもちろん、全て把握しているからですよ。合計87個のセーフハウス、そしてそのローテーションまで……ふふ♡」
「なっ……!?」
時間稼ぎのつもりで振った話題、その返答は想像以上に驚愕的で信じ難いものではあったが、嘘だと断言することは出来なかった。いや、彼女ならば全く不思議ではない。
そもそもナギサは補習授業部の中では、ハナコを一番に警戒していた。ティーパーティーの候補に挙がる程の明晰な頭脳を持ち合わせながらも、2年生に進級してからわざと成績不振のフリをし、更には突如として如実に表れたトリニティどころか、キヴォトスでも類を見ない変態性。
人は理解出来ないものは本能的に恐怖する。
動機が全く読めないハナコはまさしくそれだった。
「動くな」
周り巡るナギサの思考を遮るよう低く端的に発し、カチャリと銃口を突きつけるガスマスクを被った少女。
「白洲アズサさん……!?」
「あぁ、もちろんここまでの間に警護の方々は全員片付けさせていただきました。だからこそこうやって堂々と来たわけですが」
裏切り者は2人……予想だにしていなかった。
密かに配備していた警護を倒し、堂々と正面から侵入してきたハナコを囮に、背後へ回り込む……熟達したその動きには、一切の無駄が無かった。
完全に詰みだ。
こうなってしまったからにはもう、ナギサが出来ることは1つだけ。
「……っ! ナズサ、逃げなさい!」
自分よりも高い身体能力を持ち、逃げ延びられる可能性が最も高く、そして大切な妹であるナズサを逃がす為、撃たれるのも覚悟の上で胸元に忍ばせていた拳銃を取り出す。
実戦で使うのは初めてだが、最低限の訓練はしてきた。少しだけでも時間を稼ごうと構えて──
「…………え?」
掲げた腕に小さな手が優しく添えられ、拳銃をゆっくりと下ろさせられる。
錆びついたロボットのように、ぎこちなく右側へと顔を向けるナギサ。
その先は……黒いアイマスクを被ったナズサの姿が──片手でアイマスクを外し微笑む。
「ナ、ズサ……?」
何をしてるの?……その言葉は出なかった。
この状況下での、ナズサの笑みと行動、余裕さを鑑みた答えは自ずと1つしか出ない。
ずっと裏で糸を引いていたのは、妹であるナズサ……そんな最悪の想定外がナギサの頭を過る──
「あなたが……?」
「お姉ちゃん、違うよ。私なんか下っ端も下っ端……ですよね? ハナコ先輩?」
それは否定された……しかし安心は出来ない。更なる衝撃と最悪がナギサを襲う。
「……ふふっ、はい。単純な思考回路ですねぇ♡ 私もアズサちゃんもナズサちゃんも、ただの駒に過ぎませんよ。指揮官は別にいます」
「……っ!? それは、誰ですか……!」
トリニティの女傑であるハナコ、高い戦闘能力を保有するアズサ、そしてナズサを手中に収める恐るべき指揮官。
その存在を明かす前にハナコはナギサに問う。
ここまでやる必要があったのか?
それはもちろん、居るかも分からないスパイを追い込む為に、疑わしき者を強制的に退学する措置を作り、シャーレの先生まで巻き込んだことだ。
「最初から怪しかった私や、アズサちゃんは仕方ありません。ですが……ヒフミちゃんとコハルちゃんに対しては、あんまりだと思いませんか?」
大切な友達であったヒフミ。彼女も例に漏れず追い込み傷つけた。
コハルに関しては完全に無実である。ナギサが疑っていた正義実現委員会のハスミへの牽制の為、後輩であるコハルを人質のような形で補習授業部へ入れさせた。
ナズサだけが特別だっただけだ。
ずっと逃げてきた──自身の行いと向き合わされる日が来た。
「……そう、ですね。ヒフミさんには悪い事をしてしまいました……」
それでも、と自身に言い聞かせるように続ける。
「ですが、後悔はしていません。全ては大義のため。確かに彼女との間柄だけは、守れればと思っていましたが……私は……」
正面に立つハナコを睨みつける。
「……ふふっ♡」
そんなナギサの視線を意にも介さないように微笑むハナコ。
「では改めて私たちの指揮官からナギサさんへ、メッセージをお伝えしますね」
本能が警鐘を鳴らしているが、それでもハナコが紡ぐ言葉に耳が勝手に傾いてしまう。
これ程までに用意周到に、ナズサにまで手を出していた指揮官の言葉を……。
「『あはは……えっと、それなりに楽しかったですよ。ナギサ様とのお友達ごっこ』……とのことです」
「──は……? そ、へ? ……ま、まさか……!?」
ハナコからの伝言。その口調は寵愛していた
その真実は耐え難いものであり、常人なら拒んでしまうものだ。しかし、だてにナギサはティーパーティーのホストをやっていない。持ち前の頭の回転の速さから嫌でも、瞬時に自然と辻褄を合わせてしまう。
ありえないとどこかで信じていた
「──あ、あぁ……」
親愛なる友と妹の裏切り、幸せに感じていた友達との時間は、単なるごっこ遊びに過ぎなかった……。
それらの情報を脳が処理した瞬間、視界が滲み自分すらも聞いたことない情けない声が喉から漏れていく。
それに呼応するように左手に携えていたティーカップが割れ、ナギサの意識は遠のいていった。
校内を徘徊しているアリウス生徒に発見されない為、隠密行動を徹底しながら屋外へ出たハナコ、アズサ、ナズサ。
肝心の要人であるナギサは、ナズサが背負っていた。
「いやーまさか卒倒するとは。アズサ先輩が気絶させるまでもなかったね」
ほぼ同じ体重のナギサを背負いながら、かなりの距離を走っても汗一つ流していないナズサが、先程のやり取りを掘り起こし笑う。
その体力の底知らずさを示す余裕さは、訓練してきたアズサも感心するほどだった。
「ナズサちゃん、ナイスファインプレーでした♡」
「お褒めに預り至極光栄です」
「……ところで、さっきのあの最後のセリフ、必要だった?」
事前の計画では、直ぐにアズサが撃って気絶させる予定だったが……。
「あぁ、あれはヒフミちゃんの頑張りの分、勝手な仕返しと言いますか……ちょっとくらいはショックを受けてもらおうかと」
「フヒヒ……お姉ちゃんのあんな声と顔、初めてだったなぁ……」
ささやかなプレゼントを送り、ニヤニヤと笑うハナコとナズサ。
特にナズサは恍惚としていた。更に吊り上がった口端からは涎が垂れ、件の被害者を力強く抱き、背負う姿は完全に通報案件だった。
そんなナズサの一面、見てはいけないものを見たアズサに悪寒が走る。ナズサと一緒に居ると時たま発生するものだ。こういった場合は、すぐさま撤退するか話題を逸らすかに限る。
「ナ、ナギサは大丈夫? 途中で目覚める可能性はない?」
「あぁ。アズサ先輩、それは心配ご無用です。もしも目を覚ましたら私が撃って気絶させるんで」
「そ、そうか……」
補習授業部の前では気を使い、本人は隠しているつもりではあるが、ナズサは姉思いを通り越してシスコンの域に達している。それは補習授業部に限らず、周知の事実であった。
しかしながら得意げにサムズアップし、姉への躊躇いが一切見えないナズサに、何とも言えなくなるアズサ。いや確かに躊躇われて、そのまま助けを呼ばれたりしたら困るが。
「そういえばナズサは何も知らなかったのだろう? もしかしたら私たちが本当に襲撃しにきた、とは思わなかったのか?」
そう、ナギサ襲撃の話はナズサには一切届いていない筈だ。にも関わらずいきなり押しかけた自分達に、阿吽の呼吸で合わせてくれたナズサ。もちろんハナコもアズサも、ナズサなら話せば分かってくれると信じてはいたが、まさか何も言わずとも察してもらえるとは思ってなかった。
「……ははは。それはありえないですよ」
一瞬言葉に詰まったが、すぐさま断言するナズサ。
その確信は一体?とアズサが聞くも、適当にはぐらかさてしまう。
ただ、その薄く笑う横顔には翳りが滲んでいた。
「……じゃあ一旦ここで。後でまた、合流地点で会おう。ナズサはさっき言ったセーフハウスで待機してて」
そして、チェックポイントにて陽動の為にアズサとハナコ、ナギサとナズサで別れる。
本来ならハナコがナギサを避難させる予定だったが、その役目は協力してくれたナズサになった。
***
「……んふっ……んふふふふふふ」
周囲に誰もいないことが確認できた途端、堪えていた笑いが吹き出す。
「むふふふふ、ふひひひひ」
『あはは……えっと、それなりに楽しかったですよ。ナギサ様とのお友達ごっこ』
あぁ、ヤバい。何度も脳内再生してしまう……。
なんて酷いことを言うんだ!
ヒフミ元帥とハナコ先輩に人の心はないんか!?
まぁ厳密にはヒフミ元帥は一言も言っていないし、思ってもいないのだが。いわゆる言ってないセリフってやつだ。
ホント、みんなの前でニチャらなかった俺を褒めたい。
よく頑張った俺の表情筋、えらい。
それにしても……ナギサ様の反応良かったなぁ、想像の100倍可愛かった……えがったえがった……。
拍子抜けした間抜け顔からの現実を受け入れられない表情への乱高下、しかし本能では否定しても残酷な程に冷静な理性が正確に情報を飲んでしまうんだよねうんうん分かる分かる。
「クヒュっ、くひひひひひひっ……」
やばい、完全に決壊して止められない。
もー本当に大好きですナギサ様因果応報と言ったら言葉が強いかもしれないけど仕方ないよね、疑心暗鬼に憑りつかれて色々な人達を巻き込んじゃったもんね。大丈夫みんな許してくれるし私も一緒に謝るからさだからもっとその御顔を見せておくれ。
『……は……? そ、へ? ……ま、まさか……!?』
『──あ、あぁ……』
「うへへへへへ……」
原作ではアズサに撃たれて気絶してしまったので、分からなかったナギサ様の反応。
どんな事件が発生しても冷静に受け止め、最適な対処を行うナギサ様が、固まり困惑しそして半泣きになったあの顔……。
────あ、ヤバ、クる……。
ふぅ……。
大変失礼いたしました。桐藤ナズサです。
もはや説明は不要でしょう。遂にナギサ様が脳を破壊される歴史的瞬間が訪れたのです。
良かった……ここまで長かった……。
しかし、まだ終わりではありません。ここからも目が離せないものばかりが続きます。
そんな訳で俺は現在、合流地点であり決戦の地である体育館、その天窓に張り付いて覗き込み、ミカがアリウス生徒を率いて登場するシーンを待ち構えてます。
ゲームでもあったアリウス生徒をバックに、人差し指をしーっと立てるスチルが表れたシーンは絶対に見逃せない。
ナギサ様を安置に置いて急いで駆けつけて、時間的にギリギリだったがそろそろくるはず……。
おほふっ。ふ、ふつくしい……。
ティーパーティーの象徴である制服と、自慢の桜色の髪をなびかせニヤリと笑うミカ。
みんな……特に先生は驚いて声も出ていない様子ですねぇ。俺も初見時はかなり衝撃を受けた記憶がありますよ。
そして悪役らしく企みを明かすミカ、所々冗談を交えたり無邪気に笑う姿が愛くるしい。
らしくなく悪者ぶっちゃってさぁ……。
下手だなぁ。ミカは良い子なんだよ。本当の悪ってのは最後まで誰にもバレず、ずっと美味しい思いをするもんなんだぜ?……ん?どこか心当たりが……ま、いっか。
そんなミカはセイアの言っていたことだが、後先の事を何も考えずに衝動的で、欲張りで、時に自傷的な
今回の事件の発端も元を辿れば、ミカがアリウス生徒と仲良く手を組んでわだかまりをなくしたい、という呆れる程におめでたく彼女らしい優しい思いから始まった。
それがいつの間にか、わるーい大人の陰謀と育まれた怨嗟、そして彼女の──子供らしい些細なものによって酷く歪曲し、ミカはその中心に立たされてしまった。
だからこそやっぱりね、ミカは先生とくっついて欲しいんですよ。
いや、理解してますよ?なんならこの骨身に染み付いています。この世界には名前を挙げたらキリがない程の、魅力的な強豪が居てその道は苦難を極める事を。恐らくナギサ様の脳を破壊するより、1000倍は難しいでしょう。
俺はこの世界の人間が例外なく全員大好きだ。それでも長い付き合いのミカを贔屓して応援しちゃうのは許して欲しい。
およ?なんだかズンズンと、地鳴りのような足音が聞こえて────あ!来た!シスターフッドだ!かっけぇ~。
“覚悟”さんことサクラコを筆頭にマリーやヒナタ、数多のシスター達が足並みを揃えて行進する姿は圧巻だぁ。
遂に2章も佳境か……へっ!??ちょ、まっ、そこで爆発させな……やばっ!足が滑っ───
***
追ってきたアリウス生徒を鎮圧し一息ついたのも束の間、すぐさま大隊単位の増援が押し寄せ、更に正義実現委員会の動く気配も見当たらず、窮地に立たされた補習授業部。
そこに現れたのはティーパーティー聖園ミカだった。
そう名乗ったミカは、先生達が抱える当然の疑問に答えていった。
ナギサを襲撃した理由、エデン条約を阻止する理由、それは至極単純どこまでも恣意的なものだった。
『ゲヘナが心の奥底から嫌いだから』
アリウスは同じゲヘナを憎む同志、利害が一致したミカとアリウスは手を組んでおり、アズサは全ての罪を着せる生贄であった。そしてナギサを失脚させホストへ昇進し、いずれはゲヘナをキヴォトスから消し去り、穏健派のトリニティ生徒の席をアリウスで埋めると。
つまりあのプールで語っていた、ナギサが条約を軍事利用する可能性があるという話は真っ赤な嘘であった。
「ミカさん、2つ聞かせてください」
ハナコが一歩前に出る。
主導権を握っているミカは余裕綽々といった様子で、どこか上機嫌に鼻歌まで奏でていた。
「……ナズサちゃんはどこまで知っているんですか?」
「っ! ハナコ……!」
「…………」
ハナコの核心を突く質問にミカが固まる。
ミカとナズサは繋がっていた。つまりナズサはもう1人の裏切り者の可能性が高く、もしもそうならナズサが隠していた暗い翳り、その正体が掴める。
ハナコだけでなく、皆が固唾を飲みミカの答えを待つ。
「ナズちゃんは……何も知らないよ。みんなと同じで私に騙された人」
返ってきたものは否定だった。それに少し安堵する補習授業部一同。
ただ謎は深まるばかりであり、ハッキリ言ってしまうと裏切り者の方が楽ではあった。しかし、今はこれ以上考えても仕方がないとハナコは頭を振り、もう1つの質問を投げかける。
「……もう1つは、セイアちゃんを襲撃したのも、あなたの指示だったんですか?」
その質問にミカは一瞬目を見開き──一言一言を抱えるよう丁寧に答えた。
「うん、私の指示だよ。セイアちゃんってば、いつも変なことばかり言って。楽園だのなんだの、難しいことばっかり」
しかし1つ、ミカは否定した。
決してヘイローを破壊しろとは言っていない。元々は卒業まで檻に閉じ込めておくつもりだったと。
そして自虐的にミカは笑い、アズサへと追求する視線を向ける。
「セイアちゃんがあんなことになっちゃったのが、ここまで事態を大きくなったきっかけなんだよ?……そこからもう色んなことがどうしようもなくなっちゃったわけだし……ねぇ、その辺りどう思う?」
「そ、それは……」
しかしアズサが言葉に詰まった瞬間、爆発音が鳴り響いた。同時にアリウスの生徒の1人がミカへ伝令を送る。
「大聖堂からです! シスターフッドが向かってきています!」
「……っ、浦和ハナコ……!」
まさかここまでのは時間稼ぎ……!ミカは思惑に気が付くも時すでに遅し。
「……まぁ、ちょっとした約束をしましたので」
「約束……?」
「あなたは知らなくても良いことですよ、ミカさん」
「──ぐあっ!!」
「なんだこいつら!? 本当にシスターなのか!?」
扉ごと豪快に吹き飛ばし、侵入してからも攻撃の手を緩めないシスターフッド一行。
「けほっ、今日も平和と安寧が、みなさんと共にありますように……けほっ」
「す、すみません、お邪魔します……」
「シスターフッド、これまでの慣習に反することではありますが……ティーパーティーの内紛に、介入させていただきます」
先頭に立つサクラコが、傷害教唆及び傷害未遂でミカの身柄を確保すると突き付ける。
「……あはっ。流石にシスターフッドと戦うのは初めてだなー。なるほどね、これが切り札ってこと? どうやったのか知らないけど、あの子たちが何の得もなく動くはずが無いよね……? ねぇ、
「…………」
「ま、いいや。どうせホストになったら、大聖堂も掃除しようと思ってたところだし──」
ガシャンと、戦場となった体育館に爆発音とは違う、けたたましい破砕音が響き渡る。
その音の先……誰もが天井を見上げる──天窓が割れ、差し込む月光を反射し煌めく硝子の破片を紙吹雪にして、1人の少女が舞い降りてきた。
ガラスが砕け散った際とは打って変わり、猫の如く静かに、水面に散る花びらのように着地する少女。
ティーパーティーの関係者の証である制服、肩甲骨のちょうど下から伸びている純白の羽、プラチナブロンドのお団子ハーフアップ、特徴的な形状の……5.56ミリ弾の突撃銃。
「「「「ナズサ(ちゃん)(さん)!?」」」」
補習授業部だけでなくシスターフッドの面々、更にはミカまでも突然の闖入者に驚きを隠せず、この一瞬だけは全員が同じ気持ちになっていた。
「──あ」
「……ナズちゃん」
それは偶然か必然か。ナズサはミカの目の前に降り立ち、補習授業部を庇うような構図となっていた。
「ナズサ……何故君がここに?」
そう問う先生の声音は独特だった。
警戒をしつつも敵愾心は含まれておらず、優しく生徒を叱り諭すようにも聞こえる。
「……先に謝ります、すみませんでした。もう察しは付いていると思いますが」
ナズサはミカへ顔を向けたまま振り向かずに答える。
「私は始めから全部──」
「ナズちゃんは何も知らない!!」
その先を言わせまいと、駄々をこねる子供のようにミカが声を荒らげる。
「ナズちゃんは私に騙されたの!」
しかしミカが否定すればする程、その真実の信憑性が増しナズサの行動を裏付けていく。
そんな泥沼と化していることに気が付いたミカは、重く溜息をつく。
「……もう私は、行くところまで行くしかないの」
据わった眼のまま低く呟き、愛銃であるデコレーションが施された短機関銃のコッキングレバーを引く。それに合わせるようナズサも、無骨ながら真っ白に塗装された突撃銃のコッキングレバーを引いた。
ガスマスクを被ったアリウス生徒の軍勢を率いるミカと、補習授業部を背に相対するナズサ。
2人ともが純白の翼を広げ短機関銃と突撃銃、互いの得物を構える姿は不謹慎ながら、まるで聖戦を描いた絵画のようだった。
と、当のナズサがゆっくりと首だけ先生へ向ける。
「せ、先生。こんなかっこよく参上したとこ悪いんだけどさ~……私、ミカちゃんとの撃ち合いの勝率2割ぐらいだから、指揮の方よろしく頼むね……」
冷や汗を流しながら無理矢理笑顔を取り繕っているナズサ。
さっきまでの頼もしさと緊張感はどこへやら、その温度差から思わず転げそうになる一同だった。
感想、評価、ブグマ、誤字脱字報告ありがとうございます!
ちょこちょこコメント欄でナズサが邪悪呼ばわりされてるの笑う。
夢に向かってひたむきに努力している姿の一体どこが邪悪なんだ!?